第41話 〆にカード当てを
文字数 2,032文字
またウォーミングアップになっちゃうけど、まずは手先の技で見せる。コインの枚数を徐々に増やしつつ、自在に操ってみせた。
私みたいな駆け出しのアマチュアだと、ずっと練習に使ってきたコインだからこそできること。お客さんから日本の小さめの硬貨を渡されたり、同じコインでもちょっと手触りが違っていたら、ミスが増えちゃう。
最後はコインを消して、代わりに五百円玉二枚を出してみせた。ここ、本当ならもっとたくさん出したいんだよね。二十枚出して、そこから一万円札に変化させるようにしたいのだけれど、今の私のお小遣いでは、千円札が精一杯。五百円玉を二十枚も貯めるのだって大変だし。
という風な舞台裏があって、二枚の五百円玉をみんなに渡して、種も仕掛けもないことを確認してもらう。それらを返してもらって、ここで千円札に変化。この辺りの仕掛けを手元に持って来るのは、みんなが五百円硬貨を調べている内に、こっそりと。
さらに顔の前で、千円札を両手で持ち、小さく折り畳んでいてまた広げると一万円札に――と行きたいところだけど、練習を含めて一万円札を何度も畳んだり広げたりして、もしものことがあったら困るので、広げるとおもちゃの百万円札になってる。
「凄いけど、価値が下がってるような」
朱美ちゃんらしいつっこみに、他のみんなから笑い声が起きた。いい感じに回っている。
「それじゃ、せめて元通りにしなくちゃね」
おもちゃの百万円札を折り畳み、また広げていくと千円札に戻っておしまい。まあ、お金のマジックにしてはちょっぴり寂しいけど、おこづかい的にぎりぎりなので。シュウさんがこれと同じルーティーンで、最後に戻すところはフラッシュコットンを使って派手にやるのを見たことがある。フラッシュコットンていうのは、綿状の物質で、テレビのマジックショーでもお馴染みだと思う。ライターなどで着火すると派手に火が出て一瞬で消える。そして、結構お高い。
奇術道具に掛かるお金のことを愚痴っていても始まらない。
最後は一番長くやっている、トランプを使ったカードマジックを。
これもまた本音を言うと、最初にカードを出すところから華麗にやりたい願望がある。だけど、現在のところコインなら何とかなるんだけれど、カードはまだまだ。なので、ごく当たり前に、ケースを手に取って、蓋を開けて中身を引っ張り出す。
扇の形に開いて、数字やマークがばらばらであると示した――つもりだったんだけれど、「見にくい!」って森君の声が飛んできた。
距離の問題もあるにはあるけれども、それ以上に窓からの光の反射具合がよくないみたいだ。
と考えていたところへ、
「こら、森」
と先生の声がした。最初、自分が呼ばれたのかと焦ったけれども、森君のことだった。
「前に注意しただろ。『見にくい』じゃなくて『見えにくい』だ」
「あ、忘れてた。佐倉さん、ごめんなー」
いちいち謝られると、意識してしまう。何がって、先生が「見にくい」を使うなと言ったのは、「醜い」と同じ音になるという理由からだ。一時、この二重の意味を使って、男子の一部が女子をからかったりばかにしたりしたので、先生も注意するようになったと言ういきさつがあるの。
「気にしてないよー。今日の私は全然みにくくない自信があるもん!」
言い切って、その勢いのまま、カードマジックに突入。
「見えにくければ、近くに来て、見て行ってください。というよりも、私の方から近付けばいいか」
カードとケースを持って、教壇を降りてから最前列の机を前に立つ。すぐにみんなが集まりちょっとした鈴なり状態になる。先生だけは一歩退いたところに立ち、腕組みして観ている。私は机の左手前にケースだけ置いた。残るカードを手に、サークルのみんなを見渡す。
「折角だから、手伝ってもらおうかな。この中でシャッフルが得意そうなのは……」
つちりんと目が合った。
「占いで慣れてるんじゃない?」
「え? ええ、まあ」
「それじゃ、気が済むまで切ってみて」
トランプ一組を渡されたつちりんは、机の表面にトランプをとんとんと打ち付けて縁を揃えた。そして中程で二つに分けると、リフルシャッフル。続いてヒンズーシャッフルをした。どちらもスピードがあるし、正確だ。
その二種類のシャッフルの繰り返しが三回ぐらい続いた。
「気が済むまでと言われると、永遠にやっちゃいそうだから、誰かストップかけて~」
「じゃ、ストップ」
陽子ちゃんが即座に反応した。つちりんの手は、ヒンズーシャッフルの途中で止まっている。
「その途中のは、行っちゃっていいでしょ」
朱美ちゃんの言葉に従い、右手で持っていたカードを左の束に重ねるつちりん。
「ありがとう。それではそのカードの山を机の真ん中に置いてね。次は……マジックショーに行けなかったもう一人、陽子ちゃんにお願いしようかな」
「いいよ。何をすれば」
つづく
私みたいな駆け出しのアマチュアだと、ずっと練習に使ってきたコインだからこそできること。お客さんから日本の小さめの硬貨を渡されたり、同じコインでもちょっと手触りが違っていたら、ミスが増えちゃう。
最後はコインを消して、代わりに五百円玉二枚を出してみせた。ここ、本当ならもっとたくさん出したいんだよね。二十枚出して、そこから一万円札に変化させるようにしたいのだけれど、今の私のお小遣いでは、千円札が精一杯。五百円玉を二十枚も貯めるのだって大変だし。
という風な舞台裏があって、二枚の五百円玉をみんなに渡して、種も仕掛けもないことを確認してもらう。それらを返してもらって、ここで千円札に変化。この辺りの仕掛けを手元に持って来るのは、みんなが五百円硬貨を調べている内に、こっそりと。
さらに顔の前で、千円札を両手で持ち、小さく折り畳んでいてまた広げると一万円札に――と行きたいところだけど、練習を含めて一万円札を何度も畳んだり広げたりして、もしものことがあったら困るので、広げるとおもちゃの百万円札になってる。
「凄いけど、価値が下がってるような」
朱美ちゃんらしいつっこみに、他のみんなから笑い声が起きた。いい感じに回っている。
「それじゃ、せめて元通りにしなくちゃね」
おもちゃの百万円札を折り畳み、また広げていくと千円札に戻っておしまい。まあ、お金のマジックにしてはちょっぴり寂しいけど、おこづかい的にぎりぎりなので。シュウさんがこれと同じルーティーンで、最後に戻すところはフラッシュコットンを使って派手にやるのを見たことがある。フラッシュコットンていうのは、綿状の物質で、テレビのマジックショーでもお馴染みだと思う。ライターなどで着火すると派手に火が出て一瞬で消える。そして、結構お高い。
奇術道具に掛かるお金のことを愚痴っていても始まらない。
最後は一番長くやっている、トランプを使ったカードマジックを。
これもまた本音を言うと、最初にカードを出すところから華麗にやりたい願望がある。だけど、現在のところコインなら何とかなるんだけれど、カードはまだまだ。なので、ごく当たり前に、ケースを手に取って、蓋を開けて中身を引っ張り出す。
扇の形に開いて、数字やマークがばらばらであると示した――つもりだったんだけれど、「見にくい!」って森君の声が飛んできた。
距離の問題もあるにはあるけれども、それ以上に窓からの光の反射具合がよくないみたいだ。
と考えていたところへ、
「こら、森」
と先生の声がした。最初、自分が呼ばれたのかと焦ったけれども、森君のことだった。
「前に注意しただろ。『見にくい』じゃなくて『見えにくい』だ」
「あ、忘れてた。佐倉さん、ごめんなー」
いちいち謝られると、意識してしまう。何がって、先生が「見にくい」を使うなと言ったのは、「醜い」と同じ音になるという理由からだ。一時、この二重の意味を使って、男子の一部が女子をからかったりばかにしたりしたので、先生も注意するようになったと言ういきさつがあるの。
「気にしてないよー。今日の私は全然みにくくない自信があるもん!」
言い切って、その勢いのまま、カードマジックに突入。
「見えにくければ、近くに来て、見て行ってください。というよりも、私の方から近付けばいいか」
カードとケースを持って、教壇を降りてから最前列の机を前に立つ。すぐにみんなが集まりちょっとした鈴なり状態になる。先生だけは一歩退いたところに立ち、腕組みして観ている。私は机の左手前にケースだけ置いた。残るカードを手に、サークルのみんなを見渡す。
「折角だから、手伝ってもらおうかな。この中でシャッフルが得意そうなのは……」
つちりんと目が合った。
「占いで慣れてるんじゃない?」
「え? ええ、まあ」
「それじゃ、気が済むまで切ってみて」
トランプ一組を渡されたつちりんは、机の表面にトランプをとんとんと打ち付けて縁を揃えた。そして中程で二つに分けると、リフルシャッフル。続いてヒンズーシャッフルをした。どちらもスピードがあるし、正確だ。
その二種類のシャッフルの繰り返しが三回ぐらい続いた。
「気が済むまでと言われると、永遠にやっちゃいそうだから、誰かストップかけて~」
「じゃ、ストップ」
陽子ちゃんが即座に反応した。つちりんの手は、ヒンズーシャッフルの途中で止まっている。
「その途中のは、行っちゃっていいでしょ」
朱美ちゃんの言葉に従い、右手で持っていたカードを左の束に重ねるつちりん。
「ありがとう。それではそのカードの山を机の真ん中に置いてね。次は……マジックショーに行けなかったもう一人、陽子ちゃんにお願いしようかな」
「いいよ。何をすれば」
つづく