第109話 三人の容疑者

文字数 1,269文字

「モリ探偵師。口元がむずむずしているようだけれど、質疑応答はさっきもう解禁したつもりだから、遠慮なくどうぞ。僕もこの辺りから議論したい」
 メインは揉み手をしながら言った。話の途中での質問を禁じていたのは何だったんだと思えるくらいに、議論が楽しみな様子が窺える。
 とにもかくにもメインからの許可が出たことだし、宗平は遠慮なく口を開く。
「あ、じゃあ、基本的なことなんだろうけど、みんなお城にいて当然の人達なのかな。時間帯から考えて、全員城で暮らしていることになりそうだ。まあ、王女様は当然だとして」
「馭者のフィリポは、公用馬車の操縦を担う優秀な男だ。王宮内ではないが、敷地内の公舎に住まいが与えられている。
 カークランは役人の秘書で、役所と王族との連絡役を任じられている。ために王宮内で寝泊まりする部屋が与えられている」
「なるほどー、理解できたよ。そんで、三人はそれぞれなんて言ってるんだろう? 夜遅くに、普段は使わない魔法を使った理由を。当然聞いてるよね」
「ああ、無論。そのことに関しては、先にマギー王女から言及するよ。王女は拒否権を発動した」
「拒否権?」
 訝る宗平に、メインは肩をすくめて苦笑してみせた。
「いや、正式に定められた権利ではないんだ。王族に対する取り調べで、相手にだんまりを決め込まれるとどうしようもないってこと。一般の民なら、無理にでも供述させる魔法の行使が認められる場合があるんだけど、王族を含む一部の階級者には適用されないんだよ」
「ふうん。不公平ってどこにでもあるんだ」
「特権を持つだけの功績があった、と理解するほかないね」
 今回、宗平やメインが探偵師として事件の真相究明に携われるのは、王族の判断故である。にもかかわらず、王族批判とも取られかねない発言が当たり前みたいに飛び交った。
 今部屋にいる四人の中で完全に国側、王族側と言えるのはチェリー・ブラムストークだけだが、意外にも彼女がとがめ立てするようなことはなかった。
(そんだけ、メインに心酔してるってことかいな? むー、何か腹立つ)
 またまた内心穏やかでなくなる宗平。アイスクリーム、雪、氷、クーラー……と冷たい物を頭の中で思い浮かべて、冷静でいるように努力した。
「次にフィリポだが、酒をやや飲み過ぎて、悪夢を見た結果だと証言している」
「よく分からない……」
「強盗に襲われる夢を見て、思わず魔法を使ったと言うんだ」
「? まだいまいち……。強盗に襲われて何で壁を出すのさ?」
「彼が王族の公用馬車を任されているのは、運転技術が一級品なのは言うまでもないが、フィリポの使える魔法も大きな理由になっているみたいだ。壁を作ると聞いてどんな物を想像した?」
「えっと、普通の家の塀みたいな感じかな」
「もっと巨大で、頑丈な壁だ。城壁クラスと言っていい。公用馬車が賊に襲われるような緊急事態に、フィリポはほんの数秒で壁を出して馬車を囲える。援軍が来るまで立てこもれる訳だよ」
「へー、何か凄そうだな。使用条件とかないの?」

 つづく
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登場人物紹介

佐倉萌莉《さくらもり》。小学五年生。愛称はサクラ。マジック大好き。普段はどちらかと言えば引っ込み思案。

木之元陽子《きのもとようこ》。サクラの同級生。元気印で耳年増。

不知火遥《しらぬいはるか》。同級生。本好きで寡黙。大人びて少しミステリアスなところも。

佐倉秀明《さくらしゅうめい》。高校一年生。マジックが趣味。萌莉の従兄弟で憧れ。

相田克行《あいだかつゆき》。五年五組の担任。ぼさーっとしていて、よく言えば没頭型学者風、悪く言えば居候タイプ。やる気があるのかないのか。

金田朱美《かねだあけみ》。クラスは違うがサクラの友達。宝探しが夢。

土屋善恵《つちやよしえ》。同じくサクラの友達。愛称つちりん。オカルト好きだけど現実的な面もある。

水原玲《みずはられい》。サクラの同級生。推理小説好きが高じて文芸部に。

森宗平《もりそうへい》。サクラの同級生。クイズ・パズルマニア。

内藤肇《ないとうはじめ》。サクラの同級生でクラス委員長。女子からの人気高し。

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