第95話 番長ならぬ番鳥

文字数 1,303文字

「多分、可能です」
 さらっと言ってのけるシーラ。対照的に宗平は相手の表現に引っ掛かりを覚えた。
「多分て何?」
「私が付き添うことについて、断られる理由が思い浮かばない。だが、問答無用で拒否される可能性も、ゼロとは言えません……というニュアンスを込めました」
 分かりづれー、と心の中でつっこみを入れた宗平。もちろん表面上は付き添いを頼むため、笑顔になる。自分の夢の中だとしてもこの状況は少なからず不安だが、異世界ならなおのこと。
(大人をまだ見掛けていないからな)
 宗平にとって、大人は基本的に大きな存在である。怒られたり叱られたり、怖くもあるし、守ってくれたり教えてもらったりと頼りにもなる。色んな大人がいることはもう知っているが、今いる世界で最初に対面する大人が自分と合うかどうかは重要だ。
「了解しました。とにもかくにも、お城まで行かなければ始まりません。着いてきて」
 先行するシーラはなかなか足早に見えたので、宗平は大股で歩こうと心掛けた。が、歩き出してみて違和感を覚える。
(うん? 無理に大股にしなくても大丈夫みたいだぞ? ……そういえばちょっとだけでかくなってるような)
 葉っぱの布団で目覚めたときは気付かなかったが、自分の身体が多少成長しているように思えた。比べられる物がないので何とも言えないが、目の高さがいつもより高い。
(身体の大きさが中学生ぐらいになってる? 高校ってことはないよな)
 比べる物を求めて辺りを見回すも、この世界独特の木々ばかりで、参考にならない。王宮は目と鼻の先まで迫っていたが、大きすぎて物差しには使えない。缶飲料の自動販売機でもあれば目安になるのに……。
 そこで目を付けたのが、前を行く不知火、もとい、シーラ。
 じーっと見て、頭の中にある不知火遙との比較を試みる。
(大きくなっているのは絶対に間違いない。多分、足が長くなってる。あと、外套越しでもお尻のサイズが……)
 思考が変な方向に行きそうになり、慌てて首を横に振った。その際に両目を軽くつむったものだから、前を行くシーラが立ち止まったのに気付くのが遅れてしまった。
「わっ」
 爪先に力を込め、踏ん張っての急ブレーキ。にもかかわらず、つんのめってシーラにもたれかかり――そうになったが、すんでのところでよけられた。いや、よけてくれた。
「何をしてるのですか」
 転んで両手を突いた宗平に、平板な調子の声が上から降り懸かる。
(尻に見とれてましたと言ったら、ぶっ飛ばされそう)
 手をはたき、「何でもねえ。足が滑っただけ」と答えながら起き上がる。周りに視線を巡らせると、城門の中に入ったところだった。見上げるほどの大きな門は閉じられているが、脇にある通用口は勝手に開け閉めできる上に、門番的な見張りもいない。ただ、受付係がいた。百葉箱に似た赤色の小さなスペースに窓口があって、中には止まり木が一本。
「と、鳥?」
 何と、鳥が出入りのチェックをしている。九官鳥か鸚鵡か極楽鳥かってぐらいに派手な、でもどちらかといえば深海を連想させるブルーの鳥が、かすかに揺れつつ鎮座していた。

 つづく
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登場人物紹介

佐倉萌莉《さくらもり》。小学五年生。愛称はサクラ。マジック大好き。普段はどちらかと言えば引っ込み思案。

木之元陽子《きのもとようこ》。サクラの同級生。元気印で耳年増。

不知火遥《しらぬいはるか》。同級生。本好きで寡黙。大人びて少しミステリアスなところも。

佐倉秀明《さくらしゅうめい》。高校一年生。マジックが趣味。萌莉の従兄弟で憧れ。

相田克行《あいだかつゆき》。五年五組の担任。ぼさーっとしていて、よく言えば没頭型学者風、悪く言えば居候タイプ。やる気があるのかないのか。

金田朱美《かねだあけみ》。クラスは違うがサクラの友達。宝探しが夢。

土屋善恵《つちやよしえ》。同じくサクラの友達。愛称つちりん。オカルト好きだけど現実的な面もある。

水原玲《みずはられい》。サクラの同級生。推理小説好きが高じて文芸部に。

森宗平《もりそうへい》。サクラの同級生。クイズ・パズルマニア。

内藤肇《ないとうはじめ》。サクラの同級生でクラス委員長。女子からの人気高し。

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