第257話 選抜メンバー決め
文字数 2,228文字
「先生。じゃあ……?」
「今ここでOKは出せないぞ。詳しい日時が分からないことにはな。だから、その桂崎さんという方だっけ? その人と連絡を取って、実際に宝探しに行くぞってなって、その日程が分かってから決める。それでいいかな?」
「分かりました――よね?」
私は先んじてイエスの返事をしたあと、朱美ちゃんに意思確認。
「しょうがないなー。それで手を打ちます」
こちらが譲ってあげたんだから先生感謝してね!という空気を漂わせながら、その実、結構嬉しそうな朱美ちゃん。本人にも自覚はあるみたいで、頬を両手で押さえて、にまにまし過ぎないように努力している様子が分かった。
「あの、先生。念のために聞きますけど、この日だったら空いてる、という日付はありますか? 探す日そのものは割と自由に決められるかもしれないので」
「いやー、ないな。逆に、この日だったら絶体に無理という日ならあるから。言っておこうか」
「お願いします」
書く物が欲しい、という思いが態度に出た私は、左手の平に右手で何かを書くような仕種をしていた。それに気付いた先生、手近にあったいらないプリントの裏に、“8月14、15、16日は無理”と走り書きをし、こちらに渡してくれた。
「田舎に帰って、墓参りしないといけないんだよ。併せて周辺の掃除もな」
「それは……お疲れ様です」
「ははは。疲れはするかもしれないが、苦ではない。当たり前のことだからかな。てことで、佐倉さんも金田さんも、他の部員の人達も、マジックや宝探しにのめり込むのもいいが、それだけでなく、家の人の手伝いやお墓参りもなるべくしてくれよ。あ、これ、夏休みの直前に同じことを注意事項で言うかもしれないが、ぼけたんじゃなくて分かってて言ってるんだからな」
はいはい、それこそ分かっています、だわ。
一足早い夏休みの注意事項までもらって、私達は職員室をあとにした。
それから一週間足らずが経った日曜日の朝。私は自分の家の自分の部屋で、忘れ物がないかを再確認していた。
今日このあと桂崎篤仁さんにお会いして、マジックを披露する。その上で、宝探しについての話を伺うことになった。時刻は午後三時から、場所は桂崎さんの自宅。と、ここまではよかったんだけれど、シュウさんが都合が付かなくてこられなくなってしまった。初対面のときぐらい、シュウさんに同行して欲しかったんだけどなあ。今通っている高校の教師OBだって言ってたから、共通の話題を基にして、色々とつないでくれたり、雰囲気をリラックスさせてくれたりと期待してたんだよね~。
忙しくなったのは、演劇部の手伝いのため。予想できたこととは言え、こんなにも早く影響がこっちに及んでくるなんて。もうちょっと待ってほしかった。
また、宝探しのお話を伺うと一口に言っても、場所は桂崎三さんのご自宅。どれくらいの広さなのかはもちろん知らないけれども、全員で押し掛けるのはやはり避けなくちゃいけないよね。披露するマジックの中身が全員でやらなければできないような盛大なショー仕立てならともかく、個人でできるものばかりだし。
と、いうようなわけでメンバーを選抜する必要に迫られた。一昨日、金曜日の放課後、私のクラスに七尾さん以外(七尾さんはお仕事があって早く帰らなければいけなかったし、次の日曜もスケジュールが埋まっていたので)のみんなが集まって、桂崎さん宅に出向く三人を決めたんだけど、その際にちょっぴり妙な空気になったのよね。改めて思い起こしてみると――。
誰が出向くか、いの一番に出たのは、以前に文芸部の人達に披露したときの顔ぶれでいいんじゃない?という意見。これで決めて早く帰ろうという雰囲気だったのだけど、それだと宝探しに熱心な朱美ちゃんが外れることになってしまう。
「当然、行きたいよね?」
「うん。まだ宝探しが始まるって訳じゃなくても、一刻も早く知りたい。それに、私だってマジック練習してきたんだから、人が見てるところでやってみたいしさ」
意思は硬いみたいだ。
じゃあ朱美ちゃんを入れるとして、誰を外し、誰を残すか。私は会長だし、一応、腕前はサークル内で一番だし、抜けられない。そもそもマジックの実力で判断するなら、あと一人には不知火さんを残すのが理に適っている。
「あの、いいでしょうか。反対します」
その意見に対して、不知火さん本人が穏やかに、でも早口で異議を唱えた。挙手する彼女を指名して、理由を聞いてみる。
「今出ている案だと、会長、金田さん、私と女子ばかりになります。女子のみのサークルと思われるのは、不本意ではないでしょうか」
「不本意ってほどでもないけれど」
男子のメンバーが増えて欲しいという思いは常にあるけれども、外の人からどう見られるかなんて考えたことさえなかった。全員女子と、女子の大勢の中に男子が一人って、たいして違わない気もする。
「では見方を変えます。マジシャンと聞いたら、真っ先に思い浮かべる姿形は、シルクハットに燕尾服を来たスマートな男性、ではありませんか」
「うう、そこは確かに言う通りだよね。プロのマジシャンの女性と男性の割合がいくつかは知らないけれども、少なくとも一般の人がイメージするのは、マジシャンと言えば男性というイメージがあるのは動かせない現実ってやつ」
世界には優れた女性マジシャンも大勢いるというのに、何故かしら昔からマジシャンは男性のイメージが強く、いつまで経っても変わらない。
つづく
「今ここでOKは出せないぞ。詳しい日時が分からないことにはな。だから、その桂崎さんという方だっけ? その人と連絡を取って、実際に宝探しに行くぞってなって、その日程が分かってから決める。それでいいかな?」
「分かりました――よね?」
私は先んじてイエスの返事をしたあと、朱美ちゃんに意思確認。
「しょうがないなー。それで手を打ちます」
こちらが譲ってあげたんだから先生感謝してね!という空気を漂わせながら、その実、結構嬉しそうな朱美ちゃん。本人にも自覚はあるみたいで、頬を両手で押さえて、にまにまし過ぎないように努力している様子が分かった。
「あの、先生。念のために聞きますけど、この日だったら空いてる、という日付はありますか? 探す日そのものは割と自由に決められるかもしれないので」
「いやー、ないな。逆に、この日だったら絶体に無理という日ならあるから。言っておこうか」
「お願いします」
書く物が欲しい、という思いが態度に出た私は、左手の平に右手で何かを書くような仕種をしていた。それに気付いた先生、手近にあったいらないプリントの裏に、“8月14、15、16日は無理”と走り書きをし、こちらに渡してくれた。
「田舎に帰って、墓参りしないといけないんだよ。併せて周辺の掃除もな」
「それは……お疲れ様です」
「ははは。疲れはするかもしれないが、苦ではない。当たり前のことだからかな。てことで、佐倉さんも金田さんも、他の部員の人達も、マジックや宝探しにのめり込むのもいいが、それだけでなく、家の人の手伝いやお墓参りもなるべくしてくれよ。あ、これ、夏休みの直前に同じことを注意事項で言うかもしれないが、ぼけたんじゃなくて分かってて言ってるんだからな」
はいはい、それこそ分かっています、だわ。
一足早い夏休みの注意事項までもらって、私達は職員室をあとにした。
それから一週間足らずが経った日曜日の朝。私は自分の家の自分の部屋で、忘れ物がないかを再確認していた。
今日このあと桂崎篤仁さんにお会いして、マジックを披露する。その上で、宝探しについての話を伺うことになった。時刻は午後三時から、場所は桂崎さんの自宅。と、ここまではよかったんだけれど、シュウさんが都合が付かなくてこられなくなってしまった。初対面のときぐらい、シュウさんに同行して欲しかったんだけどなあ。今通っている高校の教師OBだって言ってたから、共通の話題を基にして、色々とつないでくれたり、雰囲気をリラックスさせてくれたりと期待してたんだよね~。
忙しくなったのは、演劇部の手伝いのため。予想できたこととは言え、こんなにも早く影響がこっちに及んでくるなんて。もうちょっと待ってほしかった。
また、宝探しのお話を伺うと一口に言っても、場所は桂崎三さんのご自宅。どれくらいの広さなのかはもちろん知らないけれども、全員で押し掛けるのはやはり避けなくちゃいけないよね。披露するマジックの中身が全員でやらなければできないような盛大なショー仕立てならともかく、個人でできるものばかりだし。
と、いうようなわけでメンバーを選抜する必要に迫られた。一昨日、金曜日の放課後、私のクラスに七尾さん以外(七尾さんはお仕事があって早く帰らなければいけなかったし、次の日曜もスケジュールが埋まっていたので)のみんなが集まって、桂崎さん宅に出向く三人を決めたんだけど、その際にちょっぴり妙な空気になったのよね。改めて思い起こしてみると――。
誰が出向くか、いの一番に出たのは、以前に文芸部の人達に披露したときの顔ぶれでいいんじゃない?という意見。これで決めて早く帰ろうという雰囲気だったのだけど、それだと宝探しに熱心な朱美ちゃんが外れることになってしまう。
「当然、行きたいよね?」
「うん。まだ宝探しが始まるって訳じゃなくても、一刻も早く知りたい。それに、私だってマジック練習してきたんだから、人が見てるところでやってみたいしさ」
意思は硬いみたいだ。
じゃあ朱美ちゃんを入れるとして、誰を外し、誰を残すか。私は会長だし、一応、腕前はサークル内で一番だし、抜けられない。そもそもマジックの実力で判断するなら、あと一人には不知火さんを残すのが理に適っている。
「あの、いいでしょうか。反対します」
その意見に対して、不知火さん本人が穏やかに、でも早口で異議を唱えた。挙手する彼女を指名して、理由を聞いてみる。
「今出ている案だと、会長、金田さん、私と女子ばかりになります。女子のみのサークルと思われるのは、不本意ではないでしょうか」
「不本意ってほどでもないけれど」
男子のメンバーが増えて欲しいという思いは常にあるけれども、外の人からどう見られるかなんて考えたことさえなかった。全員女子と、女子の大勢の中に男子が一人って、たいして違わない気もする。
「では見方を変えます。マジシャンと聞いたら、真っ先に思い浮かべる姿形は、シルクハットに燕尾服を来たスマートな男性、ではありませんか」
「うう、そこは確かに言う通りだよね。プロのマジシャンの女性と男性の割合がいくつかは知らないけれども、少なくとも一般の人がイメージするのは、マジシャンと言えば男性というイメージがあるのは動かせない現実ってやつ」
世界には優れた女性マジシャンも大勢いるというのに、何故かしら昔からマジシャンは男性のイメージが強く、いつまで経っても変わらない。
つづく