第112話 忖度ありやなしや
文字数 1,237文字
「そういやマルタは、こういうジュースみたいな物でも氷にできるの」
チェリーがマルタに聞いている。
「できることもある。作っているところを見て、ああ水が使われているんだなって認識していたら、まず凍らせられる」
「作る過程なんか知らなくても、どう見ても水が入っているのに」
「そういう能力なんだから仕方ないっしょ」
ライバル(の助手)同士にしては話が弾む二人に、メインが注意を促した。
「こら、これじゃあ本当に休憩になってしまう。飲みながら続けるぞ」
仕切り直しだ。
「王女様以外の二人が犯人だった場合、それぞれ魔法をどんな風に使ったんだろ。メインさん、もう考えてる?」
「一応、考えては見た。決定的な説はないけれどね。だが、その話に入る前に、現場の鍵について、モリ探偵師にも知ってもらわねばいけない。王女が疑われながらも拘束されない理由もそこにある」
ナイト・ファウストが遺体となって見つかった彼の自室は、唯一のドアが施錠されていた。部屋の外から施錠するためには、鍵が当然必要だが、二本ある鍵の内、一つはファウストが所持しており、室内で見付かった。もう一本は王宮の管理下にあり、簡単には持ち出せない。
「さらに言うと、合鍵を作るのは不可能ではないが必ずばれる。城内の鍵は全て、この国第一級の職人が手掛けねば作れない代物だからね」
「でも複製魔法とか、あるんじゃないの。ずっと以前にコピーしてれば」
「はは。あるにはある。でも城内で魔法を使うと記録が残るから、鍵を場外に持ち出す必要が生じる。ところが今度は鍵を持ち出すことが禁じられており、秘密裏に持ち出そうとすると、バンバンドリーが反応してやはりばれる」
「……分かった。説明の続きをお願い」
「続きと言ったって、もう大して残ってない。鍵の保管状態を具体的に言うと、使用人達の部屋のスペアキーは、大きな箱に入れて一括管理されており、その箱自体に細密で頑丈な錠が掛かっている。侍従長、メイド頭、城内逓信士の三名の内二名が揃って暗証番号を唱えると、箱は開けられる」
「逓信士って何をする人?」
「お城の中の連絡業務を一手に引き受ける係。個人間の手紙のやり取りや、公的でも機密度の高い物を扱う。なのでとても信頼の篤い人物でなければ務まらない」
この世界では衛士である宗平が、そんなことを知らないなんてあり得ないだろうに、最早誰も気にせずに説明してくれる。
(やっぱりこれは自分が見てる夢の中なのかなあ? だったら都合のいい省略が行われているのは分かる。だけど、この殺人事件の謎解きは都合よく閃かないぞ)
「事件当日の朝は、侍従長その人がいないのだから、メイド頭と逓信士の二人で鍵を取り出したわけだ」
「てことは、王女様であっても、鍵を勝手に持ち出せない?」
「そうなる」
メインは大きく頷いたが、直後にチェリーを見やった。
「建前ではそうなるけれども、実際問題どうなんだろうね。王女から拝み倒されたら?」
つづく
チェリーがマルタに聞いている。
「できることもある。作っているところを見て、ああ水が使われているんだなって認識していたら、まず凍らせられる」
「作る過程なんか知らなくても、どう見ても水が入っているのに」
「そういう能力なんだから仕方ないっしょ」
ライバル(の助手)同士にしては話が弾む二人に、メインが注意を促した。
「こら、これじゃあ本当に休憩になってしまう。飲みながら続けるぞ」
仕切り直しだ。
「王女様以外の二人が犯人だった場合、それぞれ魔法をどんな風に使ったんだろ。メインさん、もう考えてる?」
「一応、考えては見た。決定的な説はないけれどね。だが、その話に入る前に、現場の鍵について、モリ探偵師にも知ってもらわねばいけない。王女が疑われながらも拘束されない理由もそこにある」
ナイト・ファウストが遺体となって見つかった彼の自室は、唯一のドアが施錠されていた。部屋の外から施錠するためには、鍵が当然必要だが、二本ある鍵の内、一つはファウストが所持しており、室内で見付かった。もう一本は王宮の管理下にあり、簡単には持ち出せない。
「さらに言うと、合鍵を作るのは不可能ではないが必ずばれる。城内の鍵は全て、この国第一級の職人が手掛けねば作れない代物だからね」
「でも複製魔法とか、あるんじゃないの。ずっと以前にコピーしてれば」
「はは。あるにはある。でも城内で魔法を使うと記録が残るから、鍵を場外に持ち出す必要が生じる。ところが今度は鍵を持ち出すことが禁じられており、秘密裏に持ち出そうとすると、バンバンドリーが反応してやはりばれる」
「……分かった。説明の続きをお願い」
「続きと言ったって、もう大して残ってない。鍵の保管状態を具体的に言うと、使用人達の部屋のスペアキーは、大きな箱に入れて一括管理されており、その箱自体に細密で頑丈な錠が掛かっている。侍従長、メイド頭、城内逓信士の三名の内二名が揃って暗証番号を唱えると、箱は開けられる」
「逓信士って何をする人?」
「お城の中の連絡業務を一手に引き受ける係。個人間の手紙のやり取りや、公的でも機密度の高い物を扱う。なのでとても信頼の篤い人物でなければ務まらない」
この世界では衛士である宗平が、そんなことを知らないなんてあり得ないだろうに、最早誰も気にせずに説明してくれる。
(やっぱりこれは自分が見てる夢の中なのかなあ? だったら都合のいい省略が行われているのは分かる。だけど、この殺人事件の謎解きは都合よく閃かないぞ)
「事件当日の朝は、侍従長その人がいないのだから、メイド頭と逓信士の二人で鍵を取り出したわけだ」
「てことは、王女様であっても、鍵を勝手に持ち出せない?」
「そうなる」
メインは大きく頷いたが、直後にチェリーを見やった。
「建前ではそうなるけれども、実際問題どうなんだろうね。王女から拝み倒されたら?」
つづく