第113話 魔法でない場合を除外せよ
文字数 1,283文字
メインからのやや意地の悪い問い掛けに対し、チェリーは飲み物のコップを静かにテーブルに置くと、強い調子で否定した。
「あり得ないです。メイド頭のヤーヴェ、逓信士のリチャーズともに大変信頼の置ける人物であると同時に、ルールに厳しい方々です。そうと認められていないと今の地位に就くことはかないません」
「ありがとう。――だそうだよ、モリ探偵師」
「うーん」
考えれば何か思い浮かびそうな気がしないでもない。だけど現時点では、他の可能性、つまりは窓が使われた場合の検討を先にしておこう。
「三階の窓を犯人が出入りしたとは考えられないのかな。とりあえず、魔法以外の方法、梯子を使ったとか」
「梯子は火災時などに備えて城内にあるが、持ち出された痕跡はなかった。ついでに、長いロープの一方に鉤爪のような物を結わえて、窓枠に引っ掛けて登った、なんていう方法も否定されている。傷が残るに違いないのでね」
「上の階からロープを垂らして、降りてきた可能性は?」
「ほほう、ユニークな発想だ。嫌いじゃない。でも残念ながら上の階の窓枠や柱に、ロープを固定した痕跡は皆無だった。壁に足跡もなかったしね」
否定され、宗平は歯がみする。何が悔しいかって、口ではユニークな発想と評価しながら、続けてそれを否定できるということは、メインはすでに同じ発想を経て、調査を済ませていたことに他ならない。
宗平はパズル好きの誇りに掛けて、知恵を絞った。
「入るときはドアから入れてもらい、出るときだけ窓を使った可能性もある。窓から飛び降りても平気なように、真下の地面に巨大なクッションを置いていたというのはどう?」
「これまた残念だが、そのような形跡はなかったとしか言いようがない」
「じゃ、やっぱり魔法か……。でも容疑者三人に絞る前に聞きたいことがある」
「何なりと。答えられる範囲で答えよう」
「お城の外から魔法で飛んできて、上空から侵入するなんてことはできる?」
「無理に決まってるでしょ」
答えたのはチェリーだ。辛抱たまらなくなって口を挟んだようだが、メインも咎めない。
「城は衛士が交替で見張っている。本来、あなたの専門なんだからね。しっかりしてちょうだい」
「あ、ああ」
ばつが悪い。宗平は彼女から目線をずらして、メインに向けた。
「結局のところ、犯行に魔法が使われたとしたら、記録のあった馭者、秘書、王女様の三名に限定していいってことになる?」
「ああ。僕はそのつもりだ。瞬間移動の魔法で城を出入りするなんて手段も、防魔設備によって否定できる」
「これでやっと飲み込めた。王女様以外の二人の犯行だとしたら、どんな風な絵を描いているのか聞かせて欲しい」
話のポイントが最初に戻って来た。メインは口元をひとなでしてから答える。
「馭者のフィリポに関しては、単純だ。窓まで届く高い壁を出して、出入りした」
基本的に同じことを想像していた宗平。今はまだ特に付け加えない。
「カークラン秘書に関しては、ちょっと複雑だ。きちんとした仮説を組み立てられないのは、彼女の方なんだよ」
つづく
「あり得ないです。メイド頭のヤーヴェ、逓信士のリチャーズともに大変信頼の置ける人物であると同時に、ルールに厳しい方々です。そうと認められていないと今の地位に就くことはかないません」
「ありがとう。――だそうだよ、モリ探偵師」
「うーん」
考えれば何か思い浮かびそうな気がしないでもない。だけど現時点では、他の可能性、つまりは窓が使われた場合の検討を先にしておこう。
「三階の窓を犯人が出入りしたとは考えられないのかな。とりあえず、魔法以外の方法、梯子を使ったとか」
「梯子は火災時などに備えて城内にあるが、持ち出された痕跡はなかった。ついでに、長いロープの一方に鉤爪のような物を結わえて、窓枠に引っ掛けて登った、なんていう方法も否定されている。傷が残るに違いないのでね」
「上の階からロープを垂らして、降りてきた可能性は?」
「ほほう、ユニークな発想だ。嫌いじゃない。でも残念ながら上の階の窓枠や柱に、ロープを固定した痕跡は皆無だった。壁に足跡もなかったしね」
否定され、宗平は歯がみする。何が悔しいかって、口ではユニークな発想と評価しながら、続けてそれを否定できるということは、メインはすでに同じ発想を経て、調査を済ませていたことに他ならない。
宗平はパズル好きの誇りに掛けて、知恵を絞った。
「入るときはドアから入れてもらい、出るときだけ窓を使った可能性もある。窓から飛び降りても平気なように、真下の地面に巨大なクッションを置いていたというのはどう?」
「これまた残念だが、そのような形跡はなかったとしか言いようがない」
「じゃ、やっぱり魔法か……。でも容疑者三人に絞る前に聞きたいことがある」
「何なりと。答えられる範囲で答えよう」
「お城の外から魔法で飛んできて、上空から侵入するなんてことはできる?」
「無理に決まってるでしょ」
答えたのはチェリーだ。辛抱たまらなくなって口を挟んだようだが、メインも咎めない。
「城は衛士が交替で見張っている。本来、あなたの専門なんだからね。しっかりしてちょうだい」
「あ、ああ」
ばつが悪い。宗平は彼女から目線をずらして、メインに向けた。
「結局のところ、犯行に魔法が使われたとしたら、記録のあった馭者、秘書、王女様の三名に限定していいってことになる?」
「ああ。僕はそのつもりだ。瞬間移動の魔法で城を出入りするなんて手段も、防魔設備によって否定できる」
「これでやっと飲み込めた。王女様以外の二人の犯行だとしたら、どんな風な絵を描いているのか聞かせて欲しい」
話のポイントが最初に戻って来た。メインは口元をひとなでしてから答える。
「馭者のフィリポに関しては、単純だ。窓まで届く高い壁を出して、出入りした」
基本的に同じことを想像していた宗平。今はまだ特に付け加えない。
「カークラン秘書に関しては、ちょっと複雑だ。きちんとした仮説を組み立てられないのは、彼女の方なんだよ」
つづく