第103話 決めた!
文字数 1,324文字
「さっきの話の続きだけど」
再び、シーラとのひそひそ話に入る。
「もう時間があまり残っていませんが」
気負う宗平に、シーラは冷静に応じる。彼女のその態度に、宗平は逆に焦りが募った。
「だから答えは早くしてくれ。助手には名誉が得られる可能性があると言ったよな。それはつまり、事件解決に成功した場合、なんだよな?」
「もちろん。そう言ったつもりでしたが」
「逆に失敗したときは。ペナルティがあるとか……?」
「いえ、そのような規則はありません。ただ、今回のように複数の探偵師が捜査に携わった場合、事件の解明に貢献できなかった探偵師や助手は、貢献のあった探偵師や助手から格下に見られますけどね」
「何だよ、それ。まさか奴隷扱い?」
「何故、そうも悪い方悪い方へと考えが向かうんでしょうか。我が国に奴隷はいません」
“事実”はどうあれ、宗平にとって現在の自分は、よく知らない外国にいきなり放り込まれたようなもの。だいぶ慣れては来たけれども、まだまだ心の片隅には不安が渦巻いている。だから、常に最悪のパターンを想像してしまうのかもしれない。
(言葉が通じるだけでもましって思わないとな)
気を取り直す。
(それに、知っている顔が大勢いるっていうのは、何だかんだで心強い)
宗平はシーラに聞いた。
「念のために聞くけど、候補者の中から選ばないとだめなのか?」
「今になって、また一から探すのはさすがに時間オーバー――」
「違う違う。例えばの話、君、シーラさんを指名するのは問題ないのかなってこと」
「……指名する行為に問題はありません。が、私はお断りすると思います」
「ええっー? 何でだ」
愛の告白をして断られたというわけでもないのに、何だか凄く恥ずかしいし、傷付いた気分。
「先程触れた名誉に、私はほとんど興味がないので……ごめんなさいね」
結局、告白して断られたみたいな感じになってしまった。穴があったら入りたい、なければ掘って隠れたい。
「――ふっふっふ」
ショックから立ち直るために笑ってみた。その様子は、シーラの目には不気味に映ったかもしれないけれど。
「はっきり言ってくれて助かった。そういうとこ、嫌いじゃないぜ」
「はあ?」
「決めた。助手を誰にするか――」
「それはよかった。言ってください」
瞳を煌めかせたシーラの顔の前に、宗平は右の手のひらをかざした。
「早まるなって。助手を誰にするか、シーラが決めてくれ。俺、君の意見に従うよ」
「ちょ、ちょっと。大事な権利を、そんな他人任せで行使してよいのですか」
呆れが七割、怒りが三割ぐらいの響きで彼女は言った。翻意を促しているのは分かるが、宗平は「いいんだ」と返す。
「俺のこと心配してくれてるシーラを信用する。はっきり言って、俺よりも君の方が候補の彼女らみんなについて、よく分かっているはず。だったら任せようってこと」
「……結果に責任は持てませんよ?」
「かまわねーよ。時間がないんだろ。早く決めちゃってくれ」
宗平が手振りで急かせると、シーラはふう、と深く息を吐いて「分かりました」と続けた。
「私、シーラ・ナインコットが探偵師助手に推薦するのは――」
つづく
再び、シーラとのひそひそ話に入る。
「もう時間があまり残っていませんが」
気負う宗平に、シーラは冷静に応じる。彼女のその態度に、宗平は逆に焦りが募った。
「だから答えは早くしてくれ。助手には名誉が得られる可能性があると言ったよな。それはつまり、事件解決に成功した場合、なんだよな?」
「もちろん。そう言ったつもりでしたが」
「逆に失敗したときは。ペナルティがあるとか……?」
「いえ、そのような規則はありません。ただ、今回のように複数の探偵師が捜査に携わった場合、事件の解明に貢献できなかった探偵師や助手は、貢献のあった探偵師や助手から格下に見られますけどね」
「何だよ、それ。まさか奴隷扱い?」
「何故、そうも悪い方悪い方へと考えが向かうんでしょうか。我が国に奴隷はいません」
“事実”はどうあれ、宗平にとって現在の自分は、よく知らない外国にいきなり放り込まれたようなもの。だいぶ慣れては来たけれども、まだまだ心の片隅には不安が渦巻いている。だから、常に最悪のパターンを想像してしまうのかもしれない。
(言葉が通じるだけでもましって思わないとな)
気を取り直す。
(それに、知っている顔が大勢いるっていうのは、何だかんだで心強い)
宗平はシーラに聞いた。
「念のために聞くけど、候補者の中から選ばないとだめなのか?」
「今になって、また一から探すのはさすがに時間オーバー――」
「違う違う。例えばの話、君、シーラさんを指名するのは問題ないのかなってこと」
「……指名する行為に問題はありません。が、私はお断りすると思います」
「ええっー? 何でだ」
愛の告白をして断られたというわけでもないのに、何だか凄く恥ずかしいし、傷付いた気分。
「先程触れた名誉に、私はほとんど興味がないので……ごめんなさいね」
結局、告白して断られたみたいな感じになってしまった。穴があったら入りたい、なければ掘って隠れたい。
「――ふっふっふ」
ショックから立ち直るために笑ってみた。その様子は、シーラの目には不気味に映ったかもしれないけれど。
「はっきり言ってくれて助かった。そういうとこ、嫌いじゃないぜ」
「はあ?」
「決めた。助手を誰にするか――」
「それはよかった。言ってください」
瞳を煌めかせたシーラの顔の前に、宗平は右の手のひらをかざした。
「早まるなって。助手を誰にするか、シーラが決めてくれ。俺、君の意見に従うよ」
「ちょ、ちょっと。大事な権利を、そんな他人任せで行使してよいのですか」
呆れが七割、怒りが三割ぐらいの響きで彼女は言った。翻意を促しているのは分かるが、宗平は「いいんだ」と返す。
「俺のこと心配してくれてるシーラを信用する。はっきり言って、俺よりも君の方が候補の彼女らみんなについて、よく分かっているはず。だったら任せようってこと」
「……結果に責任は持てませんよ?」
「かまわねーよ。時間がないんだろ。早く決めちゃってくれ」
宗平が手振りで急かせると、シーラはふう、と深く息を吐いて「分かりました」と続けた。
「私、シーラ・ナインコットが探偵師助手に推薦するのは――」
つづく