第８０話　根っこは同じカッパーフィールド

「は～、何だか凄そう。観てみたい」
「トランプが消失し、透明なアクリルが現れたというわけですか」
　やっぱり、不知火さんも加わった。
「うん。透明と消失、両方を満たすって言ったら、これだなって。でもそれ以上に、印象に残ってるから。」
「私の予想ではずっと大掛かりな、舞台で行うようなマジック――」
「イリュージョン、だね」
「そうです。大の大人――たいていは女性アシススタントがごく狭いスペースに入って、剣を刺されても無事に出て来たり、そこから消えてしまって全く違う場所から現れたりするようなマジックを挙げるんじゃないかと思っていました」
「うん、大掛かりなイリュージョンも好きだよ。初めて観たときは驚いたし、華やかだし、出ている女の人はきれいに見えたし」
「女性アシスタントがきれいというのは、関係があるのですか」
　眉を寄せて訝る不知火さんに、私はちょっと考えてから答えた。
「ああいうきれいな格好をして大勢に観てもらうのが好きっていう人もいるでしょ。でも、私は同じ舞台に立つのならマジックをやる、マジシャンになりたいと思った。っもちろん、女性アシスタントさん全員が、観てもらうのが好きっていうことではないと思うんだけど」
「そういう理屈でしたか。それで、イリュージョンを挙げなかった理由の方は？」
「えっと、少しマジックをやり始めると、道具があればできるじゃない！っていうマジックがあることが、嫌でも分かるのよね。見せ方は練習しないといけないにしてもよ。それで、いかにもマジックっぽい道具を使うのは段々つまんなく見えてきた。あんな不自然な物には仕掛けがあって当たり前だって。その反動で、日常的にある、それこそご家庭にある物を使って、ぱっとやれるマジックがいいなって思うようになったわ。要するに好みの問題。イリュージョンはイリュージョンで凄いと思うのもたくさんある。デビッド・カッパーフィールドって知ってる？」
　この問い掛けには、水原さんがすかさず答えた。
「もちろん。ディケンズの長編作品の題名で、主人公の名前だわ」
「え」
　固まる私。ディケンズって何、というか誰？
「えと、ごめん、私が言ったのはマジシャンのデビッド・カッパーフィールドなの。イリュージョンを得意とする」
「あら。こっちこそ話の腰を折ってしまってごめんね」
　変な空気になっちゃった。気を取り直して、話を再開しよう。
「カッパーフィールドは、飛行機や列車の車輌、自由の女神を消したことで知られているの。この中では列車の消失が一番、好きかな。できればソフトを買うか借りるかして観て欲しいけど、動画もあると思う。
　あと、ジークフリート＆ロイ（※発音は諸説あります）という男性二人組のマジシャンがいて、動物とともに行うイリュージョンを得意にしていたわ。確か、ゾウを一頭、舞台上から消していた」
「ドイツの小説家と同じ名前……」
　つぶやく水原さん。自重してくれてこっちも助かったよ。
　代わって不知火さんが、「その名前なら、何かで聞くか読むかしたような気が」と言い出した。
「マジックの本を読んだからじゃ？」
「いえ。別の形で……ニュースになるような」
「あ、それなら」
　ジークフリート＆ロイが公演中、アクシデントがあり、ショーに出演していたホワイトタイガーにロイが噛まれて引き摺られ、舞台袖に消えると言うことがあったらしい。めまいを起こして倒れそうになったロイをホワイトタイガーが助けようとしてこうなってしまった、という見方もあるそうだけど、とにかくロイは重傷を負ったとのこと。昔の話だけど、有名マジシャンの失敗例の一つとしてたまに引き合いに出されるから私も知っていた。

　つづく