第212話 パズりびと
文字数 2,019文字
これだけで話が済むはずなく、昼休みに合わせて教室に渋々戻ると案の定、みんなから何やかや言われる。「おまえ、今日が身体測定と知ってて、計画的にやったな?」「誰か見ることできたのかよ」などと男子から集中“口撃”され、誤解なんだと言って回るだけで物凄く疲れた。
一方、女子からのリアクションは男子からのものほどではなく、佐倉を初めとする数名から詰問調で聞かれたくらいで済んだ。
「あのとき、寝てたんだよね? 見てないよね?」
イエスの答を強要する調子で問われて、そのまま肯定するのも癪だと感じた宗平は、事実をありのままに答えた。
「あんだけ騒いどいて寝てられっかよ。でも見てない。絶対に」
この答にまだ怪しむ女子もいたみたいだったが、このときは佐倉が「分かった。信じる」と言ってくれて収まった。あとで小耳に挟んだところでは、佐倉の方がこのときの行為が原因で、「森君のこと好きなんじゃないの?」と言われたとか言われなかったとか。まあ噂なので定かではない。
そんな体験を経て迎えた五年生で、またもや同じクラスに入ったものだから、何人かの悪友に「よかったな、これでまた元気モリモリ」「おまえらほんと仲がいいよな」「こういうのが腐れ縁?」と散々言われ、辟易していたのだが。
(何で誘ってくれたんだろ?)
マジックのサークルを作りたいから入ってと言われたときには、嬉しいよりも何よりも、驚きが一番大きかった。何で俺?という戸惑いは、パズル好きだからという説明で一応納得したけれども。
(もしかして、ひょっとしたら、佐倉の方も俺のことを……なんてわけは万に一つもないよな)
端から期待していなかった宗平だが、サークル活動を通じて佐倉があの親戚の男――秀明師匠とべたべた(※森宗平の主観です)するのを何度か見せつけられるのは正直きつい。いらいらを抑えるだけでも、余分にエネルギーを使う。
(あれで好きでないって言うんだったらどうかしてるぜ、まったく)
朝から佐倉を中心にサークルの女子がおしゃべりしているのを、断片的に聞いていた宗平は、小さな苛立ちをまた募らせた。
こんなときの解消法は決まっている。
好きなパズル作りに没頭するのだ。
(まずは軽くウォーミングアップで)
よくある問題と考え方は同じで、ちょっとだけずらしてみる。
問1.
ある人が自己紹介で言った。
「私の名前は、サ行のサです。もしくはナ行のナでもあります」
この人の名字は何?
(元の問題を知っている人には簡単すぎるかな。次はなるべくオリジナルで……)
問2.
パソコン、ラジコン、ミスコン、大根、エアコン、糸こん。仲間外れを一つ選ぶとしたらどれ?
(自分が考えた答が一番すっきりすると思うんだけど、こじつけようと思えばこじつけられる可能性が。そういえば前に考えた問題……)
問3.
「キリンにあってゾウにない オリオンにあってシーザーにない おとめにあってえびすにない」これなーんだ?
(これなんかお父さんは簡単に引っ掛かってくれたけど、同級生に出したら反応悪そう。俺らの年齢向けにするには……)
問4.
「顕微鏡はあるけど双眼鏡はない コンパスはあるけどホッチキスはない コップはあるけどビーカーはない」これなーんだ?
(こうしたら行けるかも? ただ、やや詳しめの知識が必要なのがちょっと嫌だな。誰でも考えれば解けるようなのがいい)
問5.
次の文字列はある規則に従っています。○に入るのは何でしょう?
テ ナ エ セ シ ○ フ ス ツ ワ ゼ
(うん。小五ならこれくらいは解けるだろ)
やっとそれなりに満足のできる問題が作れて、にんまりとした。
そこへ。
「――森宗平! 聞こえてるか?」
相田先生からのかみなりが落ちた。授業中だったのだ。
宗平はパズルをメモ書きしたノートを繰って、違うページを開いた。それから席を立って、ちょっと突っ張ってみる。
「はい、先生。今聞こえた」
「まったく、ふざけた返事を。また考え事していただろ。見せてみろ」
「え、何のこと」
「おまえが授業中、話を聞かずに夢中になっている物の一番は、あれだろ、クイズ作り。見せてみろ。出来映えを判定してやろう」
「えっ。いいよ、そんな手間を取らせるなんて。授業進めて。時間もったいない」
「おまえが言うな。作っていたことは認めるんだな」
「……はぁい」
「じゃ、自信作を一つ、みんなの前で発表」
「ええ?」
宗平だけでなく、クラスのみんながざわつく。先生は続けて言った。
「誰も解けなかったら、授業を聞いていなかった罰としてそうだな、掃除道具入れをきれいにすること」
ざわめきがさらに大きくなる。そんな中、宗平はあることに気付いて首を捻った。
「あれ? 俺、聞き違えた? 今、誰も解けなかったら罰って言ったんだよね、先生?」
つづく
一方、女子からのリアクションは男子からのものほどではなく、佐倉を初めとする数名から詰問調で聞かれたくらいで済んだ。
「あのとき、寝てたんだよね? 見てないよね?」
イエスの答を強要する調子で問われて、そのまま肯定するのも癪だと感じた宗平は、事実をありのままに答えた。
「あんだけ騒いどいて寝てられっかよ。でも見てない。絶対に」
この答にまだ怪しむ女子もいたみたいだったが、このときは佐倉が「分かった。信じる」と言ってくれて収まった。あとで小耳に挟んだところでは、佐倉の方がこのときの行為が原因で、「森君のこと好きなんじゃないの?」と言われたとか言われなかったとか。まあ噂なので定かではない。
そんな体験を経て迎えた五年生で、またもや同じクラスに入ったものだから、何人かの悪友に「よかったな、これでまた元気モリモリ」「おまえらほんと仲がいいよな」「こういうのが腐れ縁?」と散々言われ、辟易していたのだが。
(何で誘ってくれたんだろ?)
マジックのサークルを作りたいから入ってと言われたときには、嬉しいよりも何よりも、驚きが一番大きかった。何で俺?という戸惑いは、パズル好きだからという説明で一応納得したけれども。
(もしかして、ひょっとしたら、佐倉の方も俺のことを……なんてわけは万に一つもないよな)
端から期待していなかった宗平だが、サークル活動を通じて佐倉があの親戚の男――秀明師匠とべたべた(※森宗平の主観です)するのを何度か見せつけられるのは正直きつい。いらいらを抑えるだけでも、余分にエネルギーを使う。
(あれで好きでないって言うんだったらどうかしてるぜ、まったく)
朝から佐倉を中心にサークルの女子がおしゃべりしているのを、断片的に聞いていた宗平は、小さな苛立ちをまた募らせた。
こんなときの解消法は決まっている。
好きなパズル作りに没頭するのだ。
(まずは軽くウォーミングアップで)
よくある問題と考え方は同じで、ちょっとだけずらしてみる。
問1.
ある人が自己紹介で言った。
「私の名前は、サ行のサです。もしくはナ行のナでもあります」
この人の名字は何?
(元の問題を知っている人には簡単すぎるかな。次はなるべくオリジナルで……)
問2.
パソコン、ラジコン、ミスコン、大根、エアコン、糸こん。仲間外れを一つ選ぶとしたらどれ?
(自分が考えた答が一番すっきりすると思うんだけど、こじつけようと思えばこじつけられる可能性が。そういえば前に考えた問題……)
問3.
「キリンにあってゾウにない オリオンにあってシーザーにない おとめにあってえびすにない」これなーんだ?
(これなんかお父さんは簡単に引っ掛かってくれたけど、同級生に出したら反応悪そう。俺らの年齢向けにするには……)
問4.
「顕微鏡はあるけど双眼鏡はない コンパスはあるけどホッチキスはない コップはあるけどビーカーはない」これなーんだ?
(こうしたら行けるかも? ただ、やや詳しめの知識が必要なのがちょっと嫌だな。誰でも考えれば解けるようなのがいい)
問5.
次の文字列はある規則に従っています。○に入るのは何でしょう?
テ ナ エ セ シ ○ フ ス ツ ワ ゼ
(うん。小五ならこれくらいは解けるだろ)
やっとそれなりに満足のできる問題が作れて、にんまりとした。
そこへ。
「――森宗平! 聞こえてるか?」
相田先生からのかみなりが落ちた。授業中だったのだ。
宗平はパズルをメモ書きしたノートを繰って、違うページを開いた。それから席を立って、ちょっと突っ張ってみる。
「はい、先生。今聞こえた」
「まったく、ふざけた返事を。また考え事していただろ。見せてみろ」
「え、何のこと」
「おまえが授業中、話を聞かずに夢中になっている物の一番は、あれだろ、クイズ作り。見せてみろ。出来映えを判定してやろう」
「えっ。いいよ、そんな手間を取らせるなんて。授業進めて。時間もったいない」
「おまえが言うな。作っていたことは認めるんだな」
「……はぁい」
「じゃ、自信作を一つ、みんなの前で発表」
「ええ?」
宗平だけでなく、クラスのみんながざわつく。先生は続けて言った。
「誰も解けなかったら、授業を聞いていなかった罰としてそうだな、掃除道具入れをきれいにすること」
ざわめきがさらに大きくなる。そんな中、宗平はあることに気付いて首を捻った。
「あれ? 俺、聞き違えた? 今、誰も解けなかったら罰って言ったんだよね、先生?」
つづく