第250話 でっかくなるかもしれない耳寄りな話
文字数 2,109文字
いい機会だから聞いてみよう。
「それっていけないこと?」
「いけないと断定はしないけれども、可能性の問題さ。あまりにも訳が分からない物を見せられると、興味関心を失ってしまう恐れ、なきにしもあらずだと思うんだ。どうせ凄くお金を掛けてるんだろうとか、周りのみんなもグルなんだろうとか。それだけならまだましかもしれない。萌莉には何度か言ったけれども、『こんな現象、できっこない。できるのは超能力だけだ』と小さな子に信じ込まれたら、よくない事態につながる恐れもあるから」
「ちょっと考え過ぎって気がするけど、言いたいことは分かる。でも七尾さんに限って、そんなことはないよ。もう私達の仲間だから」
「それはよかった」
シュウさんが笑顔で安堵する様子が、目に浮かんだ。
さほど長話にならなかったなー、そういえば最初に「それもある」って言ってたっけ、等と思いながらシュウさんの次の言葉を待つ。
「七尾さんが入会したのなら、僕も初対面じゃないとは言え、正式に挨拶しておかないといけないな。その内、顔を出すよ」
「うん、お願い」
「さて、もう一つ、用件があるんだがいいかな」
「いいよ、何なに?」
「マジックの他にやってみたいことの一つに、宝探しってあったと思うんだけど」
「え? ああ、朱美ちゃん――金田さんのリクエストだよ、それ」
「実は前にレクチャーがあったとき、会場でのことなんだ。どういう話の流れだったのか、初参加のある男性が中島師と話し込んでいるときに、解読したら宝の在処が分かるらしい巻物を所有していると言っているのが聞こえたんだ。僕は宝探しのリクエストがあったことが頭にあったから、少しあとに、中島師にどういう話をされていたのか聞いてみた。すると、本人から直接聞くのが早いだろうと紹介してくださったんだよね。それが元高校の教師で、今は引退した桂崎篤仁 さん。聞いてみたら、僕の高校にも大昔、勤めていたことがある人だった。おかげで余計な話に時間を取られたんだけども、本題も伝えた」
「本題って、宝の巻物のことね?」
念のために確認すると、「もちろん」と力強い返事。
「宝を横取りする気だと思われては困るので、いきなり見せて欲しいとは言えない。探り探り聞いてみた結果、当人は巻物の内容をほぼ信じていないことが分かった。というのも、巻物と言っても古くから伝わるような代物ではなく、新しい物に何かから書き写した暗号めいた文章が書いてあるそうだ。アルファベットや片仮名も混じっているって」
それはさすがに嘘っぽい。思わず、なーんだとがっかり口調で反応した。
「それでも一応、入手したいきさつを尋ねてみたら、ほしいのかいと聞き返されて、思い切って事情を伝えたんだ。それを聞いた桂崎さんは、しばらく考えて、巻物を譲ってもいい、ただし条件があると言い出した」
「条件? お金とか?」
「いやいや。君とそのマジックサークル――つまり僕と萌莉達の何人かに、目の前でマジックを披露してもらいたい。満足できたら無償で譲渡しようと持ち掛けてきたんだ」
「えっと、何で?」
条件は飲み込めたけれども、状況が飲み込めない。
「分からない。ただ、桂崎さんが相当マジック好きなのは、その前の段階で分かってた。ほぼ観る専門らしいけれどね。僕らに物凄く期待しているのかもしれないし、お手並み拝見というだけのことかもしれない」
「ふうん」
「で、萌莉に聞きたいのは、この話、受ける気があるかどうか」
「うーん……偽物っぽいんでしょ、巻物」
「偽物というか、古くからある先祖代々伝わる伝説のって風じゃないのは確かだと思う。所有者自身が言ってるくらいだし、期待しないでおく方が賢いだろうな。でも、解読したら値打ちのある何かをもらえる可能性はある、とも仄めかされた」
「それを早く言ってよ~。何がもらえるの?」
「そこまでは教えてくれなかった」
「そんなあ。じゃあ、誰からもらえるのかは分かってるの、シュウさん?
「いや。僕もそこが気になって。桂崎さんが宝を用意してくれるのですかと聞いたら、違うときっぱり」
「うーん、微妙だよぉ。確実に宝の地図とか暗号とかだったら、朱美ちゃんに聞くまでもなくオーケーなんだけど」
朱美ちゃんから具体的に希望を聞いたわけじゃないけれども、宝探しの結果が商品券とかだったら、あんまり嬉しがらないんじゃないかしら。多分、金銭的な値打ち以上に、ザ・宝探し!と呼べそうないかにもなのを期待している気がする。巻物にしたって、暗号を解くだけじゃ物足りないとか言いそう。身体も動かして、冒険めいた経験をしたい雰囲気があるもの。でもまあ、冒険となると、私達小学生だけではハードルが高くて難しいことだらけになりそう……そこは朱美ちゃんを説得して妥協してもらうのも一つの道だわ。
考える内に、前向きになれた。クラブ活動もマジックのレクチャーばかりでなく、目先を変えていきたいっていう、私個人の思惑もあるしさ。
「やっぱり、受けてみようかな」
「おや? 風向きがころっと変わったな。文字通り、どういう風の吹き回し?と聞きたくなるよ」
今度は、からかい気味の笑みを浮かべるシュウさんの顔が簡単に想像できた。
つづく
「それっていけないこと?」
「いけないと断定はしないけれども、可能性の問題さ。あまりにも訳が分からない物を見せられると、興味関心を失ってしまう恐れ、なきにしもあらずだと思うんだ。どうせ凄くお金を掛けてるんだろうとか、周りのみんなもグルなんだろうとか。それだけならまだましかもしれない。萌莉には何度か言ったけれども、『こんな現象、できっこない。できるのは超能力だけだ』と小さな子に信じ込まれたら、よくない事態につながる恐れもあるから」
「ちょっと考え過ぎって気がするけど、言いたいことは分かる。でも七尾さんに限って、そんなことはないよ。もう私達の仲間だから」
「それはよかった」
シュウさんが笑顔で安堵する様子が、目に浮かんだ。
さほど長話にならなかったなー、そういえば最初に「それもある」って言ってたっけ、等と思いながらシュウさんの次の言葉を待つ。
「七尾さんが入会したのなら、僕も初対面じゃないとは言え、正式に挨拶しておかないといけないな。その内、顔を出すよ」
「うん、お願い」
「さて、もう一つ、用件があるんだがいいかな」
「いいよ、何なに?」
「マジックの他にやってみたいことの一つに、宝探しってあったと思うんだけど」
「え? ああ、朱美ちゃん――金田さんのリクエストだよ、それ」
「実は前にレクチャーがあったとき、会場でのことなんだ。どういう話の流れだったのか、初参加のある男性が中島師と話し込んでいるときに、解読したら宝の在処が分かるらしい巻物を所有していると言っているのが聞こえたんだ。僕は宝探しのリクエストがあったことが頭にあったから、少しあとに、中島師にどういう話をされていたのか聞いてみた。すると、本人から直接聞くのが早いだろうと紹介してくださったんだよね。それが元高校の教師で、今は引退した
「本題って、宝の巻物のことね?」
念のために確認すると、「もちろん」と力強い返事。
「宝を横取りする気だと思われては困るので、いきなり見せて欲しいとは言えない。探り探り聞いてみた結果、当人は巻物の内容をほぼ信じていないことが分かった。というのも、巻物と言っても古くから伝わるような代物ではなく、新しい物に何かから書き写した暗号めいた文章が書いてあるそうだ。アルファベットや片仮名も混じっているって」
それはさすがに嘘っぽい。思わず、なーんだとがっかり口調で反応した。
「それでも一応、入手したいきさつを尋ねてみたら、ほしいのかいと聞き返されて、思い切って事情を伝えたんだ。それを聞いた桂崎さんは、しばらく考えて、巻物を譲ってもいい、ただし条件があると言い出した」
「条件? お金とか?」
「いやいや。君とそのマジックサークル――つまり僕と萌莉達の何人かに、目の前でマジックを披露してもらいたい。満足できたら無償で譲渡しようと持ち掛けてきたんだ」
「えっと、何で?」
条件は飲み込めたけれども、状況が飲み込めない。
「分からない。ただ、桂崎さんが相当マジック好きなのは、その前の段階で分かってた。ほぼ観る専門らしいけれどね。僕らに物凄く期待しているのかもしれないし、お手並み拝見というだけのことかもしれない」
「ふうん」
「で、萌莉に聞きたいのは、この話、受ける気があるかどうか」
「うーん……偽物っぽいんでしょ、巻物」
「偽物というか、古くからある先祖代々伝わる伝説のって風じゃないのは確かだと思う。所有者自身が言ってるくらいだし、期待しないでおく方が賢いだろうな。でも、解読したら値打ちのある何かをもらえる可能性はある、とも仄めかされた」
「それを早く言ってよ~。何がもらえるの?」
「そこまでは教えてくれなかった」
「そんなあ。じゃあ、誰からもらえるのかは分かってるの、シュウさん?
「いや。僕もそこが気になって。桂崎さんが宝を用意してくれるのですかと聞いたら、違うときっぱり」
「うーん、微妙だよぉ。確実に宝の地図とか暗号とかだったら、朱美ちゃんに聞くまでもなくオーケーなんだけど」
朱美ちゃんから具体的に希望を聞いたわけじゃないけれども、宝探しの結果が商品券とかだったら、あんまり嬉しがらないんじゃないかしら。多分、金銭的な値打ち以上に、ザ・宝探し!と呼べそうないかにもなのを期待している気がする。巻物にしたって、暗号を解くだけじゃ物足りないとか言いそう。身体も動かして、冒険めいた経験をしたい雰囲気があるもの。でもまあ、冒険となると、私達小学生だけではハードルが高くて難しいことだらけになりそう……そこは朱美ちゃんを説得して妥協してもらうのも一つの道だわ。
考える内に、前向きになれた。クラブ活動もマジックのレクチャーばかりでなく、目先を変えていきたいっていう、私個人の思惑もあるしさ。
「やっぱり、受けてみようかな」
「おや? 風向きがころっと変わったな。文字通り、どういう風の吹き回し?と聞きたくなるよ」
今度は、からかい気味の笑みを浮かべるシュウさんの顔が簡単に想像できた。
つづく