第75話 嫌なところを挙げてみた

文字数 1,365文字

「えと、そのマジシャンに限った話じゃなくってだな。何つーか、どや顔が苦手。格好つけられるのもムカつく。今よりもっと子供のときのことだから、余計にそう感じちまったんだよな。種を見破れないのを馬鹿にされてる気がして」
 森君の力説に、陽子ちゃんが賛同の意を示した。
「分かるわ~。私も二枚目のマジシャンが、上塗りするみたいに格好をつけるのは嫌い。ナルシストっぽく見えちゃう」
 その基準だと、ハンサムな人の大半はマジックをしちゃだめってことになりそう……。
 と、そこへつちりんが参戦。
「そういう人観た覚えあるけれど、演技でやるのはいいと思うの。お客さんを不思議な世界に連れて行ってこそだよ。……私も占いで、はったりをきかせることあるもん」
「うーん、それでもナルシストは遠慮したいもんだわ」
 苦笑いがこぼれる陽子ちゃん。関係ないかもだけど、幼稚園のとき、陽子ちゃんと一番仲のよかった男子は凄く格好をつける子だった。実際、何でもできる感じだったので、女子にもててた。その状態が気にくわなくて、陽子ちゃん、その男子と距離を取るようになって、ナルシストも苦手になったのかな?
「とりあえずは、こう考えてみて。マジックはお客とマジシャンの勝負の場ではあるけれども、種を見抜けるかどうかって挑戦してるわけじゃないの。マジシャンの立場から言うと、お客を楽しませることができるかどうかが大事。演技やはったりもそのためのことなんだって」
 私の説明に森君も陽子ちゃんも一応は納得してくれたのかな、静かになってアンケートの回答に集中し出した。
「私もしつもーん。いい?」
 今度は朱美ちゃんだ。
「はいはい、何でしょう」
「書いてみたら全部、お金がらみになっちゃいそうなんだけど、いいのかな。好きなマジックのジャンルはコインマジックとお札のマジック。一番感心したマジックは、シルクハットの中からお札が飛び出して乱舞するやつ。やってみたいマジックは、手の中の千円札が一万円札になるあれ」
「て、徹底してるね。全然問題ないと思う。他にあれば、遠慮せずに付け足して」
「了解」
 俯いて机に向かう朱美ちゃん。鉛筆を走らせる音が聞こえて来そう。
 質問が一段落し、みんなが書くのに集中している間、マットの準備を整えておこう。
 麻雀マットは事前に想像していた以上に大きくて、机や教卓の上だとはみ出してしまう。先生が使う机がぴったり合いそうなんだけど、物が載っているし、そもそもここ、私達のクラスじゃないし。
 ということで、相田先生の力を借りて高さが同じ児童用の机を四つ集めて、その上にマットを載せてみた。手で押さえれば、机と机と境目は分かってしまうけど割といい感じ。四人が一度に練習できるかな。
 習字の下敷きは、物置部屋に仕舞い込まれていた分も合わせて、とりあえず三つ。これの繊維の具合が、マジック用のマットであるクロースアップマットに似ている。問題があるとすれば、その軽さ。カードをさばこうとすると、ちょっとしたことでずれ動く。文鎮のありがたみがよく分かったわ。ただ、文鎮は上に出っ張ってるわけだから、それはそれで邪魔になることもたまにあるけれど、しょうがない。
 ふと気付くと、先生が麻雀マットを見つめて、やりたそうな顔をしていた。

 つづく
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

佐倉萌莉《さくらもり》。小学五年生。愛称はサクラ。マジック大好き。普段はどちらかと言えば引っ込み思案。

木之元陽子《きのもとようこ》。サクラの同級生。元気印で耳年増。

不知火遥《しらぬいはるか》。同級生。本好きで寡黙。大人びて少しミステリアスなところも。

佐倉秀明《さくらしゅうめい》。高校一年生。マジックが趣味。萌莉の従兄弟で憧れ。

相田克行《あいだかつゆき》。五年五組の担任。ぼさーっとしていて、よく言えば没頭型学者風、悪く言えば居候タイプ。やる気があるのかないのか。

金田朱美《かねだあけみ》。クラスは違うがサクラの友達。宝探しが夢。

土屋善恵《つちやよしえ》。同じくサクラの友達。愛称つちりん。オカルト好きだけど現実的な面もある。

水原玲《みずはられい》。サクラの同級生。推理小説好きが高じて文芸部に。

森宗平《もりそうへい》。サクラの同級生。クイズ・パズルマニア。

内藤肇《ないとうはじめ》。サクラの同級生でクラス委員長。女子からの人気高し。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み