第74話 アンケート
文字数 1,654文字
「何それ?」
クラブ授業の時間になり、一年四組の教室に移動する。顧問の相田先生と一緒に、いる物を宿直室に取りに寄ったため、他のみんなはもう揃っていた。運んだのは私一人だけど、鍵を開けるのは先生に頼まないと。
そして私が手に持っていた物を見ての第一声が、朱美ちゃんからの「何それ?」だったのだ。
「見ての通り、麻雀マットと習字に使う下敷き」
「いやいや、麻雀マットなんて知らないから」
それもそっか。小学生で知っていたらちょっと変だ。私も今日初めて見て知ったし。思わず、舌の先をちょっと覗かせて照れ笑い。
「そんなもん、何に使うんだよ」
森君が口ではそう言いながら、真っ先に駆け寄ってきた。机の上に置かない内から、手を伸ばしてくる。
「こら、落ち着け」
相田先生に言われて、逃げるように席に戻った。森君が座るときに膝をぶつけたような音がしたのは、きっと机が低いせい。一年生の教室だもんね。
「時間も過ぎてることだし、早速始めるね。まず、この間の水原さんがやったカードマジック、今日は種明かしなし!」
「えー」
森君と朱美ちゃんからブーイングが上がった。つちりんも不満そう。
対照的に不知火さんと陽子ちゃんは静かだ。もしかして、二人とも気が付いたのかな。最初に不知火さんを勧誘するために教室でマジックを披露したとき、不知火さんと陽子ちゃんを相手にやった、二枚同時に当てるカードマジック。あれと、水原さんに教えたマジックの種は全く一緒なのだから。見せ方を少し変えて、違うマジックに仕立てたつもりだったけれども、あの二人なら同じだってことにきっと気付いている。種まではまだ見抜けてないと思うものの、私から聞くのも変だし、ここは黙っておくとしよう。
「別の日にやるから。今日は他にやることがたくさんあるの。シュウさんからの指示があってね」
「シュウさんの? だったらしょうがない」
すでにシュウさんと顔を合わせているせいかしら、森君も朱美ちゃんもすぐに静かになってくれた。
代わって盛り上がったのは、つちりん。「待ってました!」と歓声に近い反応をするなんて、ちょっと意外。
「あ、あの、まだ今日は来てないよ」
「うん、分かってる。でもサクラちゃんよりも上手な人なんでしょう? どう違うのか楽しみで」
うう、私の指導だと物足りないということなのかしら。いや、それはそうなるのが当然だと分かってる。百も承知よ。だけど、早すぎない?
……気を取り直して。
「今日のところはまだ、シュウさんの指示で具体的にマジックを教えるということではなくてね」
「うんうん」
「えーっと。最初にアンケートを取ります」
私は先生にお願いして、用紙を配っていただいた。用紙と言っても、不要になったプリントのあまりだけど。
「最初に自分の名前を書く。その上で回答してください。まず、好きなマジックのジャンル。私はトランプを使ったカードマジックが多いけど、他にも色々あるよね。動物が出てくるとか、コインを使うとか。ロープとか。火を使ったり刃物を使ったりっていう危ない感じのも。そういう中から、自分の一番好きなマジックを一つ、書いてほしいの。
次、二つ目は、これまで観たマジックの中で、一番のマジック。マジックの名前が分からない場合がほとんどだと思うから、そのときは現象を書いてね。どんな道具を使って、どんなことが起きたのか。ついでと言っちゃなんだけど、好きなマジシャンがいればその名前もお願い。
三つ目、これが最後よ。自分がとりあえずできるようになりたいマジックがあれば、書いてください。あくまでもとりあえず、だからね」
「なかったらどうするんだ」
森君が質問してから挙手した。逆だってば。
「マジックは何となく思い浮かんだのがあるけどよ。マジシャンの名前なんか、記憶に残ってないぞ。超有名なのは除いて」
「いなければ無理に書かなくてもいいわよ。でも森君は、その超有名なマジシャンのこと好きじゃないの?」
つづく
クラブ授業の時間になり、一年四組の教室に移動する。顧問の相田先生と一緒に、いる物を宿直室に取りに寄ったため、他のみんなはもう揃っていた。運んだのは私一人だけど、鍵を開けるのは先生に頼まないと。
そして私が手に持っていた物を見ての第一声が、朱美ちゃんからの「何それ?」だったのだ。
「見ての通り、麻雀マットと習字に使う下敷き」
「いやいや、麻雀マットなんて知らないから」
それもそっか。小学生で知っていたらちょっと変だ。私も今日初めて見て知ったし。思わず、舌の先をちょっと覗かせて照れ笑い。
「そんなもん、何に使うんだよ」
森君が口ではそう言いながら、真っ先に駆け寄ってきた。机の上に置かない内から、手を伸ばしてくる。
「こら、落ち着け」
相田先生に言われて、逃げるように席に戻った。森君が座るときに膝をぶつけたような音がしたのは、きっと机が低いせい。一年生の教室だもんね。
「時間も過ぎてることだし、早速始めるね。まず、この間の水原さんがやったカードマジック、今日は種明かしなし!」
「えー」
森君と朱美ちゃんからブーイングが上がった。つちりんも不満そう。
対照的に不知火さんと陽子ちゃんは静かだ。もしかして、二人とも気が付いたのかな。最初に不知火さんを勧誘するために教室でマジックを披露したとき、不知火さんと陽子ちゃんを相手にやった、二枚同時に当てるカードマジック。あれと、水原さんに教えたマジックの種は全く一緒なのだから。見せ方を少し変えて、違うマジックに仕立てたつもりだったけれども、あの二人なら同じだってことにきっと気付いている。種まではまだ見抜けてないと思うものの、私から聞くのも変だし、ここは黙っておくとしよう。
「別の日にやるから。今日は他にやることがたくさんあるの。シュウさんからの指示があってね」
「シュウさんの? だったらしょうがない」
すでにシュウさんと顔を合わせているせいかしら、森君も朱美ちゃんもすぐに静かになってくれた。
代わって盛り上がったのは、つちりん。「待ってました!」と歓声に近い反応をするなんて、ちょっと意外。
「あ、あの、まだ今日は来てないよ」
「うん、分かってる。でもサクラちゃんよりも上手な人なんでしょう? どう違うのか楽しみで」
うう、私の指導だと物足りないということなのかしら。いや、それはそうなるのが当然だと分かってる。百も承知よ。だけど、早すぎない?
……気を取り直して。
「今日のところはまだ、シュウさんの指示で具体的にマジックを教えるということではなくてね」
「うんうん」
「えーっと。最初にアンケートを取ります」
私は先生にお願いして、用紙を配っていただいた。用紙と言っても、不要になったプリントのあまりだけど。
「最初に自分の名前を書く。その上で回答してください。まず、好きなマジックのジャンル。私はトランプを使ったカードマジックが多いけど、他にも色々あるよね。動物が出てくるとか、コインを使うとか。ロープとか。火を使ったり刃物を使ったりっていう危ない感じのも。そういう中から、自分の一番好きなマジックを一つ、書いてほしいの。
次、二つ目は、これまで観たマジックの中で、一番のマジック。マジックの名前が分からない場合がほとんどだと思うから、そのときは現象を書いてね。どんな道具を使って、どんなことが起きたのか。ついでと言っちゃなんだけど、好きなマジシャンがいればその名前もお願い。
三つ目、これが最後よ。自分がとりあえずできるようになりたいマジックがあれば、書いてください。あくまでもとりあえず、だからね」
「なかったらどうするんだ」
森君が質問してから挙手した。逆だってば。
「マジックは何となく思い浮かんだのがあるけどよ。マジシャンの名前なんか、記憶に残ってないぞ。超有名なのは除いて」
「いなければ無理に書かなくてもいいわよ。でも森君は、その超有名なマジシャンのこと好きじゃないの?」
つづく