第71話 幕間の続き
文字数 1,551文字
「……そうだね。私のイメージした女優さんとかモデルさんが大人しいタイプだから、言っちゃっただけだ」
「それから、透明感イコール白というのも不思議です。白は透明ではない。白は白です」
「そうだけど、辞書的には白なんじゃない?」
「私もそうなのかもしれないと想像して、透明感を辞書で引きました。にごりがなくて明るい感じ、だそうです。これだと白とは限りません。たとえば、にごりがなくて明るい赤色だってあります。さすがに、明るい黒は無理があるかもしれませんが」
「言われてみれば、不思議な言い回しよね。今度から小説に使えなくなりそう、透明感て」
「私が独自に解釈する透明感は、ある物体の回りを透明もしくは半透明の物質が包んでいる状態かなあ。カエルの卵みたいな」
「そこはタピオカみたいなと言って欲しかった」
「ああ、タピオカにも多少ありますね。でも、寒天や葛を使った和菓子に、より半透明の物があると思います」
「その伝で行くと……瑞々しい肌が、透明感のある肌? 潤いがあって、まるで水の薄い膜に包まれているような」
「あ、それいいです。ニュアンスが近付いてきた」
口元を緩め、嬉しそうに手を合わせる不知火。その様子を目の当たりにした水原は、敢えてひねくれた見方をぶつけたくなった。
「でも、元の言葉の意味に拘るのだったら、透明感なのに半透明でいいの? 半透明感にならない?」
「そう来ましたか」
眉根を寄せつつも、まだ嬉しそうな不知火。
「私も全然考えなかったわけじゃありません。ちょっと違うんですが、手作り風ソフトクリームってあるでしょう?」
「うん。見覚えある」
「『手作り風』ということは、手作りではない、ですよね」
「……多分。手作りにしているのなら、手作りソフトクリームと名付ければいい」
「そうなんです。『透明感』の『感』も、これと似た意味合いを持つのではないかと」
「透明感は透明でないってこと?」
「はい。もちろん、透明から懸け離れた状態を透明感とは言えないでしょうが、透明とは似て非なるものを透明感と呼ぶとすると、半透明はまさしく当てはまる」
「面白い。けど、『感』の字にそんな意味を持たせている言葉って、他にあったっけ。さっきのソフトクリームからの連想だけど、『手作り感』は手作りした感じがよく現れている、みたいな意味でも使うはずよ。この場合は手作りされてなきゃならない」
「はあ、困りました。疾走感、孤独感、現実感……。『感』の字は文字通り、感覚にまつわる表現だから、実際にそうであろうとなかろうと、当事者が感じればいいことになる。つまり、透明感だと実際に透明であってもいいことに」
「だけど、目の前に透明な物があれば、透明感ある~なんて言わずに、透明と言うよね」
「……」
急に黙りこくった不知火に、水原が訝る目を向けた。
「どうしたの? 何か閃いたとか」
「いえ、閃いたというか、ぼちぼち朝の休み時間も終わりですし、このお喋りにふさわしい締め括りはないかと考えてみたものの、ベタな落ちしか浮かびません」
「ははあ。よし、聞いてあげよう。どんなに恥ずかしくても言ってみなさい」
両頬杖をついて、待ち構える水原。不知火は壁の時計をちらと見てから、軽く息を吸い込んだ。
「『透明感の正体は掴み所がない。透明なだけに』」
「……三十点ぐらいかな?」
「百点満点で? 低いっ。でも、それくらいですよねえ。あまりにもストレートで」
「あはは。推理小説には透明人間とか人間消失とかのトリックがあるけれども、マジックではどうなのかしら」
「寡聞にして私もその辺りの知識は……今度、機会があったら佐倉さんに聞いてみましょう」
* *
つづく
「それから、透明感イコール白というのも不思議です。白は透明ではない。白は白です」
「そうだけど、辞書的には白なんじゃない?」
「私もそうなのかもしれないと想像して、透明感を辞書で引きました。にごりがなくて明るい感じ、だそうです。これだと白とは限りません。たとえば、にごりがなくて明るい赤色だってあります。さすがに、明るい黒は無理があるかもしれませんが」
「言われてみれば、不思議な言い回しよね。今度から小説に使えなくなりそう、透明感て」
「私が独自に解釈する透明感は、ある物体の回りを透明もしくは半透明の物質が包んでいる状態かなあ。カエルの卵みたいな」
「そこはタピオカみたいなと言って欲しかった」
「ああ、タピオカにも多少ありますね。でも、寒天や葛を使った和菓子に、より半透明の物があると思います」
「その伝で行くと……瑞々しい肌が、透明感のある肌? 潤いがあって、まるで水の薄い膜に包まれているような」
「あ、それいいです。ニュアンスが近付いてきた」
口元を緩め、嬉しそうに手を合わせる不知火。その様子を目の当たりにした水原は、敢えてひねくれた見方をぶつけたくなった。
「でも、元の言葉の意味に拘るのだったら、透明感なのに半透明でいいの? 半透明感にならない?」
「そう来ましたか」
眉根を寄せつつも、まだ嬉しそうな不知火。
「私も全然考えなかったわけじゃありません。ちょっと違うんですが、手作り風ソフトクリームってあるでしょう?」
「うん。見覚えある」
「『手作り風』ということは、手作りではない、ですよね」
「……多分。手作りにしているのなら、手作りソフトクリームと名付ければいい」
「そうなんです。『透明感』の『感』も、これと似た意味合いを持つのではないかと」
「透明感は透明でないってこと?」
「はい。もちろん、透明から懸け離れた状態を透明感とは言えないでしょうが、透明とは似て非なるものを透明感と呼ぶとすると、半透明はまさしく当てはまる」
「面白い。けど、『感』の字にそんな意味を持たせている言葉って、他にあったっけ。さっきのソフトクリームからの連想だけど、『手作り感』は手作りした感じがよく現れている、みたいな意味でも使うはずよ。この場合は手作りされてなきゃならない」
「はあ、困りました。疾走感、孤独感、現実感……。『感』の字は文字通り、感覚にまつわる表現だから、実際にそうであろうとなかろうと、当事者が感じればいいことになる。つまり、透明感だと実際に透明であってもいいことに」
「だけど、目の前に透明な物があれば、透明感ある~なんて言わずに、透明と言うよね」
「……」
急に黙りこくった不知火に、水原が訝る目を向けた。
「どうしたの? 何か閃いたとか」
「いえ、閃いたというか、ぼちぼち朝の休み時間も終わりですし、このお喋りにふさわしい締め括りはないかと考えてみたものの、ベタな落ちしか浮かびません」
「ははあ。よし、聞いてあげよう。どんなに恥ずかしくても言ってみなさい」
両頬杖をついて、待ち構える水原。不知火は壁の時計をちらと見てから、軽く息を吸い込んだ。
「『透明感の正体は掴み所がない。透明なだけに』」
「……三十点ぐらいかな?」
「百点満点で? 低いっ。でも、それくらいですよねえ。あまりにもストレートで」
「あはは。推理小説には透明人間とか人間消失とかのトリックがあるけれども、マジックではどうなのかしら」
「寡聞にして私もその辺りの知識は……今度、機会があったら佐倉さんに聞いてみましょう」
* *
つづく