第87話 マジックとトリック

文字数 1,403文字

 私のこの話に、シュウさんは眉間の辺りをちょっと掻いて、考える様子を見せた。それからじきに、
「それって、推理小説に使えないか考えてるのかもしれないね。みんながいるところであれこれきいたら小説で使えなくなっちゃう、とか考えて」
 と苦笑を浮かべた。
「なるほどね~。でも、練習もちゃんと熱心にやっていたから、わたし的には全然問題ないわ」
「推理小説のトリックに向いているマジックと言ったら、真っ先に思い浮かぶのはマジシャンズセレクトかな。多分、とっくの昔に使われているだろうけれども」
「私、再放送の推理ドラマで見たことある。日本のと外国の、両方にあったよ。マジックが関係してるって事前に分かってたから、見たんだけど」
 お客が自分の考えで選んだつもりが、実はマジシャンの予定通りの物を選ばされている。これがマジシャンズセレクト(マジシャンズチョイスとも)の定義かな。
「それなら水原さんも知ってる可能性が高いな。ああ、でもフォーシングは?」
 さっき言った定義でなら、フォーシングもマジシャンズセレクトに含まれることになる。
 フォーシングは、トランプのカードの中から、特定の一枚をお客さんに引かせる技術。正直言って、私のレベルだと友達相手にやってもほとんど効かない。意地悪な引き方をされたら対応できない。どうしてもフォーシングを取り入れたいときは、特殊なカードを使うことにしてる。お年玉を注ぎ込んで買ったんだけど、毎回同じカードしか引かせられないのが困る。
「フォーシングは推理ドラマでは見たことない気がする……」
 少なくとも私はない。あったとしても、ドラマの単なる一場面で、トリックとかには関係ないような。
「そもそもフォーシングって、推理ドラマに使えるのかなあ?」
「たとえば――小学生の前で語る話じゃない気もするんだけど――特定のカードに毒を塗っておいて、それを引かせることで、殺したいターゲットの手に毒が移る。ターゲットはそのあと何か手で摘まむようなものを食べて、毒が回って……とか」
「おかしいよ、それ。一枚だけに毒を付けたって、他のカードに移るし、マジシャンの手にも移る。それにその状況でお客が死んだら、マジシャンが真っ先に疑われるんじゃない?」
「おおっ、萌莉もなかなか鋭いね。これは僕が浅はかだった。それだったら……占いと絡めるのがいいかな」
「占いって、つちりんと?」
 ストレートに感想を言うと、シュウさんは微苦笑を返してきた。
「まあ、土屋さんのことが思い浮かんだのは確かだけど。占いで結果を思い通りに出せたら、相手は占い師を信じきるかも。言うことなら何でも聞くぐらいに」
「……シュウさん、案外怖いこと考えつくんだね~」
「これは水原さんのために、ちょっと考えてみただけだよ。本当にマジックを使ったトリックがいるのなら早めにこちらから提案してあげたい。できることなら、マジックサークルに参加しているときは、マジックだけに集中してほしいから」
「私よりも厳しい!」
「それはそうだよ。僕はマジックを教えに行くんだからね。まあ、推理小説やトリックは僕も嫌いじゃない。考えるのは終わってからにしてねってこと」
「それじゃ、確かめなくちゃ。私達、勝手に想像してしゃべってるだけだもの。水原さんに悪いわ」
「そうだったね。ちょっと勇み足だった」
 シュウさんは頭をかいた。

 つづく
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登場人物紹介

佐倉萌莉《さくらもり》。小学五年生。愛称はサクラ。マジック大好き。普段はどちらかと言えば引っ込み思案。

木之元陽子《きのもとようこ》。サクラの同級生。元気印で耳年増。

不知火遥《しらぬいはるか》。同級生。本好きで寡黙。大人びて少しミステリアスなところも。

佐倉秀明《さくらしゅうめい》。高校一年生。マジックが趣味。萌莉の従兄弟で憧れ。

相田克行《あいだかつゆき》。五年五組の担任。ぼさーっとしていて、よく言えば没頭型学者風、悪く言えば居候タイプ。やる気があるのかないのか。

金田朱美《かねだあけみ》。クラスは違うがサクラの友達。宝探しが夢。

土屋善恵《つちやよしえ》。同じくサクラの友達。愛称つちりん。オカルト好きだけど現実的な面もある。

水原玲《みずはられい》。サクラの同級生。推理小説好きが高じて文芸部に。

森宗平《もりそうへい》。サクラの同級生。クイズ・パズルマニア。

内藤肇《ないとうはじめ》。サクラの同級生でクラス委員長。女子からの人気高し。

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