第64話 直接対決!
文字数 1,656文字
『事件簿を 発表したら 名誉きそん』
教室内がどよどよとして、言われてみればって感想が漏れ聞こえた。
「以上です。終わります」
不知火さんは手の平で顔を仰ぎながら教卓を離れた。とても落ち着いているように見えていたけれども、実際は緊張して顔が熱くなっていたのかもしれない。
とにかく、不知火さんのおかげで、刺々しい空気はいくらか和らいだ気がする。
この様子なら、水原さんも多少はやりやすくなるんじゃあ……と期待した。けれども、交代して水原さんが教壇に上がると、また最初の張り詰めた感じがぶり返してきてしまった。うーん、やっぱりわだかまりって簡単には取れないのかな。
とにもかくにも、私は全力で水原さんをサポートするだけ。私自身は共演者と見なされないよう、教壇の端も端に遠慮がちに立った。
「三つ目の条件として出してもらった、私がカードマジックを披露する、ですが」
一礼をしてから水原さんが口上を始めた。
「気持ちよく終えたいので、お願いがあります。これからするのは魔法や超能力じゃなく、種があるマジックです。だから、種を知っていてもこの場では言わないでくさだい。あとでならいくらでも言ってかまいませんから。それともう一つ」
海堂さん達の方に視線をやり、左手を向ける水原さん。
「使うトランプは、海堂先輩達の用意したトランプです。私が受け取る前に、皆さんでそのトランプを徹底的に調べてください。最初の時点では、種も仕掛けもないことを証明するためですので、お願いします」
口ぶりはちょっと固いけど、まずまず順調な滑り出しだ。
カードをみんなにチェックしてもらうのは私が今日になって思い付いたの。ないとは思うけれども、水原さんと文芸部の人がグルだと思われるのは嫌だし、それ以上に借りたトランプに変な仕掛けがあったら困るから。絶対に意地悪をされないという保証はない。水原さんの初舞台を飾るためなら、私はとことん疑り深い性格になってやろう。
外園さんが取り出したトランプは、よくあるゲーム用のカードだった。裏の模様に上下の区別はなく、サイズも普通。遠目からだと断定はできないが、材質はプラスチックだろう。
「何にもない、普通のトランプ。順番もばらばら」
調べたみんなの声をまとめると、だいたいこんな感じ。一人だけいやに時間を取ってるなあと思ったら、全部のカードがあるかどうかをチェックしてた。ありがたいけど、時間をあんまり取られると、間延びして水原さんによくない影響が出るかも……。ううん、まだ大丈夫。緊張をほぐすのにちょうどいい時間だわ。
チェックが終わって、カードが水原さんの手に渡った。すでにケースから出されている。
水原さんは深呼吸をした。がんばって!
「それでは始めます。まず、ジョーカーは不吉な印ですから、使わないことにします」
束を表向きに持ち、素早く左から右へ一枚ずつカードを送っていく。程なくして、ジョーカー二枚が見付かった。
実はジョーカーを取り除かなくても、マジックに差し障りはない。トランプに少しでも馴染むための時間稼ぎなの。二枚のジョーカーを教卓の隅に置き、残りのシャッフルを始める水原さん。ヒンズーシャッフルをしばらくやって、慣れたところでリフルシャッフル……なんだけど、切るのに意識が向いちゃって、お喋りが止まってしまった。
私は少し考え、
「こうしてよく切るのは、カードの位置を覚えているわけじゃないってことを分かってもらうためです」
と皆に向けて言った。水原さんも思い出したらしく、「そう、これで何がどこにあるのか分からない」と続ける。
「もちろん、皆さんがシャッフルしても大丈夫です。さっきみたいに全員に回すのは時間が掛かりすぎるので、代表して――」
水原さんは海堂さんと外園さん両先輩の方を見た。
「いかがですか」
「……じゃ、私が」
二人は顔を見合わせて、海堂さんがトランプを受け取った。ヒンズーシャッフルで念入りに切る。
つづく
教室内がどよどよとして、言われてみればって感想が漏れ聞こえた。
「以上です。終わります」
不知火さんは手の平で顔を仰ぎながら教卓を離れた。とても落ち着いているように見えていたけれども、実際は緊張して顔が熱くなっていたのかもしれない。
とにかく、不知火さんのおかげで、刺々しい空気はいくらか和らいだ気がする。
この様子なら、水原さんも多少はやりやすくなるんじゃあ……と期待した。けれども、交代して水原さんが教壇に上がると、また最初の張り詰めた感じがぶり返してきてしまった。うーん、やっぱりわだかまりって簡単には取れないのかな。
とにもかくにも、私は全力で水原さんをサポートするだけ。私自身は共演者と見なされないよう、教壇の端も端に遠慮がちに立った。
「三つ目の条件として出してもらった、私がカードマジックを披露する、ですが」
一礼をしてから水原さんが口上を始めた。
「気持ちよく終えたいので、お願いがあります。これからするのは魔法や超能力じゃなく、種があるマジックです。だから、種を知っていてもこの場では言わないでくさだい。あとでならいくらでも言ってかまいませんから。それともう一つ」
海堂さん達の方に視線をやり、左手を向ける水原さん。
「使うトランプは、海堂先輩達の用意したトランプです。私が受け取る前に、皆さんでそのトランプを徹底的に調べてください。最初の時点では、種も仕掛けもないことを証明するためですので、お願いします」
口ぶりはちょっと固いけど、まずまず順調な滑り出しだ。
カードをみんなにチェックしてもらうのは私が今日になって思い付いたの。ないとは思うけれども、水原さんと文芸部の人がグルだと思われるのは嫌だし、それ以上に借りたトランプに変な仕掛けがあったら困るから。絶対に意地悪をされないという保証はない。水原さんの初舞台を飾るためなら、私はとことん疑り深い性格になってやろう。
外園さんが取り出したトランプは、よくあるゲーム用のカードだった。裏の模様に上下の区別はなく、サイズも普通。遠目からだと断定はできないが、材質はプラスチックだろう。
「何にもない、普通のトランプ。順番もばらばら」
調べたみんなの声をまとめると、だいたいこんな感じ。一人だけいやに時間を取ってるなあと思ったら、全部のカードがあるかどうかをチェックしてた。ありがたいけど、時間をあんまり取られると、間延びして水原さんによくない影響が出るかも……。ううん、まだ大丈夫。緊張をほぐすのにちょうどいい時間だわ。
チェックが終わって、カードが水原さんの手に渡った。すでにケースから出されている。
水原さんは深呼吸をした。がんばって!
「それでは始めます。まず、ジョーカーは不吉な印ですから、使わないことにします」
束を表向きに持ち、素早く左から右へ一枚ずつカードを送っていく。程なくして、ジョーカー二枚が見付かった。
実はジョーカーを取り除かなくても、マジックに差し障りはない。トランプに少しでも馴染むための時間稼ぎなの。二枚のジョーカーを教卓の隅に置き、残りのシャッフルを始める水原さん。ヒンズーシャッフルをしばらくやって、慣れたところでリフルシャッフル……なんだけど、切るのに意識が向いちゃって、お喋りが止まってしまった。
私は少し考え、
「こうしてよく切るのは、カードの位置を覚えているわけじゃないってことを分かってもらうためです」
と皆に向けて言った。水原さんも思い出したらしく、「そう、これで何がどこにあるのか分からない」と続ける。
「もちろん、皆さんがシャッフルしても大丈夫です。さっきみたいに全員に回すのは時間が掛かりすぎるので、代表して――」
水原さんは海堂さんと外園さん両先輩の方を見た。
「いかがですか」
「……じゃ、私が」
二人は顔を見合わせて、海堂さんがトランプを受け取った。ヒンズーシャッフルで念入りに切る。
つづく