第183話 ケースバイケース
文字数 1,835文字
手のひらを顔の前で左右に振って、さらに頭も同じように振る。本当に分かってないのだから、この役目を押し付けられるのは困ってしまう。
「そうかい。では気が付いたところ、確実に言えるところがあると思うから、そこだけちょっと言ってくれないかな」
「それなら言える。確実に言える点……好きな数字を言ったあと、それに対して行う手順が違ったわ」
「え? 違うことするの?」
何人かが声を上げた。私はシュウさんの反応を窺いつつ、ここは自分が話すところだと察した。
「うん。私のときは自宅に掛かってきた電話越しだったんだけどね。十三を選んでみたら、次に赤か黒どちらかを選べと言われて黒にして、最後にスペードかクラブのどちらかを選べって言われたからクラブにした」
「へー、選ばせる事柄も違うのか」
森君が声を上げたが、そのまま“経験談”を続けさせてもらおうっと。
「そうしたらシュウさん――師匠は、壁に掛かっているカレンダーを手に取って、最後の十二月までめくってと言ったわ。そうだよね?」
記憶があっているかの確認を求める。シュウさんは無言で首を縦に振った。
「それから……十二月の十三日に注目するように言われて、でも何にもないから変だなと思った。そうしたら十二月のカレンダーを裏から見るようにと指示が出て、十三日の真裏を見てみたら、鉛筆でクラブのマークが書いてあった」
「おお」
情景を思い浮かべた様子のみんな。感心している人もいれば、信じられないという風に小首を傾げている人もいる。
「ん、ありがとう。今のでこのマジックの秘密はだいたい出てる」
シュウさんが再び解説する。
「相手の言った数に合わせて対応を変えるんだ。だから基本的に一度やってみせた人の前ではもう二度と演じられない」
「えっと、待って待って。ということは」
陽子ちゃんが両手で頭を押さえながら焦り気味に言った。
「私が十三を選んでいたら、そのあと色とマークを聞かれて、この十三日の裏を見ろって言われてたんですか? さっき調べたとき、裏側も見たけれども何もなかったような」
言いながら自信が持てなくなったのかしら、陽子ちゃんは実際にカレンダー全体を裏向きにした。十二月十三日の真裏には、特に何か書き込まれている様子はない。
「そうだね。今日は少しだけ変えたんだ」
「「何で?」」
この声は私と陽子ちゃんのが揃ったもの。
「佐倉の場合は僕にとってこれまでの経験上、何を選びやすいかがおおよそ想像できるからね。言い方は悪くなっちゃうけど、マジックにすれているからね。1から13までと言われたら最も縁起がよくなさそうな13を選ぶ確率が高いんだろうなとか、四つのマークからなら一番地味なクラブを選ぶだろうなとか、そういうことを予測して決めた」
シュウさんの視線が私から陽子ちゃんへと移動する。
「一方、今日は状況が大きく違うだろ。僕は木之元さんの性格を知らない。全然知らないわけではないけれども、マジックに当てはめるのは危険だ。だから最初から手順を変更して、君がたとえ13を口にしていたとしても、色やマークの質問はするつもりはなかった。好きな数として挙げた6を、いかにしてこの十二月十三日にあてはまるよう持って行くかだ」
シュウさんの指が、十二月の十三日をとんとんと叩く。
「今月が六月であることを利用して6+6で12。これでもう十二月に来た。十三日の方は若干厳しいが、クリスマスから12を引くことにした」
「ははぁ。じゃあ、他の数の場合も教えてください」
「もちろんだとも。まず、13はいいね? 十二月は最後のページというそれだけで意味があるように聞こえるから、最後のページの十三日を見るように言う。
12と言われたときも簡単。『それじゃあ十二月のカレンダーを見てください』と指示すればあとは勝手に十三日の書き込みに目が留まるはずだ」
「十一と言われたらどうするのさ。1足りない」
森君が挑発的に言った。シュウさんが答えられないはずがないと分かっているでしょうに。
「そのときは少し言葉の表現を変える。『11が好きですか。では十一月のカレンダーまでめくり上げてください』と指示する。十一月までめくって持ち上げれば、見えるのは十二月だろ?」
「う、なるほど」
ころっと態度を変えて、感心することしきりの森君。と、今度は朱美ちゃんが聞き役になる。
「でも次の10は難関だと思えるんだけど」
つづく
「そうかい。では気が付いたところ、確実に言えるところがあると思うから、そこだけちょっと言ってくれないかな」
「それなら言える。確実に言える点……好きな数字を言ったあと、それに対して行う手順が違ったわ」
「え? 違うことするの?」
何人かが声を上げた。私はシュウさんの反応を窺いつつ、ここは自分が話すところだと察した。
「うん。私のときは自宅に掛かってきた電話越しだったんだけどね。十三を選んでみたら、次に赤か黒どちらかを選べと言われて黒にして、最後にスペードかクラブのどちらかを選べって言われたからクラブにした」
「へー、選ばせる事柄も違うのか」
森君が声を上げたが、そのまま“経験談”を続けさせてもらおうっと。
「そうしたらシュウさん――師匠は、壁に掛かっているカレンダーを手に取って、最後の十二月までめくってと言ったわ。そうだよね?」
記憶があっているかの確認を求める。シュウさんは無言で首を縦に振った。
「それから……十二月の十三日に注目するように言われて、でも何にもないから変だなと思った。そうしたら十二月のカレンダーを裏から見るようにと指示が出て、十三日の真裏を見てみたら、鉛筆でクラブのマークが書いてあった」
「おお」
情景を思い浮かべた様子のみんな。感心している人もいれば、信じられないという風に小首を傾げている人もいる。
「ん、ありがとう。今のでこのマジックの秘密はだいたい出てる」
シュウさんが再び解説する。
「相手の言った数に合わせて対応を変えるんだ。だから基本的に一度やってみせた人の前ではもう二度と演じられない」
「えっと、待って待って。ということは」
陽子ちゃんが両手で頭を押さえながら焦り気味に言った。
「私が十三を選んでいたら、そのあと色とマークを聞かれて、この十三日の裏を見ろって言われてたんですか? さっき調べたとき、裏側も見たけれども何もなかったような」
言いながら自信が持てなくなったのかしら、陽子ちゃんは実際にカレンダー全体を裏向きにした。十二月十三日の真裏には、特に何か書き込まれている様子はない。
「そうだね。今日は少しだけ変えたんだ」
「「何で?」」
この声は私と陽子ちゃんのが揃ったもの。
「佐倉の場合は僕にとってこれまでの経験上、何を選びやすいかがおおよそ想像できるからね。言い方は悪くなっちゃうけど、マジックにすれているからね。1から13までと言われたら最も縁起がよくなさそうな13を選ぶ確率が高いんだろうなとか、四つのマークからなら一番地味なクラブを選ぶだろうなとか、そういうことを予測して決めた」
シュウさんの視線が私から陽子ちゃんへと移動する。
「一方、今日は状況が大きく違うだろ。僕は木之元さんの性格を知らない。全然知らないわけではないけれども、マジックに当てはめるのは危険だ。だから最初から手順を変更して、君がたとえ13を口にしていたとしても、色やマークの質問はするつもりはなかった。好きな数として挙げた6を、いかにしてこの十二月十三日にあてはまるよう持って行くかだ」
シュウさんの指が、十二月の十三日をとんとんと叩く。
「今月が六月であることを利用して6+6で12。これでもう十二月に来た。十三日の方は若干厳しいが、クリスマスから12を引くことにした」
「ははぁ。じゃあ、他の数の場合も教えてください」
「もちろんだとも。まず、13はいいね? 十二月は最後のページというそれだけで意味があるように聞こえるから、最後のページの十三日を見るように言う。
12と言われたときも簡単。『それじゃあ十二月のカレンダーを見てください』と指示すればあとは勝手に十三日の書き込みに目が留まるはずだ」
「十一と言われたらどうするのさ。1足りない」
森君が挑発的に言った。シュウさんが答えられないはずがないと分かっているでしょうに。
「そのときは少し言葉の表現を変える。『11が好きですか。では十一月のカレンダーまでめくり上げてください』と指示する。十一月までめくって持ち上げれば、見えるのは十二月だろ?」
「う、なるほど」
ころっと態度を変えて、感心することしきりの森君。と、今度は朱美ちゃんが聞き役になる。
「でも次の10は難関だと思えるんだけど」
つづく