第149話 突然のテスト
文字数 1,604文字
私は率直に不安を伝えてみることにした。
「それだと、私が最初にやるのが模範演技みたいになるんでしょ? うまくいくかなあ。シュウさんが後半をしてくれるからには、それなりにレベルが高い演目になるんでしょ?」
「まあ、そう焦って決めなくてもいいさ。萌莉は間違いなく、他の子よりは進んでいるんだから、折を見て新しい物を教えてあげる」
「ほんとに? そうなったら凄く嬉しいな。――そうだ、基本的なシャッフルはみんなできるようになってるよ。そのあとのカードの操作はまだ完全じゃないけど。前も言ったと思うけれど、つちりんは早い。コツを掴んだら一気によくなるわ。今は主に、きれいな扇の開き方をやってる」
「おおー、それは楽しみ。他の子は? 覚えが遅い子がいて困ってるとか、ないかい?」
「遅いっていうほどじゃないよ。困ってるって言うのなら、私の方針がぶれそうで、困ってるというか迷ってるというか」
「へえ? 聞かせてよ」
「いいの? 結構長くなるかも」
「ん、まあ、時間はある。でもなるべく手短に願いたいな」
シュウさんの言葉を受けて、私はマジック以外のことをどの程度取り入れていいものなのか、迷っていることをなるべく簡潔に伝えた。といっても、実際の例を挙げなきゃいけない気がしたので、森君の夢の話についてもそれなりに踏み込んで説明した。
「――こんな具合なの。ちょっとは入れてもいいと考えてるんだけど、どこかできちっと線を引いておかないと、きりがないような」
「それが不安だと。まあ、そもそもの始まりは、占いや宝探しまで許容しようっていうコンセプトだったんだから、色々と取り入れてみるのはみんなだって想定済みに違いないから、いいと思うよ。線引きは確かに望ましいけれど、難しいな」
軽く唸る声が聞こえた。
「萌莉は江戸川乱歩って知ってるんだっけ」
唐突な問い掛けに思えたけれども、とりあえずは即答しよう。
「もちろん。図書室にある少年探偵団シリーズを書いた人でしょ」
「ああ、そうなんだ。乱歩は推理作家の集まりの会長みたいなことをやってたんだけど、そのグループの月に一度の例会で、色んな専門家を呼んで、話を聞くということをやったらしい」
「ふん。たとえばどんな?」
「マジシャンとか元刑事とか法医学者、だったかな」
「えっ。あとの二つは分かるけど、マジシャン? 何で」
いきなりの意外な話に驚き、興味も湧く。
「もちろん、推理小説を書く参考や刺激になると考えたからだ。マジックの騙しおよび魅せるテクニックは、刺激的だったと思うね。事実、推理作家にはマジックを趣味とする人が結構いてさ。マジックの賞に名前を冠する人までいるんだ。また趣味を活かして、女性奇術師や女子高生マジシャンが探偵役の作品もある」
「へえ~」
「だから萌莉も、特段、気にしなくていいんじゃないかとも思う。興味があることで、萌莉のマジックの感性に触れるような物なら、どんどんやってみる。この方針でやってみて、傍から僕が見ていてこれはあんまりだなと思うのがあったら、アドバイスするからさ。そのとき修正していけばいい」
シュウさんからの後押しは大きい。自信がなかったことでもたちまち前に進める気になれる。
「分かったわ。ありがとう、シュウさん」
「どういたしまして。――ところで、折角だからちょっとしたテストをしてあげよう」
「はい? テストって」
シュウさんが学校のようなテストをするはずがないので、マジックに関係したことなんだろうとは思う。だけれども、唐突に過ぎるよ~。どぎまぎしちゃう。
「萌莉がどこまでマジックの勉強をしているか、アンテナを張り巡らせているかを計るテストだ。テレビでも流れた割と有名な演目だからね。ちょっとアレンジしているけれども」
やっぱりだ。私は気合いを入れるために頬を左右順番に、自分でぺちぺち叩いた。
つづく
「それだと、私が最初にやるのが模範演技みたいになるんでしょ? うまくいくかなあ。シュウさんが後半をしてくれるからには、それなりにレベルが高い演目になるんでしょ?」
「まあ、そう焦って決めなくてもいいさ。萌莉は間違いなく、他の子よりは進んでいるんだから、折を見て新しい物を教えてあげる」
「ほんとに? そうなったら凄く嬉しいな。――そうだ、基本的なシャッフルはみんなできるようになってるよ。そのあとのカードの操作はまだ完全じゃないけど。前も言ったと思うけれど、つちりんは早い。コツを掴んだら一気によくなるわ。今は主に、きれいな扇の開き方をやってる」
「おおー、それは楽しみ。他の子は? 覚えが遅い子がいて困ってるとか、ないかい?」
「遅いっていうほどじゃないよ。困ってるって言うのなら、私の方針がぶれそうで、困ってるというか迷ってるというか」
「へえ? 聞かせてよ」
「いいの? 結構長くなるかも」
「ん、まあ、時間はある。でもなるべく手短に願いたいな」
シュウさんの言葉を受けて、私はマジック以外のことをどの程度取り入れていいものなのか、迷っていることをなるべく簡潔に伝えた。といっても、実際の例を挙げなきゃいけない気がしたので、森君の夢の話についてもそれなりに踏み込んで説明した。
「――こんな具合なの。ちょっとは入れてもいいと考えてるんだけど、どこかできちっと線を引いておかないと、きりがないような」
「それが不安だと。まあ、そもそもの始まりは、占いや宝探しまで許容しようっていうコンセプトだったんだから、色々と取り入れてみるのはみんなだって想定済みに違いないから、いいと思うよ。線引きは確かに望ましいけれど、難しいな」
軽く唸る声が聞こえた。
「萌莉は江戸川乱歩って知ってるんだっけ」
唐突な問い掛けに思えたけれども、とりあえずは即答しよう。
「もちろん。図書室にある少年探偵団シリーズを書いた人でしょ」
「ああ、そうなんだ。乱歩は推理作家の集まりの会長みたいなことをやってたんだけど、そのグループの月に一度の例会で、色んな専門家を呼んで、話を聞くということをやったらしい」
「ふん。たとえばどんな?」
「マジシャンとか元刑事とか法医学者、だったかな」
「えっ。あとの二つは分かるけど、マジシャン? 何で」
いきなりの意外な話に驚き、興味も湧く。
「もちろん、推理小説を書く参考や刺激になると考えたからだ。マジックの騙しおよび魅せるテクニックは、刺激的だったと思うね。事実、推理作家にはマジックを趣味とする人が結構いてさ。マジックの賞に名前を冠する人までいるんだ。また趣味を活かして、女性奇術師や女子高生マジシャンが探偵役の作品もある」
「へえ~」
「だから萌莉も、特段、気にしなくていいんじゃないかとも思う。興味があることで、萌莉のマジックの感性に触れるような物なら、どんどんやってみる。この方針でやってみて、傍から僕が見ていてこれはあんまりだなと思うのがあったら、アドバイスするからさ。そのとき修正していけばいい」
シュウさんからの後押しは大きい。自信がなかったことでもたちまち前に進める気になれる。
「分かったわ。ありがとう、シュウさん」
「どういたしまして。――ところで、折角だからちょっとしたテストをしてあげよう」
「はい? テストって」
シュウさんが学校のようなテストをするはずがないので、マジックに関係したことなんだろうとは思う。だけれども、唐突に過ぎるよ~。どぎまぎしちゃう。
「萌莉がどこまでマジックの勉強をしているか、アンテナを張り巡らせているかを計るテストだ。テレビでも流れた割と有名な演目だからね。ちょっとアレンジしているけれども」
やっぱりだ。私は気合いを入れるために頬を左右順番に、自分でぺちぺち叩いた。
つづく