第23話 鬼に笑われない程度に先のことを

文字数 2,179文字

 時間と体力に余裕があったら、森君の家のあとは、朱美ちゃんの家にも寄ってみようって予定していたんだけれども。
 疲れちゃった。初めての家、それもクラスの男子ということで、知らない内に緊張していたのかなあ。実際の体力よりも、気分が疲れてる。
 加えて、朱美ちゃんが、私が森君の家に行ってきたことを知ったら、あれこれ聞いてくるかもしれない。その相手をするのも、今は多分しんどい。これは帰った方がよさそうと判断して、家路を目指す。途中、おもちゃ屋さんの横を通るけれども、マジックグッズを見るのはまた次の機会にしよう。

「面白そうじゃない」
 翌日の午前中、朱美ちゃんを家に訪ねて、五月五日のショーの件を伝えると、関心を示してくれた。続けて言われたこの台詞にはガクッときたけどね。
「何たって、ただってのがいいわ」
「電車代はかかるよ……ま、私達みたいな子供には、特にそうだよね。無料がいい」
 そこを認めてから、当日の集合場所などの仮決定事項を伝えておく。
「こんな感じなんだけど、スケジュールは大丈夫そう?」
「うん。いいよ。行く。会場の雰囲気が気になるなあ。野次っていいのかな?」
「えー、やめてあげて」
 プロマジシャンならまだしも(いや、ほんとはだめだよっ)、アマチュアの人達の公演でそんなことをしたら、ひんしゅくを買うのは間違いなし。温かい声援を送らなくちゃ。
「本気で受け取らないでよ、サクラ。冗談冗談。笑って笑って」
 私の顔が相当に怖いものになっていたのか、朱美ちゃんは両手で猛獣をなだめる動作をした。そのまま話題転換してきた。
「ところで、気の早い話していい?」
「何?」
「夏休みのことなんだけど、まさか合宿とかはないわよね」
「合宿。考えてもいなかったわ。サークルだし、文系だし」
「だったら、こっちに参加してみない?」
 そう言った朱美ちゃんは、勉強机のシートに挟んであった紙を引っ張り出してきて、私に見せてくれた。
 一見してポスターと分かるそれは、カラフルな色使いで、特に目立つ中央やや上寄りに、「宝探しゲーム」って文字が躍る。
「えっ、宝探しって本物?」
「ううん残念ながら違う。脱出ゲームの変形って感じ? 三人一組でチームを作り、色んなヒントを元に定められた時間内に主催者が隠した宝を見付けて、順番を競う」
 面白そうだけど、朱美ちゃんが興味あるのは本物の宝物だけじゃなかったっけ。
「賞金や賞品がかかっていて、一等は現金十万円なんだって」
「おお」
 私達には大金だ。三で割っても結構大きい。
「――うん? 年齢制限があるって書いてるよ。三人の内少なくとも一人は高校生以上か十六歳以上じゃなきゃいけないんだって」
 十五歳でも高校生ならOKなのね。
「そこはシュウさんに頼もうかと」
 まだ一度も会ったことのない人にそういうお願いをしようと思い付ける度胸が凄い。
「夏休みの高校生に、それを頼むっていうのはさすがに……。親とか着いて来てくれそうな人いない?」
「うちの親は頼めば、会場までは送ってくれると思う。でも、こういう頭を使う系って苦手っていうか、したくないっていうか、要するに休みの日は休むって性格なんだよね。だから、参加するのは絶対に無理」
「じゃあ、うちのお母さんに頼んでみようかな。まだ先のことだから、すぐの返事は無理だろうけど」
「それでもいいよ。助かる。けど、奇術サークルのみんなが行きたいって言い出したとしたら、十六歳以上の人がもっと必要になる」
「もしそうなったら、他の人の家族に頼むか……いっそのこと、相田先生に頼んでみるのもいいかな」
「おー、ナイスアイディア。奇術サークルの活動ってことにして、顧問としての役割を果たさせてあげよう」
 何だか上から目線な朱美ちゃん。それはさておくとして、もし都合がいいようなら、本当に先生を引っ張り出すのも悪くはないかなと思えてきた。先生と一緒に校外のイベントに参加するなんて、たとえゲームがうまく行かなくても話の種になるし、思い出作りにもなる。
「奇術サークルから何チームも出せば、一等を取る確率も上がる!」
 本気で狙っているんだ、朱美ちゃん。それなら頭の回転が速い人を揃えたチームを作った方が有利かもしれないよ。ていう意味のことをアドバイスすると、朱美ちゃんは本格的に考え始めた。
「私自身は絶対に参加したいから外れないとして、二人目は……やっぱり、不知火さん? 森君の暗号を解くのに一番貢献のあった人だから」
「だよね。参加する気になってくれるか、まだ分からないけど。参加できないときは、森君もいいと思うわよ。クイズやパズルを作るのも解くのも両方やってるから」
「ああ、そうか、それは認めないとね」
「最後の三人目は、高校生以上の人か。私が見る限りだと、シュウさんの方が相田先生よりは向いてるかなーって気はするんだけど、それとは別に大人の知恵だって必要な気がする」
「まあ、応募の締め切りまで二ヶ月くらいあるし、メンバー決めはぼちぼち考えていこう」
 朱美ちゃんたら、自分が真っ先に考え始めたのに、あっさり先延ばしにするなんて。よく言えば頭が柔らかい、悪く言うと飽きっぽいってことになるのかな? 飽きっぽいのって、宝探しの才能とは真逆のような。

 つづく
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登場人物紹介

佐倉萌莉《さくらもり》。小学五年生。愛称はサクラ。マジック大好き。普段はどちらかと言えば引っ込み思案。

木之元陽子《きのもとようこ》。サクラの同級生。元気印で耳年増。

不知火遥《しらぬいはるか》。同級生。本好きで寡黙。大人びて少しミステリアスなところも。

佐倉秀明《さくらしゅうめい》。高校一年生。マジックが趣味。萌莉の従兄弟で憧れ。

相田克行《あいだかつゆき》。五年五組の担任。ぼさーっとしていて、よく言えば没頭型学者風、悪く言えば居候タイプ。やる気があるのかないのか。

金田朱美《かねだあけみ》。クラスは違うがサクラの友達。宝探しが夢。

土屋善恵《つちやよしえ》。同じくサクラの友達。愛称つちりん。オカルト好きだけど現実的な面もある。

水原玲《みずはられい》。サクラの同級生。推理小説好きが高じて文芸部に。

森宗平《もりそうへい》。サクラの同級生。クイズ・パズルマニア。

内藤肇《ないとうはじめ》。サクラの同級生でクラス委員長。女子からの人気高し。

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