第118話 試しと気付き

文字数 1,348文字

「そうだね。殺害方法から考えても犯行には計画性が感じられ、怒りに駆られて衝動的に殺したものではない」
「じゃあ、動機は消える?」
「ところがそうもいかない。交際していた事実は大きいし、王女は時折、侍従長と二人きりで会ったあと、機嫌を若干損ねることが何度かあったという証言が出ている。ファウスト侍従長は役目に忠実な人物で、そんな性格の彼が王女の疑心を招くような振る舞いをすること自体、考えにくいが、証言があるからには不和につながる何らかの出来事が起きていたと見なすのが妥当だろう。ここからは口さがない連中の噂話だが、侍従長は王室の秘密を探り出して、意のままに操ろうという魂胆があったのではないかと。その動きを察知した王女が手を打った、と」
「ふーん」
「モリ探偵師は、納得した?」
「いいや、全然。想像とは言え、またおかしな噂が出るもんだなって。侍従長が変な動きを見せて、それを王女様が察したからって、何で王女様が個人的に侍従長を殺さなきゃいけないのさ。王様か誰かに報告すればすむことでしょ」
「――さすがだね。これは謝らねばいけないな」
 そう前置きし、実際に頭を下げるメイン。宗平は戸惑いのあまり、「な、何だ?」とつぶやきながら、椅子をがたがた鳴らして気持ち、後ずさった。
「いや、実は今話した侍従長に関する噂話は、僕の作り話だ」
「な。何でそんな嘘を」
「試させてもらったんだ。正直、あなたは衛士とはいえ、若い。ついつい、『君』と呼び掛けてしまうくらいだよ。会ってから観察していると、時折冴えは見せるものの、王宮や国の常識的なことすら知らない部分が結構あるようだし、これから協力していくには不安の方が強い。そこで作り話を交えたら、どのくらいで気づくかなと試してみた。本当に申し訳ない」
「まったく……」
 怒ってもいい場面だと思う宗平だが、躊躇が上回る。この世界における一般常識を欠いているのは紛れもない事実なので、あまり強く出るのはまずい気がした。密かに深呼吸をし、
「で? 俺は合格ですかね?」
 と皮肉交じりに聞くことで、ガス抜きとする。
「もちろん、合格だよ。繰り返しになるけれども、失礼の段、お許しを」
「いいよもう。今さら丁寧語で『あなた』とか言われても、むずがゆい。何なら、『君』と呼んでくれた方がすっきりする」
「対等な立場でありたいから、お互いの呼び方にも差は付けたくないと思っていたんだけどね。意外と難しい」
「呼び方なんて関係ない。意見があれば遠慮なく言うから」
 宗平のこの言に、メインは軽くうなずき、「その心意気やよし、といったところかな」と笑った。次の瞬間にはもう表情を引き締め、
「では、さっきフィリポ馭者の動機について述べたとき、君は何か言いたげになったように見えたんだが、あれは遠慮じゃないのかな」
 と指摘してきた。宗平は頭をかいて弁明する。
「あ、気付かれてたんだ? 遠慮したんじゃないさ。聞くタイミングを待っていただけ」
「それなら今がそのタイミングということにしよう」
「じゃあ……侍従長は馭者にお金を気前よく貸していたってことだけど、どうしていきなり厳しく取り立ててるようになったのかなって疑問に思った。急にお金が必要になったとか?」

 つづく
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登場人物紹介

佐倉萌莉《さくらもり》。小学五年生。愛称はサクラ。マジック大好き。普段はどちらかと言えば引っ込み思案。

木之元陽子《きのもとようこ》。サクラの同級生。元気印で耳年増。

不知火遥《しらぬいはるか》。同級生。本好きで寡黙。大人びて少しミステリアスなところも。

佐倉秀明《さくらしゅうめい》。高校一年生。マジックが趣味。萌莉の従兄弟で憧れ。

相田克行《あいだかつゆき》。五年五組の担任。ぼさーっとしていて、よく言えば没頭型学者風、悪く言えば居候タイプ。やる気があるのかないのか。

金田朱美《かねだあけみ》。クラスは違うがサクラの友達。宝探しが夢。

土屋善恵《つちやよしえ》。同じくサクラの友達。愛称つちりん。オカルト好きだけど現実的な面もある。

水原玲《みずはられい》。サクラの同級生。推理小説好きが高じて文芸部に。

森宗平《もりそうへい》。サクラの同級生。クイズ・パズルマニア。

内藤肇《ないとうはじめ》。サクラの同級生でクラス委員長。女子からの人気高し。

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