第106話 マジックはあったんだ

文字数 1,246文字

 ここまでメインが過不足なく話してくれていたので、口を挟もうとは微塵も思わなかった宗平だったが、毒について知りたいことがスルーされそうな流れを感じて、慌てて手を挙げた。
 メインは腰の左右に手を当てて、ため息交じりに応じた。
「仕方がない。何でしょうか、モリ探偵師?」
「エルクサムのこと、自分はよく知らないんだ。だから当たり前のことかもしんないけど、聞いておきたい。飲む分量によって、効き目が現れるまでの時間が違ってくるんじゃないのかな?」
「なるほど。エルクサムの常識と言えるかどうかは分からないが、分量を減らすと全く効き目がなくなる性質があるとされている。錠剤一錠の八割程度を服用すれば効果あり、八割未満なら何も起きない」
「へえ~」
「ついでに言っておくと、量が多いからと言って早く効くものでもないそうだ」
「ふうん。ありがとう、メインさん」
 ライバルではあるが礼儀を重んじて礼を述べ、頭も下げた。何せ、同じ土俵に立たないと勝負にならない。
 メインは宗平の態度に頬を若干緩め、またすぐに引き締めた。
「話を戻そう。毒殺となると、誰がいかにして服用させたかが鍵になる。まず、エルクサムの形状から言って、水分なしに飲むことはできない。獣に与えるときも、大量の水で流し込むそうなんだ。だが、現場には容器の類が一切なかった。現場を収めた念写真(ねんしゃしん)を示すとしよう。しばしの猶予を」
 メインは指を鳴らした。呼応して、脇に控えていたチェリーが立ち上がって、学校の先生が持つような指し棒を、取り出しながら延ばした。右手に持ったそれを一振りすると、白い布みたいな物がするすると出現。形や大きさはまるでベッドのシーツだ。長い方の一辺を上下に、見えない物干し竿に干したかのように垂れ下がる。実際には宙に浮いていた。チェリーはちょこんと首を傾げ、わずかに残るしわをきれいに伸ばしにかかる。
「お、おい」
 待つ間に、宗平はマルタに耳打ちした。
「もしかして、チェリーも魔法を使えるのか」
「ええ。触れることなく物を宙に浮かせられる」
 当然とばかり、あっさり答えるマルタ。
「制限があって、高さは彼女の身長の倍をちょっと超えるくらい、三メートルぐらいまでしか上げられない。物体との距離も同じく三メートルまで。物体の重量も、チェリー自身の体重をわずかでもオーバーする物は無理。全く持ち上がらない。さらに、彼女自身に効果は発揮されない。自分で自分を持ち上げられないってこと」
「結構面倒なんだな。あ、布が現れたのは?」
「あれは彼女の趣味というか特技で、奇術よ」
 ということは、この世界にもマジックはあるってか!
(佐倉、よかったな)
 何とも言えず、安堵していた。
 そこへややきつい調子の口ぶりで、チェリーの声が届く。
「ほら、よそ見しないっ。準備が整ったので、注目!」
 そっちが手間取って待たせておいてそれかよ……。宗平はさっきの「よかったな」を返してもらいたくなった。

 つづく
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登場人物紹介

佐倉萌莉《さくらもり》。小学五年生。愛称はサクラ。マジック大好き。普段はどちらかと言えば引っ込み思案。

木之元陽子《きのもとようこ》。サクラの同級生。元気印で耳年増。

不知火遥《しらぬいはるか》。同級生。本好きで寡黙。大人びて少しミステリアスなところも。

佐倉秀明《さくらしゅうめい》。高校一年生。マジックが趣味。萌莉の従兄弟で憧れ。

相田克行《あいだかつゆき》。五年五組の担任。ぼさーっとしていて、よく言えば没頭型学者風、悪く言えば居候タイプ。やる気があるのかないのか。

金田朱美《かねだあけみ》。クラスは違うがサクラの友達。宝探しが夢。

土屋善恵《つちやよしえ》。同じくサクラの友達。愛称つちりん。オカルト好きだけど現実的な面もある。

水原玲《みずはられい》。サクラの同級生。推理小説好きが高じて文芸部に。

森宗平《もりそうへい》。サクラの同級生。クイズ・パズルマニア。

内藤肇《ないとうはじめ》。サクラの同級生でクラス委員長。女子からの人気高し。

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