第132話 日常ならやんごとなきお方
文字数 1,419文字
「え?」
メインと王女が怪訝な顔をして振り向いた。王女が答える。
「それは掛かるけれども……国を挙げての行事になるので」
王の蓄財分からと税金とで賄われるという。
「あ、そういうのじゃなくって。何て言うんだっけ。結納金? 要するに、王女様と結婚するとなった場合、ファウスト侍従長がお金を用意しなくちゃいけないのかどうかってこと」
「そういうことなら、家柄に見合った額を用意するのが習わしになっている」
答えたのは今度はメイン。王女にお金の話をさせるのは好ましくないと考えたように見受けられた。
「そうか、モリ探偵師は、こう言いたいんだね? ファウスト侍従長が貸していたお金を急に厳しく取り立てるようになったのは、支度金の足しにするためだったんじゃないかと」
「うん、そういうこと」
「フィリポに貸していた額にもよるが、あり得ない話じゃないな。となると、もしフィリポが犯人だとしたら、引き金になったのは……」
皆まで言わず、メインは目を伏せた。
「さっきメインさんは、フィリポを犯人に思い描いていたみたいだけど」
宗平は廊下を進みながら、前を行くメインに言った。王女は気分が優れなくなったのと、容疑が一応晴れたということから、部屋にお引き取り願った。メイドの格好はどこかで解くんだろう。
メインと宗平はこれからチェリー、マルタ両名と合流するつもりでいる。
「ジュディ・カークラン、だっけ? 侍従長の元恋人って人も怪しさが強まったと思う」
「異論はないよ。ただ、そう思うに至った理由を聞かせてほしい」
「決まってる。ジュディは元恋人のファウスト侍従長が王女と結婚するかもしれないという噂を、どこかで耳にしたんだよ。気持ちが乱れても不思議じゃないでしょ」
「うん、同感だ。それだけでいきなり、元の恋人を殺そうと考えるかどうかは別にしても、何らかの行動に出ても不思議じゃないだけの動機付けにはなり得る」
「何らかのって」
「ちょっとした仕返しや嫌がらせのレベルってことだよ。それが思わぬ事態を招き、結果的に侍従長に死をもたらした、なんて場合も考えなくちゃいけないかもしれない」
「また考えることが増えるのか~」
頭を抱えたくなってきた。ここまで、筆記用具がなかったおかげで、ほとんどメモを取らずに来ているのだ。“ほとんど”というのは、恐らくここが夢の中であるせいか、希に書き付けた気がしないでもない。人物名がすらすらと出てくるのはそのおかげのようだ。
(水原さんなら、もっと整った物語に書き直せるかもしれないな)
小説を書く友達を改めて思い浮かべ、苦笑する。
と、角を折れたところでマルタとチェリーに出くわした。四人がほとんど同時に、「探してました」という意味のことを口走る。
「ファウスト侍従長の督促が厳しくなった背景は――」
「王女との婚姻話を本格的に進めるため、だろう?」
チェリーが言うのへ、メインが被せて来た。ほんの一瞬だけ驚いた顔をしたチェリーとマルタだったが、その表情はすぐに引っ込められた。
「もう察しが付いていたんですか。お人が悪い」
「いや、僕らだってついさっき気付いたばかりさ。王女がサービスしてしゃべってくれたおかげでね」
「王女がしゃべってくれた、ですって?」
マルタが悲鳴みたいな調子で高い声を出し、チェリーは両手で口元を覆った。
「いつ、どうやって王女様と話ができたんですか?」
つづく
メインと王女が怪訝な顔をして振り向いた。王女が答える。
「それは掛かるけれども……国を挙げての行事になるので」
王の蓄財分からと税金とで賄われるという。
「あ、そういうのじゃなくって。何て言うんだっけ。結納金? 要するに、王女様と結婚するとなった場合、ファウスト侍従長がお金を用意しなくちゃいけないのかどうかってこと」
「そういうことなら、家柄に見合った額を用意するのが習わしになっている」
答えたのは今度はメイン。王女にお金の話をさせるのは好ましくないと考えたように見受けられた。
「そうか、モリ探偵師は、こう言いたいんだね? ファウスト侍従長が貸していたお金を急に厳しく取り立てるようになったのは、支度金の足しにするためだったんじゃないかと」
「うん、そういうこと」
「フィリポに貸していた額にもよるが、あり得ない話じゃないな。となると、もしフィリポが犯人だとしたら、引き金になったのは……」
皆まで言わず、メインは目を伏せた。
「さっきメインさんは、フィリポを犯人に思い描いていたみたいだけど」
宗平は廊下を進みながら、前を行くメインに言った。王女は気分が優れなくなったのと、容疑が一応晴れたということから、部屋にお引き取り願った。メイドの格好はどこかで解くんだろう。
メインと宗平はこれからチェリー、マルタ両名と合流するつもりでいる。
「ジュディ・カークラン、だっけ? 侍従長の元恋人って人も怪しさが強まったと思う」
「異論はないよ。ただ、そう思うに至った理由を聞かせてほしい」
「決まってる。ジュディは元恋人のファウスト侍従長が王女と結婚するかもしれないという噂を、どこかで耳にしたんだよ。気持ちが乱れても不思議じゃないでしょ」
「うん、同感だ。それだけでいきなり、元の恋人を殺そうと考えるかどうかは別にしても、何らかの行動に出ても不思議じゃないだけの動機付けにはなり得る」
「何らかのって」
「ちょっとした仕返しや嫌がらせのレベルってことだよ。それが思わぬ事態を招き、結果的に侍従長に死をもたらした、なんて場合も考えなくちゃいけないかもしれない」
「また考えることが増えるのか~」
頭を抱えたくなってきた。ここまで、筆記用具がなかったおかげで、ほとんどメモを取らずに来ているのだ。“ほとんど”というのは、恐らくここが夢の中であるせいか、希に書き付けた気がしないでもない。人物名がすらすらと出てくるのはそのおかげのようだ。
(水原さんなら、もっと整った物語に書き直せるかもしれないな)
小説を書く友達を改めて思い浮かべ、苦笑する。
と、角を折れたところでマルタとチェリーに出くわした。四人がほとんど同時に、「探してました」という意味のことを口走る。
「ファウスト侍従長の督促が厳しくなった背景は――」
「王女との婚姻話を本格的に進めるため、だろう?」
チェリーが言うのへ、メインが被せて来た。ほんの一瞬だけ驚いた顔をしたチェリーとマルタだったが、その表情はすぐに引っ込められた。
「もう察しが付いていたんですか。お人が悪い」
「いや、僕らだってついさっき気付いたばかりさ。王女がサービスしてしゃべってくれたおかげでね」
「王女がしゃべってくれた、ですって?」
マルタが悲鳴みたいな調子で高い声を出し、チェリーは両手で口元を覆った。
「いつ、どうやって王女様と話ができたんですか?」
つづく