第130話 身が縮む思い

文字数 1,348文字

 何はともあれ、ごまかさなくちゃ。
「落とすの言い間違い。で、でも、こんなお城でも汲み取りか垂れ流しなのかい?」
「本当に何も知らないのですね」
 容疑者扱いされている王女にまで、同情のため息をつかせてしまった。
「魔法で浄化するようになっています」
「用足しの度に魔法を使ってきれいにするとなると、係の人は大変そうだなぁ。寝られやしない」
「そんなばかなことはありません。一定の時間ごとに魔法で浄化しているのです。――まったくもう、王女たる私になんてことを話させるのですか、無礼者」
 きつめの単語を使った王女だが、表情は苦笑いを浮かべている。
「トイレの話ができるくらいなのに、ご自身の魔法については話せないと」
 メインが宗平と交代する形で、質問役になる。今こそ、追及するのに絶好のタイミングと踏んだのだろう。
 王女は途端に表情から苦笑を消して、しばしの逡巡のあと、小さく低い声で聞き返してきた。
「なんびとにも言わないと約束できますか」
「事件と無関係であれば、誰にも言いません」
「俺も。誓うよ」
 探偵二人が相次いで約束する。マギー王女はそれでもまだしばし迷う風だったが、やがて腰を据える。ようやく話す気になれたみたいだ。すぅ、と息を吸い込み、思い切ったように明かす。
「ダイエットをしていたのです」
「――えっと。それだけ、でございますか」
 予想の斜め上を行く回答に、メインの敬語がちょっとおかしなイントネーションになった。
「疑うのですか」
「いえ。実に意外な答えでしたので。お痩せになる必要があるとは思えず」
 メインのへどもどする様が珍しくもおかしい。宗平は笑いをこらえるのに大変な努力を要した。
「それだけです」
「その、確認したいのですが、王女の魔法を使ったダイエットとは、胃の中の未消化の食べ物を、栄養価の低い何かと入れ替えるということですよね」
「ええ」
 思い切って告白したものの、どうしても恥じらいが残るものらしく、マギー王女の返事は短く、声は小さくなりがちのようだ。
「何と交換したんです?」
「水よ」
 飲料水なら、城内でいくらでも調達できるというわけか。
「失礼ながら、取り出した物は、どのように処分されたので?」
「ヤーヴェに始末してもらいました。吐いてしまったと言って」
 なるほど。その手があったんだ。
「彼女をとても心配させてしまったみたいで、申し訳なく思うわ。お薬を飲んでみせたら、落ち着いてくれたけれども」
「王女様」
 やり取りを聞く内に急に閃いた宗平は、小学生みたいに――って、実体は小学生そのものなのだが――腕を高く挙げた。
「このお城の中では、王族の人達と使用人の人達で、食事に差はやっぱりあるん?」
 宗平のくだけた物言いに、マギー王女もつられたのか、言葉遣いが若干変化する。
「あるわ。それがどうかして?」
「無実の証明になるかもしれないと思ったんだ。事件の日の夕飯で、王女様とファウスト侍従長の食べた物が違うのなら、当然、未消化の物も違ってる。ヤーヴェさんはマギー王女様をとても心配したのだから、吐いた物もようく見たに違いない。未消化物の内容で、それが王女様、侍従長どちらが食べた物なのか分かるんじゃないかなあ?」

 つづく
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登場人物紹介

佐倉萌莉《さくらもり》。小学五年生。愛称はサクラ。マジック大好き。普段はどちらかと言えば引っ込み思案。

木之元陽子《きのもとようこ》。サクラの同級生。元気印で耳年増。

不知火遥《しらぬいはるか》。同級生。本好きで寡黙。大人びて少しミステリアスなところも。

佐倉秀明《さくらしゅうめい》。高校一年生。マジックが趣味。萌莉の従兄弟で憧れ。

相田克行《あいだかつゆき》。五年五組の担任。ぼさーっとしていて、よく言えば没頭型学者風、悪く言えば居候タイプ。やる気があるのかないのか。

金田朱美《かねだあけみ》。クラスは違うがサクラの友達。宝探しが夢。

土屋善恵《つちやよしえ》。同じくサクラの友達。愛称つちりん。オカルト好きだけど現実的な面もある。

水原玲《みずはられい》。サクラの同級生。推理小説好きが高じて文芸部に。

森宗平《もりそうへい》。サクラの同級生。クイズ・パズルマニア。

内藤肇《ないとうはじめ》。サクラの同級生でクラス委員長。女子からの人気高し。

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