第145話 話の語り手と書き手と
文字数 1,541文字
ところが、森君は依然としてかたくなだった。
「いや、そういうんでもなくて。なんつーか、特殊な例って感じ」
奥歯に物が挟まった言い方が、普段の森君らしくない。私はちょっと前からいらいらがたまっていたのだけれども、ここに来て一気にラインを越えた。要するに、これ以上の引き延ばしに付き合うのが面倒になったのよ。
「もう! もったいぶってないで、さっさと言っちゃいなさいよ」
先生がいなかったら「いーえ、いーえ」とコールが沸き起こってもおかしくない空気になり、森君も耐えられなくなったのかしら、お手上げのポーズをした。
「そこまで言うのなら、こっちも言ってやるよ。だけど、やいやい言うなよな。特に佐倉、おまえは」
「こら。呼び捨てはいかんぞ」
相田先生がのんびりした口調で注意を入れて、逆にちょっぴり和む。ちなみにだけど、先生自身はしょっちゅう私達のこと呼び捨てだけどね。
森君は「はいはい、分かりました」と投げやり気味に応じたあと、改めて私の方を向いた。
「佐倉さん」
「はい?」
「だから佐倉さん、おまえが王女様」
「はいぃ?」
意味が分からない。だって私は、メイン探偵師というシュウさんそっくりの人の助手を務めてるんじゃないの? チェリーっていう名前で。
これでやいやい言うなと釘を刺す方に無理があるわ。私はもちろんのこと、朱美ちゃんにつちりん、水原さんまでもが「どういうこと?」「普段の考えが反映された、とか?」「設定ミスなのか本当にそっくりなのか」と思い思いに喋る。
陽子ちゃんと不知火さんは、目立った反応を示さなかったけれども、人数的には私達だけでかしましくなるのに充分だった。
で、当然、相田先生が止めに入った。
「おら、おまえらうるさい、やかましい。静かにしろ。学校の活動の一環であることを忘れるなよな」
つい先ほどののんびりした口ぶりの注意とはがらっと変わって、荒っぽい。私達は口を閉じるとともに首をすくめた。
「よし。もううるさくせずに、静かに聞くんだぞ。あれこれ言うのは、語り手が全てを話し終わってからにしようじゃないか。正直、最初に今日は森の夢の話を聞くとなったときはどうすんだこれと心配になったんだが、なかなか面白いじゃないか。どう考えても、これはこのあと、謎解きだろ?」
相田先生は特定の誰かに向けてではなく、みんなに言っているみたい。
「森が、気になると言ったからには事件は夢の中ではまだ未解決だ」
「先生、重複表現です」
不知火さん、こんなときでも&先生相手でも言葉のチェックを怠らない。ある意味、凄い心臓だわ。
「おお、間違えた。すまん。――事件は未解決なんだろう。となったら、水原を始めとして、みんな解く気満々だろ」
「それはまあそんな気持ちになってましたけど」
水原さんは相田先生から森君へと目線を動かした。
「あの、私が気になるのは、森君の話を聞いただけで、解けるのかどうか」
この疑問に対し、森君は肩をすくめ、さらに首を左右に振った。
「そりゃ、解けるかどうかなんて分からない。ただ、俺自身がこしらえた謎とも言えるんだから、どうにか一本の筋道が通ってくれていると信じている。だって俺はクイズやパズルを作るのが得意なんだぜ」
「まあ、そこは疑わないけど……普通の犯人当て小説と違って、とても変な感じ」
水原さんが言ったこの感覚は、きっと聞いているみんなも似たり寄ったりのことを感じていたと思う。
そんな意見に森君は再び首を振ると、腕組みをして少々考え……やがて口を開いた。
「じゃあさ、もしもそれなりに筋道が通っていたらの話だけど、水原さんがきちんとした形になるように、小説にしてくれないか」
「ええ?」
つづく
「いや、そういうんでもなくて。なんつーか、特殊な例って感じ」
奥歯に物が挟まった言い方が、普段の森君らしくない。私はちょっと前からいらいらがたまっていたのだけれども、ここに来て一気にラインを越えた。要するに、これ以上の引き延ばしに付き合うのが面倒になったのよ。
「もう! もったいぶってないで、さっさと言っちゃいなさいよ」
先生がいなかったら「いーえ、いーえ」とコールが沸き起こってもおかしくない空気になり、森君も耐えられなくなったのかしら、お手上げのポーズをした。
「そこまで言うのなら、こっちも言ってやるよ。だけど、やいやい言うなよな。特に佐倉、おまえは」
「こら。呼び捨てはいかんぞ」
相田先生がのんびりした口調で注意を入れて、逆にちょっぴり和む。ちなみにだけど、先生自身はしょっちゅう私達のこと呼び捨てだけどね。
森君は「はいはい、分かりました」と投げやり気味に応じたあと、改めて私の方を向いた。
「佐倉さん」
「はい?」
「だから佐倉さん、おまえが王女様」
「はいぃ?」
意味が分からない。だって私は、メイン探偵師というシュウさんそっくりの人の助手を務めてるんじゃないの? チェリーっていう名前で。
これでやいやい言うなと釘を刺す方に無理があるわ。私はもちろんのこと、朱美ちゃんにつちりん、水原さんまでもが「どういうこと?」「普段の考えが反映された、とか?」「設定ミスなのか本当にそっくりなのか」と思い思いに喋る。
陽子ちゃんと不知火さんは、目立った反応を示さなかったけれども、人数的には私達だけでかしましくなるのに充分だった。
で、当然、相田先生が止めに入った。
「おら、おまえらうるさい、やかましい。静かにしろ。学校の活動の一環であることを忘れるなよな」
つい先ほどののんびりした口ぶりの注意とはがらっと変わって、荒っぽい。私達は口を閉じるとともに首をすくめた。
「よし。もううるさくせずに、静かに聞くんだぞ。あれこれ言うのは、語り手が全てを話し終わってからにしようじゃないか。正直、最初に今日は森の夢の話を聞くとなったときはどうすんだこれと心配になったんだが、なかなか面白いじゃないか。どう考えても、これはこのあと、謎解きだろ?」
相田先生は特定の誰かに向けてではなく、みんなに言っているみたい。
「森が、気になると言ったからには事件は夢の中ではまだ未解決だ」
「先生、重複表現です」
不知火さん、こんなときでも&先生相手でも言葉のチェックを怠らない。ある意味、凄い心臓だわ。
「おお、間違えた。すまん。――事件は未解決なんだろう。となったら、水原を始めとして、みんな解く気満々だろ」
「それはまあそんな気持ちになってましたけど」
水原さんは相田先生から森君へと目線を動かした。
「あの、私が気になるのは、森君の話を聞いただけで、解けるのかどうか」
この疑問に対し、森君は肩をすくめ、さらに首を左右に振った。
「そりゃ、解けるかどうかなんて分からない。ただ、俺自身がこしらえた謎とも言えるんだから、どうにか一本の筋道が通ってくれていると信じている。だって俺はクイズやパズルを作るのが得意なんだぜ」
「まあ、そこは疑わないけど……普通の犯人当て小説と違って、とても変な感じ」
水原さんが言ったこの感覚は、きっと聞いているみんなも似たり寄ったりのことを感じていたと思う。
そんな意見に森君は再び首を振ると、腕組みをして少々考え……やがて口を開いた。
「じゃあさ、もしもそれなりに筋道が通っていたらの話だけど、水原さんがきちんとした形になるように、小説にしてくれないか」
「ええ?」
つづく