第114話 珍説百出

文字数 1,524文字

 メインは初めて、弱気の色を覗かせた。
「僕は当初、彼女の魔法は水を自在に操れるものと勘違いしてね。たとえば鍵穴に水を入れて、鍵穴の形になった水を回せば施錠できるのかなと。だが、実態はさっきも述べた通り、水を移動するだけの魔法だ。高さを稼げるのであれば、カークラン自身が自分と同じ体重の水の塊に浮かんで、もろとも、三階の窓まで行けるのではないかと考えたんだが、地面からあの窓まで優に六メートルはある。カークランの能力では無理だ」
「水を動かせる高さにも制限があったんだ?」
 聞いてないぞと思いつつ、宗平は問うた。
「せいぜい二メートル半が限度だそうだ。厳密には一度の魔法で移動可能な最大距離が二メートル半ということだけれども、横移動なら水をその都度地面に“置いて“、また横に二メートル半なんてこともできる。縦方向だとこうは行かない」
 確かに、空中に水を“置く“ことは無理だ。
(凍らせられたら話はまた別になってくるかもだけど)
 マルタをちらと一瞥した宗平。
(そう言えば、事件の夜、マルタはどこにいたんだろう? そもそも、何者なんだ)
 しかとは聞いていなかったことに思い当たる。普通なら間違いなく聞いているところなのに、そういう発想が起きなかったのは何故か。
(知っている顔、というのが大きいのかな? 外見がちょっと大人びたくらいじゃ、同級生に見えちまう。あとでチャンスがあったら聞いてみよう)
 さすがに今、この場で聞くのは雰囲気にそぐわないと感じて自重する。
「結局、カークランの魔法で密室を構成するのは無理と感じている。この殺人事件に関係しているとすれば、エルクサムを飲ませる手段じゃないかな。その手段によっては、結果的に現場が密室になったとも考えられる」
「時間差で、つまり毒薬を飲んでからだいぶ時間が経ったあと、毒の効き目で死んでしまう。そのときの場所がたまたま寝室で、偶然にも鍵を掛けてくれたということ?」
 宗平が昔見たサスペンスドラマを思い起こしながら言うと、相手は無言で頷いた。そこへチェリーが割り込む。
「不満がありそうだけれども、時間帯は夜なんだから、寝室に入って鍵を掛けて眠りに就くことは充分に予想できるわ。ましてや侍従長は体調不良だったんだから」
「い、いや、そこに疑問を持ったんじゃねえよ」
「じゃ、何?」
 そんなに口を尖らせるんじゃない、似合ってないぞと心の中でつっこみつつ、宗平は答える。
「時間差で毒薬の効果を発揮させられるんだったら、アリバイのある人って言うのが意味なくなるんじゃないかと思った」
 宗平は半ば無意識に言っていたが、この見解は、確実なアリバイのある(とされる)者達の中から選ばれた探偵師たるメインおよび宗平も、容疑者に含まれかねないこと意味する。
 ニュアンスを察知したか、チェリーが両手に拳を作って、何やら力説を始めようとした矢先、メインが言った。
「確かにその通り」
「メイン探偵師!」
 悲鳴に近い声を上げるチェリー。だがメインは彼女を落ち着かせる風に左手をかざし、話を続けた。
「だが実際にはそのような方法は思い付けなかった。モリ探偵師は何かよい案を持っているんだろうか?」
「……風呂の浴槽一杯分のお湯にエルクサムを混ぜておいて、魔法で部屋のドアの外から隙間を伝って中の浴槽に移す。ナイト・ファウスト侍従長はその浴槽に浸かったり湯を浴びたりする内に毒の成分が身体の中に入った、とか」
「またユニークな説だが、三つの理由からあり得ない」

 つづく

※本日12月3日は奇術の日ということで何か仕掛けたかったのですが間に合いそうになく、断念。通常と違って夕方の更新になりました。
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登場人物紹介

佐倉萌莉《さくらもり》。小学五年生。愛称はサクラ。マジック大好き。普段はどちらかと言えば引っ込み思案。

木之元陽子《きのもとようこ》。サクラの同級生。元気印で耳年増。

不知火遥《しらぬいはるか》。同級生。本好きで寡黙。大人びて少しミステリアスなところも。

佐倉秀明《さくらしゅうめい》。高校一年生。マジックが趣味。萌莉の従兄弟で憧れ。

相田克行《あいだかつゆき》。五年五組の担任。ぼさーっとしていて、よく言えば没頭型学者風、悪く言えば居候タイプ。やる気があるのかないのか。

金田朱美《かねだあけみ》。クラスは違うがサクラの友達。宝探しが夢。

土屋善恵《つちやよしえ》。同じくサクラの友達。愛称つちりん。オカルト好きだけど現実的な面もある。

水原玲《みずはられい》。サクラの同級生。推理小説好きが高じて文芸部に。

森宗平《もりそうへい》。サクラの同級生。クイズ・パズルマニア。

内藤肇《ないとうはじめ》。サクラの同級生でクラス委員長。女子からの人気高し。

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