第191話 騙していたつもりが
文字数 1,843文字
「あら。でも……内藤君が私にトランプ占いをしてくれたことを、どうして佐倉さんが知っているの?」
当然、そこを変に思うよね。私は外目には分からない程度に深呼吸し、今一度思い切った。
「実は、水原さんには黙っていたけれども、あの占いは、私が内藤君に教えたマジックなの」
「マジック」
「そう。私は、私達は水原さんにサークルにどうか入って欲しかった。水原さんは迷っている風だったから、最後の一押しをマジックサークルとは全然つながりのない内藤君にやってもらって、それで水原さんが決心してくれたらいいなって思って」
「それではあの占いは偶然そうなった、奇跡の結果ではなく、種のあるマジックで、必ずカードは一致すると言うの?」
「え、ええ。説明がいるんだったら、すぐにでもするわ」
「いる。やってみせて」
求めに応じ、私はトランプを取り出すと、窓下のわずかな棚部分をテーブル代わりに、占いマジックの再現を行った。一番底になるボトムカードを覚えておけば、比較的簡単にできることを丁寧に示したつもり。
「――こういうからくりだったの。だから、その、内藤君からこの占いをしてもらって運命的なものをもし感じたんだとしたら、ごめん、それは種も仕掛けもあるマジックだから」
種の説明を終えてトランプを仕舞う。そのまま私は両手の平を合わせていた。目を瞑って少し頭を垂れて、ごめんなさいともう一度謝る。
と、しばらく反応がなかったため、目を開けてゆっくりと顔を起こすと。
「話してくれてありがとう」
両手で口元を隠し、笑いを堪える姿勢で水原さんが言った。
「うん? どういうこと?」
「私も謝っておかなくちゃいけない。実は、少し前に知っていたんだよ、内藤君の占いがマジックだってこと」
「へ? どして?」
無意識のうちに、舌足らずになっていた。
「そこは私が話します」
不知火さんがすーっと近付いてきて、水原さんの隣に立つ。
「水原さんは自力で気が付いたんです」
「自力で……ってことは、種も分かっていたっていうのー?」
そんなぁ。じゃあたった今、私がやった種明かしって凄く恥ずかしくない?
私がそんな風にあわあわしているのに対して、不知火さんは我慢しきれなくなったみたいに口元に拳をあてがいつつ、少し吹き出した。水原さんの方は真顔で首を左右に振った。
「種は分かってないですよ。分かったっていうのは、あれが占いではなくってマジックなんだろうなっていうことだけです。あ、それから佐倉さん達が計画したことなのかもしれないという点については、最初は全然気付かなかったわ」
「最初は?」
「うん。内藤君がしてくれたことってマジックなんじゃないかなって思ったあと、他の人の考えを聞いてみたくて、不知火さんに意見を求めたんだよね?」
不知火さんの方を向いて水原さんが相づちを求めた。
「はい。そのときはもちろん、『ああ、ばれてしまいました』と思ったものの、すぐには明かしませんでしたよ。素知らぬふりで応対したのですが、水原さんに論理的に詰められまして……あれはどんな具合でした?」
不知火さんが水原さんを促す。
「えっと、確率的にまずなさそうだし、内藤君が占いだなんて、他の人にやっているところを見たことないし、話にさえ聞いた覚えがないわって気付いて。それに奇術サークルに入ってマジックに触れていく内に、内藤君のあれもマジックだったんじゃないかなって考えるようになったの」
「こういう風に言われては、認めるしかありませんですよね?」
不知火さんが困ったような笑みを作った上で、微笑みかけてくる。
「ま、まあ、そうだよね。でも、だったらそのことを早く私にも教えて欲しかったよ」
「そこはそれ。佐倉さんがご自身の納得のいく形で打ち明けたいようでしたから。私は水原さんに気付かないでいるかのようにふるまってくださいねとお願いして、私自身は静観することに決めました」
「正直、つらかったです。もう、苦しくて苦しくて」
うなだれながら水原さん。
「だって私、推理小説が好きで書きもする割に、こういう秘密を守るのがとても苦手で。後ろめたい気持ちになるというか。推理小説の真相やマジックの種みたいなのは大丈夫、隠し通せるの。人を騙してるというんじゃなくて、楽しませるために秘密があるんだっていう感覚になれるから」
なるほど。マジシャンに向いていないってことではないのよね。そこだけは安心できたわ。
つづく
当然、そこを変に思うよね。私は外目には分からない程度に深呼吸し、今一度思い切った。
「実は、水原さんには黙っていたけれども、あの占いは、私が内藤君に教えたマジックなの」
「マジック」
「そう。私は、私達は水原さんにサークルにどうか入って欲しかった。水原さんは迷っている風だったから、最後の一押しをマジックサークルとは全然つながりのない内藤君にやってもらって、それで水原さんが決心してくれたらいいなって思って」
「それではあの占いは偶然そうなった、奇跡の結果ではなく、種のあるマジックで、必ずカードは一致すると言うの?」
「え、ええ。説明がいるんだったら、すぐにでもするわ」
「いる。やってみせて」
求めに応じ、私はトランプを取り出すと、窓下のわずかな棚部分をテーブル代わりに、占いマジックの再現を行った。一番底になるボトムカードを覚えておけば、比較的簡単にできることを丁寧に示したつもり。
「――こういうからくりだったの。だから、その、内藤君からこの占いをしてもらって運命的なものをもし感じたんだとしたら、ごめん、それは種も仕掛けもあるマジックだから」
種の説明を終えてトランプを仕舞う。そのまま私は両手の平を合わせていた。目を瞑って少し頭を垂れて、ごめんなさいともう一度謝る。
と、しばらく反応がなかったため、目を開けてゆっくりと顔を起こすと。
「話してくれてありがとう」
両手で口元を隠し、笑いを堪える姿勢で水原さんが言った。
「うん? どういうこと?」
「私も謝っておかなくちゃいけない。実は、少し前に知っていたんだよ、内藤君の占いがマジックだってこと」
「へ? どして?」
無意識のうちに、舌足らずになっていた。
「そこは私が話します」
不知火さんがすーっと近付いてきて、水原さんの隣に立つ。
「水原さんは自力で気が付いたんです」
「自力で……ってことは、種も分かっていたっていうのー?」
そんなぁ。じゃあたった今、私がやった種明かしって凄く恥ずかしくない?
私がそんな風にあわあわしているのに対して、不知火さんは我慢しきれなくなったみたいに口元に拳をあてがいつつ、少し吹き出した。水原さんの方は真顔で首を左右に振った。
「種は分かってないですよ。分かったっていうのは、あれが占いではなくってマジックなんだろうなっていうことだけです。あ、それから佐倉さん達が計画したことなのかもしれないという点については、最初は全然気付かなかったわ」
「最初は?」
「うん。内藤君がしてくれたことってマジックなんじゃないかなって思ったあと、他の人の考えを聞いてみたくて、不知火さんに意見を求めたんだよね?」
不知火さんの方を向いて水原さんが相づちを求めた。
「はい。そのときはもちろん、『ああ、ばれてしまいました』と思ったものの、すぐには明かしませんでしたよ。素知らぬふりで応対したのですが、水原さんに論理的に詰められまして……あれはどんな具合でした?」
不知火さんが水原さんを促す。
「えっと、確率的にまずなさそうだし、内藤君が占いだなんて、他の人にやっているところを見たことないし、話にさえ聞いた覚えがないわって気付いて。それに奇術サークルに入ってマジックに触れていく内に、内藤君のあれもマジックだったんじゃないかなって考えるようになったの」
「こういう風に言われては、認めるしかありませんですよね?」
不知火さんが困ったような笑みを作った上で、微笑みかけてくる。
「ま、まあ、そうだよね。でも、だったらそのことを早く私にも教えて欲しかったよ」
「そこはそれ。佐倉さんがご自身の納得のいく形で打ち明けたいようでしたから。私は水原さんに気付かないでいるかのようにふるまってくださいねとお願いして、私自身は静観することに決めました」
「正直、つらかったです。もう、苦しくて苦しくて」
うなだれながら水原さん。
「だって私、推理小説が好きで書きもする割に、こういう秘密を守るのがとても苦手で。後ろめたい気持ちになるというか。推理小説の真相やマジックの種みたいなのは大丈夫、隠し通せるの。人を騙してるというんじゃなくて、楽しませるために秘密があるんだっていう感覚になれるから」
なるほど。マジシャンに向いていないってことではないのよね。そこだけは安心できたわ。
つづく