第4話 あと3人いる!

文字数 2,700文字

 不知火(はるか)さんの勧誘に成功した日は、調子に乗って帰宅してからも友達に電話を掛けて誘ってみた。去年までクラスが同じで、仲よしの二人に。
「奇術部ねえ。面白そう! けど、お金が掛かりそうなイメージあるかな」
 一人目、金田朱美(かねだあけみ)ちゃん。本人がちゃん付けを嫌うので、呼ぶときは“朱美”にすること。
 名字のせいではないと思うけど、お金に関してしっかりしてる。けちではない。その証拠に、宝探しを夢見ているところがあって、確信が持てたら自腹を切って探しに行きそうなことを前に言っていたっけ。
「大丈夫。身近にある物を使うマジックばかりだから」
「ならいいんだけど。さっき言ってた高校生の人? その人に来てもらうのにもお金が掛かるんじゃあないの?」
 細かいな~。シュウさんはお金なんて取らないわ、多分。その前に、来てもらえるかどうかがまだ分からなくて問題なんだけど。
「全然出す気がないってわけでも、入らないと言ってるわけでもないからね。興味はある。大きなマジックショーとか、ライブで観てみたいし」
 あ、そういうのは頭になかった。
 見学かぁ。もしも部に昇格して予算が出るようになれば叶えられそうだけど、サークルの間は厳しそう。全額まともにチケットを買っていたら、とてもじゃないけど私達のお小遣いじゃ足りない。朱美ちゃんが期待してるような大掛かりなショーだと、大都市ばかりでやるだろうから、交通費だけでパンクしかねない。
 結局、考えておくとしか答えられなかった。朱美ちゃんの返事も保留に。明日会って、詳しく話そうってなった。

 ここでくじけていられない。二人目、土屋善恵(つちやよしえ)ちゃんに電話だ。この子はオカルト好きを自分で言ってるけど、端っから信じてるタイプじゃなくて、どちらかというファッション感覚って言うのかな。キャラとしてオカルト好きを演じてる感じ。占いをしては、全然当たらないってぼやいてた。
「関心がなくはないんだけれどー」
 低血圧の人を思わせる気怠い調子の声で、つちりんが言った。“つちりん”ていうのは、
本人お気に入りのニックネームだから、気にしないように。
「何て言えばいいのか、マジックは科学的過ぎるっていうか、見て楽しむのは悪くないのだけれども~。うーん、奇術サークルに入ったら、舞台裏を見てしまうって感じ? 種を知りたくないっていうか」
「気持ちは分かるよ、うん」
 私だって、つちりんとは立場は違うけど、種明かしをしてもらってがっかりした経験は何度かある。知らなきゃよかったってことが、多々ある世界なのだ。それを認める話をした上で、さらに言葉を重ねる。
「でも、逆に考えてみたら、凄いなって思った」
「逆?」
「そう。こんな簡単なことで、人間て騙されちゃうんだ。不思議な現象を起こせちゃうんだって。それって凄くない?」
「それはまあ、凄いって思うよ~」
「マジックは魔術なんだって思える瞬間が、いっぱいある。そう気付いたから、私は種を知ってもマジックが好きだし、楽しめるんだと思う」
「ん~。サクラの境地に至るのはまだ私には無理かもだけどぉ。昔、奇術は魔術と同じ扱いで、根っこはつながってる。妖しげな魔術が世にはびこるのを振り払うために、奇術の種明かしがどんどん行われた歴史がある。それを経て、今ある奇術は充分に魔術、本当のマジックだと思ってる。要するに――興味はすっごくあるの。だから今は、観客役でいいのなら入るよとしか言えない」
「ほんと?」
 これは……手放しで喜んじゃいけないかもしれないけど、入ってくれるんだとしたらやっぱり嬉しい。
「観てる内にやりたくなるかも的な期待、してもいいのかな」
「無理無理。ひょっとしたらやりたくなるかもしれないけど、やりたいのと実際にやるのとは次元が違うっていう」
 うーん。あんまりしつこくすると、断られる。そう感じ取って、私は深追いをやめにした。
「じゃあ、学校で一度やってみせるね。休み時間、都合のいいときに」
「うん」

 電話を終えて、指折り数えてみる。これで四人。その内の二人、陽子ちゃんと不知火さんはもう名前を書いてくれた。朱美ちゃんとつちりんはまだ確定じゃないけど、感触は悪くない。あと一人、入ってくれそうな人を見付けられたら、とりあえず最低限のハードルはクリア!だ。
「やっぱり、同じクラスの子かなあ」
 仲のいい友達は結構いる。ただ、他のクラブ活動をしている子がほとんどだ。掛け持ちは禁止が原則で、例外は公式戦を前にメンバーが足りなくなり、助っ人が認められているのであれば、臨時の掛け持ちはOK、だったかな。このルールのおかげで、新しく部やサークルを作るのが厳しいのよね。学校側もやたらに作られたら困るのは分かるけれども。
 掛け持ち禁止じゃなければ、真っ先に声を掛けていたクラスの女子が一人いる。
 文芸部の水原玲(みずはられい)ちゃん。推理小説が好きで、本人も書くようになったみたい。マジックと推理小説は共通点が多いと言っていたから、多分、マジックにも興味があるに違いない。書くんだって知らなかったから、ほんと、油断してた。文芸部に入る前に、誘いたかったな。
 私はクラス名簿を見つめながら、一度大きく息を吐いた。

 最初は女子だけで始めたいっていうのを外せば、二人くらいいるんだよね、男子にもマジックが好きそうなのが。
 一人は森宗平(もりそうへい)君。クイズマニアで、よく人に出題している。クイズと言っても、知識じゃなくて、考えれば解けるのが好みだって分かる。だからきっと、マジックも……と思うのだけど、実は彼と私とはあんまり仲がよくない。森君が一部の男子からからかわれるのだ。私の下の名前が萌莉で、彼の名字と同じってだけで、夫婦だろって。ばかみたい。
 気にすることないのに、森君が反応過敏なのよね。私を遠ざけるようになって、凄く理不尽だわ。
 もう一人は委員長をやってる内藤肇(ないとうはじめ)君。マジックが好きだって根拠はないけど、何にでも興味を持つタイプだと思う。凄く感じがよくて、クラスの女子からの人気ナンバーワン。それだけに内藤君の勧誘に成功したら、他の女子から恨まれる可能性がある。もしかしたら、内藤君目当てに入会希望が増えるかもしれない、なんちゃって。
 実際には内藤君、塾通いで忙しいみたいで、多分無理。塾がもしなかったら、野球部かサッカー部に入るはずだし。

 さて、あと一人、どうしよう。明日の作戦が決まらないまま、眠る時間が来てしまった。

つづく
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登場人物紹介

佐倉萌莉《さくらもり》。小学五年生。愛称はサクラ。マジック大好き。普段はどちらかと言えば引っ込み思案。

木之元陽子《きのもとようこ》。サクラの同級生。元気印で耳年増。

不知火遥《しらぬいはるか》。同級生。本好きで寡黙。大人びて少しミステリアスなところも。

佐倉秀明《さくらしゅうめい》。高校一年生。マジックが趣味。萌莉の従兄弟で憧れ。

相田克行《あいだかつゆき》。五年五組の担任。ぼさーっとしていて、よく言えば没頭型学者風、悪く言えば居候タイプ。やる気があるのかないのか。

金田朱美《かねだあけみ》。クラスは違うがサクラの友達。宝探しが夢。

土屋善恵《つちやよしえ》。同じくサクラの友達。愛称つちりん。オカルト好きだけど現実的な面もある。

水原玲《みずはられい》。サクラの同級生。推理小説好きが高じて文芸部に。

森宗平《もりそうへい》。サクラの同級生。クイズ・パズルマニア。

内藤肇《ないとうはじめ》。サクラの同級生でクラス委員長。女子からの人気高し。

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