第107話 密室なのか違うのか
文字数 1,379文字
「現場の様子を収めた画像よ。全体的に写し取ったのが俯瞰図を含めて五枚。細部の物はまたあるけれども、今必要な分だけ出してある」
空中に浮かぶ半透明のモニター画面に、大小様々な窓が開き、ユーザーは画像などのデータを手先で自由に扱える――そんな近未来なコンピュータ操作のシーンがドラマや映画で出て来るが、宗平が目の当たりにしているのはまさしくそれだった。
「ご覧の通り、コップや水差し等は見当たらない。花瓶や灰皿と言った、代わりになるような器型の物体もないんだ」
「被害者は病気っていうか、具合がよくなかったのに?」
口走ってから、また質問してしまった、と気付いた。手の甲を口に宛てがい、今のは独り言ですよというふりをした。
が、メインは声を立てて笑い、「いいよいいよ。若いのになかなか適格な合いの手を入れてくれるね。質疑応答を認める」と片手を振った。そうして目線をチェリーに移す。答えるのは彼女の役目のようだ。
「被害者のナイト・ファウスト侍従長は薬の摂取をなるべく避けていた節があります。普通、薬を飲むと怠くなったり眠くなったりしがちで、仕事に差し支えがあるとの考えだったとか。よほどのことがない限り、薬は使わない。今回もそうだったんでしょう。ヤーヴェの持って行った安眠の薬も手付かずで廊下に残っていたし」
「薬とは関係なしに、何か飲みたくなるもんじゃないのかなあ」
「そこは人それぞれでしょ。熱で浮かされていたという話も聞いてないんだから」
「うーん、分かった」
「疑問があるのなら、あとで直に現場である部屋を調べることをおすすめするよ」
メインが付け足す。余裕の態度は全く変わらない。当初は宗平を――モリを衛士として立てる意図が窺えた彼だったが、短い間に考えを転換したらしい。
(事件を早期解決する能力があると見込まれた上でやってるんだから、それくらい当然だよな。下手したら選んだ人間の立場にも関わってくるだろうし。俺も己の力を自覚した上で、がんばらないと)
頭ではこんな風に冷静に対処しようと心掛ける宗平だが、目の前で、シュール・メインとチェリー・ブラムストークが親しげに言葉を交わすのを見せつけられる?と、どうにも心がざわついてならない。念頭に置いた冷静さは、強風を受けた紙切れみたいにどこかへ吹き飛ばされそう。
「部屋のドアは施錠され、外からは鍵を使わねば開けられなかった。城内の部屋は現場に限らず防魔対策が施されており、当然ながら鍵も全て魔法錠。つまり、外から中の錠を念力の類で動かしたり、鍵自体を破壊した後に再生したり、あるいは被害者を操って鍵を開け閉めさせたりといった手口は通用しないことが保証されている。現場は非魔法の密室、科学的な方法で作られた密室と言えなくもない。
今、表現をぼかしたのには理由があって、部屋の窓が細くではあるが開いていた事実が確認されているため。三階の高さの窓が開いていようが、人の出入りは通常、不可能なのだから密室状況が完成しているように見える」
メインの解説に、宗平は黙って頷いた。
(でもここは魔法のある世界だろ。あれくらいの高さだったら、魔法で何とかなりそうな気がする。たとえばシーラの飛行魔法を使ったら、あの窓の高さに余裕で届くだろ。いや、もちろんシーラが犯人だとは言わないけど)
つづく
空中に浮かぶ半透明のモニター画面に、大小様々な窓が開き、ユーザーは画像などのデータを手先で自由に扱える――そんな近未来なコンピュータ操作のシーンがドラマや映画で出て来るが、宗平が目の当たりにしているのはまさしくそれだった。
「ご覧の通り、コップや水差し等は見当たらない。花瓶や灰皿と言った、代わりになるような器型の物体もないんだ」
「被害者は病気っていうか、具合がよくなかったのに?」
口走ってから、また質問してしまった、と気付いた。手の甲を口に宛てがい、今のは独り言ですよというふりをした。
が、メインは声を立てて笑い、「いいよいいよ。若いのになかなか適格な合いの手を入れてくれるね。質疑応答を認める」と片手を振った。そうして目線をチェリーに移す。答えるのは彼女の役目のようだ。
「被害者のナイト・ファウスト侍従長は薬の摂取をなるべく避けていた節があります。普通、薬を飲むと怠くなったり眠くなったりしがちで、仕事に差し支えがあるとの考えだったとか。よほどのことがない限り、薬は使わない。今回もそうだったんでしょう。ヤーヴェの持って行った安眠の薬も手付かずで廊下に残っていたし」
「薬とは関係なしに、何か飲みたくなるもんじゃないのかなあ」
「そこは人それぞれでしょ。熱で浮かされていたという話も聞いてないんだから」
「うーん、分かった」
「疑問があるのなら、あとで直に現場である部屋を調べることをおすすめするよ」
メインが付け足す。余裕の態度は全く変わらない。当初は宗平を――モリを衛士として立てる意図が窺えた彼だったが、短い間に考えを転換したらしい。
(事件を早期解決する能力があると見込まれた上でやってるんだから、それくらい当然だよな。下手したら選んだ人間の立場にも関わってくるだろうし。俺も己の力を自覚した上で、がんばらないと)
頭ではこんな風に冷静に対処しようと心掛ける宗平だが、目の前で、シュール・メインとチェリー・ブラムストークが親しげに言葉を交わすのを見せつけられる?と、どうにも心がざわついてならない。念頭に置いた冷静さは、強風を受けた紙切れみたいにどこかへ吹き飛ばされそう。
「部屋のドアは施錠され、外からは鍵を使わねば開けられなかった。城内の部屋は現場に限らず防魔対策が施されており、当然ながら鍵も全て魔法錠。つまり、外から中の錠を念力の類で動かしたり、鍵自体を破壊した後に再生したり、あるいは被害者を操って鍵を開け閉めさせたりといった手口は通用しないことが保証されている。現場は非魔法の密室、科学的な方法で作られた密室と言えなくもない。
今、表現をぼかしたのには理由があって、部屋の窓が細くではあるが開いていた事実が確認されているため。三階の高さの窓が開いていようが、人の出入りは通常、不可能なのだから密室状況が完成しているように見える」
メインの解説に、宗平は黙って頷いた。
(でもここは魔法のある世界だろ。あれくらいの高さだったら、魔法で何とかなりそうな気がする。たとえばシーラの飛行魔法を使ったら、あの窓の高さに余裕で届くだろ。いや、もちろんシーラが犯人だとは言わないけど)
つづく