第156話 地球は火星より大きいですが、では太陽系で一番大きな星は?
文字数 1,535文字
「えー? そんなの不可能だよ?」
つちりんが悲鳴のような声で言った。私も声こそ上げなかったけれども、気持ちとしては同じだわ。
「月は出ていないが、星がたくさんきらきら輝いていて、地面もよく見えた……とかじゃないよね」
陽子ちゃんが探りを入れるような口ぶりで聞いた。不知火さんは案の定、「違います」と答える。
「話の流れを考えに入れると、大事なことが省かれているか――」
水原さんの話の途中で、朱美ちゃんが「あっ。はいはい! 分かった!」と元気よく挙手。
「ど、どうぞ」
本当なら不知火さんが指名するところだけど、教壇に立っている水原さんが何となく当てる役になって、朱美ちゃんを指差した。
「その男は懐中電灯のような灯りを持っていた! これだよね」
朱美ちゃんの期待の籠もった目線が、不知火さんを捉える。だけど。
「惜しい」
「えええ、何で」
「次に出題するときは、『ただし、男は懐中電灯などの灯りを持ってはいない』と追加することにします」
「ずるいなあ」
「考え方はその方向で合っています。私の個人的感想になりますが、もっとスマートな答があるんです」
「うーん……」
皆で考え込む。静かになったところへ、出題者からのヒントが。
「大事なことを省いていると言うよりも、当たり前だという思い込みを利用していると言った方がいいかもしれませんね。意味はほぼ同じでしょうが」
「当たり前、思い込み……」
つぶやいてから、問題文を頭の中で思い返してみた。――あっ。
「もしかしてだけど」
不知火さんの方を向いてから言ってみる。
「問題に出て来た場面て、夜じゃないんじゃない?」
「はい。その通りです」
頭を左にわずかに傾け、微笑する不知火さん。先生が子供によくできましたと言ってるみたいだわ。
「え、夜って言ってなかった?」
陽子ちゃんは口走ってから、頭を片手でかいた。刺激を与えて記憶を甦らせようとしているみたい。つちりんも斜め上の天井をじっと見つめ、思い出そうとしている。
「録音していたわけではないので、覚えていない方には信じてもらうほかないのですが、夜とは言っていませんよ。黒を印象づけるために、何度も入れましたが」
「言われてみれば……」
黒い塀の向こうから黒尽くめの男が出て来て、黒い小石を拾い上げる。勝手にその背景まで真っ黒に塗りつぶしていたのは、私も最初はそうだった。
それがどうにか気付けきっかけは……。
「何で分かったの?」
陽子ちゃんが聞いてきた。続いて朱美ちゃんが「最初っから夜じゃないって気付いていたんなら、答えるまでにこんなにも時間を取らないよね」と疑問を口にする。
「最初にあれ?って感じたのは、男の格好を思い返したときよ。服から帽子から靴や靴下まで黒なのに、何でこの人、黒サングラスを掛けていないんだろうって」
「あ、夜だと普通は掛けない!」
そう言った水原さんは何だか喜んでいる。手掛かりがあったと知って、感心しているとも言えそう。さすが推理作家ってところね。
「うん。逆に、太陽が照っているのなら、掛けてないと不自然なぐらい、黒尽くめの描写があったから。そこから必死に思い出してみて、確か夜とは言ってなかったなあって」
「『なお、月は出ていない』というのも、いい注釈だわ。昼間なら出ていないのが普通なんだもん。でもこれがあるおかげで、夜だっていうイメージが固まっちゃうのよね」
「できれば『月も星も出ていない』としたい気持ちですが、星を入れると困ることがあるんです」
不知火さんが追加の出題をしてきた。でもこれは簡単。真っ先に答えたのはつちりんだ。
つづく
※サブタイトルの問題の答は、木星……ではなく、太陽。
つちりんが悲鳴のような声で言った。私も声こそ上げなかったけれども、気持ちとしては同じだわ。
「月は出ていないが、星がたくさんきらきら輝いていて、地面もよく見えた……とかじゃないよね」
陽子ちゃんが探りを入れるような口ぶりで聞いた。不知火さんは案の定、「違います」と答える。
「話の流れを考えに入れると、大事なことが省かれているか――」
水原さんの話の途中で、朱美ちゃんが「あっ。はいはい! 分かった!」と元気よく挙手。
「ど、どうぞ」
本当なら不知火さんが指名するところだけど、教壇に立っている水原さんが何となく当てる役になって、朱美ちゃんを指差した。
「その男は懐中電灯のような灯りを持っていた! これだよね」
朱美ちゃんの期待の籠もった目線が、不知火さんを捉える。だけど。
「惜しい」
「えええ、何で」
「次に出題するときは、『ただし、男は懐中電灯などの灯りを持ってはいない』と追加することにします」
「ずるいなあ」
「考え方はその方向で合っています。私の個人的感想になりますが、もっとスマートな答があるんです」
「うーん……」
皆で考え込む。静かになったところへ、出題者からのヒントが。
「大事なことを省いていると言うよりも、当たり前だという思い込みを利用していると言った方がいいかもしれませんね。意味はほぼ同じでしょうが」
「当たり前、思い込み……」
つぶやいてから、問題文を頭の中で思い返してみた。――あっ。
「もしかしてだけど」
不知火さんの方を向いてから言ってみる。
「問題に出て来た場面て、夜じゃないんじゃない?」
「はい。その通りです」
頭を左にわずかに傾け、微笑する不知火さん。先生が子供によくできましたと言ってるみたいだわ。
「え、夜って言ってなかった?」
陽子ちゃんは口走ってから、頭を片手でかいた。刺激を与えて記憶を甦らせようとしているみたい。つちりんも斜め上の天井をじっと見つめ、思い出そうとしている。
「録音していたわけではないので、覚えていない方には信じてもらうほかないのですが、夜とは言っていませんよ。黒を印象づけるために、何度も入れましたが」
「言われてみれば……」
黒い塀の向こうから黒尽くめの男が出て来て、黒い小石を拾い上げる。勝手にその背景まで真っ黒に塗りつぶしていたのは、私も最初はそうだった。
それがどうにか気付けきっかけは……。
「何で分かったの?」
陽子ちゃんが聞いてきた。続いて朱美ちゃんが「最初っから夜じゃないって気付いていたんなら、答えるまでにこんなにも時間を取らないよね」と疑問を口にする。
「最初にあれ?って感じたのは、男の格好を思い返したときよ。服から帽子から靴や靴下まで黒なのに、何でこの人、黒サングラスを掛けていないんだろうって」
「あ、夜だと普通は掛けない!」
そう言った水原さんは何だか喜んでいる。手掛かりがあったと知って、感心しているとも言えそう。さすが推理作家ってところね。
「うん。逆に、太陽が照っているのなら、掛けてないと不自然なぐらい、黒尽くめの描写があったから。そこから必死に思い出してみて、確か夜とは言ってなかったなあって」
「『なお、月は出ていない』というのも、いい注釈だわ。昼間なら出ていないのが普通なんだもん。でもこれがあるおかげで、夜だっていうイメージが固まっちゃうのよね」
「できれば『月も星も出ていない』としたい気持ちですが、星を入れると困ることがあるんです」
不知火さんが追加の出題をしてきた。でもこれは簡単。真っ先に答えたのはつちりんだ。
つづく
※サブタイトルの問題の答は、木星……ではなく、太陽。