第99話 不利でも平気なふり

文字数 1,691文字

「何って、私はこちらのシュール・メイン臨時国家探偵師の助手となったから、こうしてスキンシップをしていち早く意思の疎通を図ろうと」
「スキンシップ~?」
 言葉の意味は分かっている。だが、そのことと意思の疎通とがつながらない。
 すると成り行きを見守っていたシーラが、宗平の袖を引っ張った。
「ちょっとこっちへ」
「何」
 うるさがる宗平に、シーラは説いて聞かせるような口ぶりで始める。
「国家探偵師には助手がいるものです。臨時とはいえ、正式に認められた肩書きなので、一人はお好きな方を無償で指名できる。シュール・メイン氏はあの子を指名したのでしょう。部屋を出ていたのは、その手続きに取り掛かっていたためかと」
「何で今なんだよ。連れて来た助手なら、他のタイミングで登録手続きでも何でもすればいいじゃないか」
「それが、メイン氏は王宮内で案内係をしていたチェリーを気に入ったみたいですね。ここで知り合って、すぐに示したということになります」
「な……てことは、君とチェリーは同僚ってか?」
「はい」
 だいぶ格好が違うじゃないかと突っ込むだけの冷静さは、宗平には残っていなかった。
 ただただ、佐倉萌莉(のそっくりさん)がライバルの側に着いてしまう、という事態があれよあれよという間に繰り広げられ、動揺がなかなか収まらない。
「それで、あなたの方の助手は?」
 メインの声が背後から耳に届く。
(ほんと、声までそっくり同じでいやがる)
 また、いらっとしながらも、宗平はどうにか冷静な表情を取り繕った(つもり)。唇の端っこがひくつくのを抑え、身体ごと振り返る。
「いや、まだ決めていないんだな。今聞いたばかりだから」
「衛士である方が、この国の探偵師のルール原則をご存知じゃないなんて、ちょっと不思議ですねえ」
「悪かったでございますー。自分はまだ下っ端だし、探偵師にも縁がなかったもんで」
 憎まれ口を叩きながらも、胸の内では真剣さの度合いが高まっていた。この世界では正式には探偵師って言うのか。知らないことが多いけれども、一つずつ覚えていこう。
「ではどうしましょうか」
 メインは場にいるみんなを見回した。
「とりあえず会議を執り行って方針を決めるか、それともモリアーティさんのパートナーを決めるのが先か」
「関係各位は事件の早期解決を望まれていますが……」
 チェリー・ブラムストークが、メインを見上げていた視線を、宗平らに向けた。
「どうする?」
 一転してため口になったのは、この台詞がシーラに向けて発せられたものだかららしい。
「どなたが事件を解決に導かれようとも、あとで不満の出ない状況を整えておくのが肝心だと考えます」
 シーラは丁寧な調子のまま、即答した。さらに付け加える。
「このまま捜査を開始し、仮に先に真実に辿り着いたのがメイン氏だった場合、衛士隊から不平不満の声が上がるのは目に見えているかと」
「なるほど。じゃ――あなた」
 チェリーが宗平を指差した。
「一刻も早く、助手を決めてくださいな」
「言われるまでも」
 ない、と言い切らない内からシーラの顔を横目で見た。
「自分も選びたいんだけど、どうすればいい?」
「選抜のテストに参加しなかった人の中から、好きな方をどなたでもお一人、選べます」
「じゃなくって、候補者の心当たりがないっていうか、要するに誰も知らないんだよ」
「……もう何を言われても驚きません。本格的な記憶喪失症が疑われますが、お医者様に診てもらわなくても大丈夫なのでしょうか」
 医者に掛かってる暇はない。というか、記憶喪失じゃないことは自分でよく分かっている。
「いや、余計な記憶がないから、頭が冴えてる、推理が冴えてるんだ。普通、俺みたいな半人前が、テストに最後まで残るはずないだろ?」
「まあ、前例がないことは確かです。何があっても自己責任でよいのでしたら、このまま探偵師としての務めを果たすことに障害はありません」
「かまわない。何もせずにあいつに負けるのだけは嫌だ」
 肩越しに、ライバルの存在を強く意識した。

 つづく
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登場人物紹介

佐倉萌莉《さくらもり》。小学五年生。愛称はサクラ。マジック大好き。普段はどちらかと言えば引っ込み思案。

木之元陽子《きのもとようこ》。サクラの同級生。元気印で耳年増。

不知火遥《しらぬいはるか》。同級生。本好きで寡黙。大人びて少しミステリアスなところも。

佐倉秀明《さくらしゅうめい》。高校一年生。マジックが趣味。萌莉の従兄弟で憧れ。

相田克行《あいだかつゆき》。五年五組の担任。ぼさーっとしていて、よく言えば没頭型学者風、悪く言えば居候タイプ。やる気があるのかないのか。

金田朱美《かねだあけみ》。クラスは違うがサクラの友達。宝探しが夢。

土屋善恵《つちやよしえ》。同じくサクラの友達。愛称つちりん。オカルト好きだけど現実的な面もある。

水原玲《みずはられい》。サクラの同級生。推理小説好きが高じて文芸部に。

森宗平《もりそうへい》。サクラの同級生。クイズ・パズルマニア。

内藤肇《ないとうはじめ》。サクラの同級生でクラス委員長。女子からの人気高し。

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