第189話 同じ物が集まればそれもまた個性
文字数 1,905文字
* *
他のみんなが奇術用のカードの名称だの名前の呼び方だので盛り上がって?いる間、不知火と水原は、ストリッパーデックのギミックを何度も試して面白がっていた。
「これは使える」
水原が力強く断言すると、不知火は関心を示した。
「ミステリにですか」
「ええ。たとえば誰が何番のコップの飲み物を飲むかを、トランプを引いて決めるんだとして、自分だけが抜け駆けできるし、この仕掛けを知らない一人を陥れることもできる」
「端折りすぎでよく分かりませんが、想像して補うに、複数のコップがあって、その内のどれか一つが毒入りと言いますか、誰も飲みたがらないようなひどい味だとして、そのコップを確実に回避するための方法、ですか」
「そうそう。もちろん、どのコップが毒入りかを知っていなければならないけれども、カードを引いて偶然に決められたように装うことで、疑いを回避できるというわけ」
「なるほどです。しかしそうなってくると、トランプをいかに処分するかに焦点が移ってきますね。毒殺事件なら警察の介入はほぼ間違いなく、トランプを調べられることは火を見るよりも明らか」
「そうよね。普通にすり替えても見付けられそうだし、まさか犯行後に全てのカードを同じ形に切り揃えるなんて無理でしょうし」
「切り揃えられたとしても、切り口があまりに真新しくてごまかせないでしょう」
「だね。ということは……このカードは紙製だし、燃やしちゃうのが一番」
「ああ、いい考えです。今度は燃やす理由付けが欲しいところですね」
「そうね……」
考えつつ、教室内をゆったりと見回す水原。土屋の姿を捉えたところで視線の動きが止まった。
「火を使う占いってあるのかな?」
「それは当然ありそうですけど……ははあん、土屋さんを見て思い付きましたか」
「うん。占いというよりも、おまじないになるのかな。トランプを燃やす占い、おまじないがあれば、自然な流れで特殊カードを処分できるっ」
「名探偵ならそこも気付きそうですが」
「名探偵が気付く分には全然問題ない。でも……警察だってこれは疑うよね。どのコップを飲むのか決めるのに使ったトランプを燃やしただなんて、どんな理由付けがされていても絶対に怪しい」
「確かに。少なくとも何か特殊なトランプが使われたんじゃないかと、調査するのが物の道理だと思います」
「うーん、まるまるすり替える方がまだましかもしれないと思えてきちゃった」
「……」
ここで不知火が不意に黙り込み、こめかみの辺りを指でこつこつと、軽くたたき始めた。
「……何か他のやり方があるような……」
「考えてくれるのはとても嬉しいけど、私、書くのに使っちゃうよ?」
「ええ、ぜひ。いいアイディアが浮かんだらお願いします。少なくとも今の自分に小説は書けませんから、水原さんの手で物語にしてもらえたら読んでみたいです」
「それでいいのなら……」
「話を戻しますが、こういうのはどうでしょう? まだ想像の部分がほとんどですけれど――」
不知火の提案を耳打ちされた水原は関心を持った。
「面白い。けれど、それだと別の方法がいるよね」
「ですね。師匠に聞いてみましょう」
二人は佐倉秀明の元へ駆け寄った。
* *
森君とのやり取りが終わったと思ったら、今度は不知火さんと水原さんがシュウさんに話し掛けた。ストリッパーデックの説明を押し付けられたことに対する不満の表明がなかなかできない。
「師匠。特定のカードを選ばせるマジックって、他にもありますか?」
「あるよ。って、まさかそれらの種も教えてくれと言うのかい?」
「できれば教えてもらいたいなーと。種はまだいいですけど、どんなのがあるかぐらいは」
「そうだなあ」
マジックとその種の話と分かり、みんなの意識が向く。
「時間がないし、準備もしてないから実演は無理だけど、一番簡単で誰にでもできる方法がある。それは」
それは……?と期待する空気が膨らんだ。私もマジックの種をまったく知らない頃だったら、ごくりと喉を鳴らしたかもしれない。
「それは、一組のトランプ全てを同じカードにするんだ」
「……ええっ?」
「特定のカード、例えばスペードのエースを引かせたいのであれば、五十二枚のカード全てをスペードのエースにしておけばいい。どんな初心者にでもできる、絶対確実な方法だよ」
私も含めて誰もが何だーっていう風にがっかりしているのに、シュウさんはお構いなしに説明する。肩すかしもいいところだわ。
つづく
他のみんなが奇術用のカードの名称だの名前の呼び方だので盛り上がって?いる間、不知火と水原は、ストリッパーデックのギミックを何度も試して面白がっていた。
「これは使える」
水原が力強く断言すると、不知火は関心を示した。
「ミステリにですか」
「ええ。たとえば誰が何番のコップの飲み物を飲むかを、トランプを引いて決めるんだとして、自分だけが抜け駆けできるし、この仕掛けを知らない一人を陥れることもできる」
「端折りすぎでよく分かりませんが、想像して補うに、複数のコップがあって、その内のどれか一つが毒入りと言いますか、誰も飲みたがらないようなひどい味だとして、そのコップを確実に回避するための方法、ですか」
「そうそう。もちろん、どのコップが毒入りかを知っていなければならないけれども、カードを引いて偶然に決められたように装うことで、疑いを回避できるというわけ」
「なるほどです。しかしそうなってくると、トランプをいかに処分するかに焦点が移ってきますね。毒殺事件なら警察の介入はほぼ間違いなく、トランプを調べられることは火を見るよりも明らか」
「そうよね。普通にすり替えても見付けられそうだし、まさか犯行後に全てのカードを同じ形に切り揃えるなんて無理でしょうし」
「切り揃えられたとしても、切り口があまりに真新しくてごまかせないでしょう」
「だね。ということは……このカードは紙製だし、燃やしちゃうのが一番」
「ああ、いい考えです。今度は燃やす理由付けが欲しいところですね」
「そうね……」
考えつつ、教室内をゆったりと見回す水原。土屋の姿を捉えたところで視線の動きが止まった。
「火を使う占いってあるのかな?」
「それは当然ありそうですけど……ははあん、土屋さんを見て思い付きましたか」
「うん。占いというよりも、おまじないになるのかな。トランプを燃やす占い、おまじないがあれば、自然な流れで特殊カードを処分できるっ」
「名探偵ならそこも気付きそうですが」
「名探偵が気付く分には全然問題ない。でも……警察だってこれは疑うよね。どのコップを飲むのか決めるのに使ったトランプを燃やしただなんて、どんな理由付けがされていても絶対に怪しい」
「確かに。少なくとも何か特殊なトランプが使われたんじゃないかと、調査するのが物の道理だと思います」
「うーん、まるまるすり替える方がまだましかもしれないと思えてきちゃった」
「……」
ここで不知火が不意に黙り込み、こめかみの辺りを指でこつこつと、軽くたたき始めた。
「……何か他のやり方があるような……」
「考えてくれるのはとても嬉しいけど、私、書くのに使っちゃうよ?」
「ええ、ぜひ。いいアイディアが浮かんだらお願いします。少なくとも今の自分に小説は書けませんから、水原さんの手で物語にしてもらえたら読んでみたいです」
「それでいいのなら……」
「話を戻しますが、こういうのはどうでしょう? まだ想像の部分がほとんどですけれど――」
不知火の提案を耳打ちされた水原は関心を持った。
「面白い。けれど、それだと別の方法がいるよね」
「ですね。師匠に聞いてみましょう」
二人は佐倉秀明の元へ駆け寄った。
* *
森君とのやり取りが終わったと思ったら、今度は不知火さんと水原さんがシュウさんに話し掛けた。ストリッパーデックの説明を押し付けられたことに対する不満の表明がなかなかできない。
「師匠。特定のカードを選ばせるマジックって、他にもありますか?」
「あるよ。って、まさかそれらの種も教えてくれと言うのかい?」
「できれば教えてもらいたいなーと。種はまだいいですけど、どんなのがあるかぐらいは」
「そうだなあ」
マジックとその種の話と分かり、みんなの意識が向く。
「時間がないし、準備もしてないから実演は無理だけど、一番簡単で誰にでもできる方法がある。それは」
それは……?と期待する空気が膨らんだ。私もマジックの種をまったく知らない頃だったら、ごくりと喉を鳴らしたかもしれない。
「それは、一組のトランプ全てを同じカードにするんだ」
「……ええっ?」
「特定のカード、例えばスペードのエースを引かせたいのであれば、五十二枚のカード全てをスペードのエースにしておけばいい。どんな初心者にでもできる、絶対確実な方法だよ」
私も含めて誰もが何だーっていう風にがっかりしているのに、シュウさんはお構いなしに説明する。肩すかしもいいところだわ。
つづく