第93話 魔法世界に奇術はあるの?

文字数 1,351文字

 不知火によく似たシーラ・ナインコットは、淡々と続けた。
「選抜隊と言ったはずです。一人では隊とは呼べないのは自明でしょう」
「だったよな」
「王宮の護衛に当たる衛士の皆さんから、我らの中からも代表者をという声が上がりました。というのも、王宮内で事件が起き、しかも速やかな解決に至らなかったため、彼らの面目は丸つぶれ。名誉挽回のチャンスを求めたところ、衛士出身の大臣の後押しと女王様たっての希望で、衛士の中から一人選ぶことになった次第です」
「今度こそ、それが俺?」
「はい。なにぶん、急なことだったので試験の準備が充分でなく、おかげで記憶が戻りきっていないみたいですが、平気でしょうか?」
「大丈夫、だと思う」
 元の記憶ってのが分からないが、森宗平としての記憶ならばっちりある。
「そんで、亡くなったのはどこのどなたさん?」
「――」
 呆れたのを通り越して、怪訝な目付きをされてしまった。
「やはり大丈夫ではない。ここは私の判断で取り消しを」
「わーっ、待て、待った」
「慌てなくても、待ちます。何か申し開きが?」
 まるっきり、罪人扱いじゃんかと憤慨を覚えた宗平だったけれども、どうにか堪える。こんな面白そうな夢、そう簡単に醒めてたまるもんか!という気持ちになっていた。
「えっとだな。そっちが認めてくれた判断力とか推理力とかは、俺が今の状態にあるからこそ、かもしれないぜ?」
「言わんとする意味が」
「おや、不知火さんでも、じゃなかった、シーラでも分からない? じゃ、やっぱり確変が起きているんだな、きっと。今の俺は記憶の一部をなくし、脳みそがまっさらな状態でいるおかげで、頭が冴えてるんだ」
「……牽強付会のきらいが色濃い理屈ですね」
「ケンキョーフカイ?」
 おうむ返ししながら、宗平は不思議な感覚を味わっていた。俺の見ている夢の中で、俺の知らない言葉がばんばん出て来るのは何でだろう? そりゃまあ、不知火さんなら知ってて当然なんだろうけど……。
「仕方がありません。時間がないことでもあるので、取り消しは取り消します。あと、どんな事件かについては、ここはお話しするにはふさわしくない場所。どこでどんな風に聞かれているか、分かったものじゃありませんから。王宮に着いてから、改めて詳細に説明するとしましょう」
 シーラは右手を上下に軽く振る仕種をした。たちまち、手の中に深緑色のステッキが現れる。
「うおっ」
「……あなたは魔法を使えない衛士だとは聞いていますが、そこまで驚くことでしょうか」
 またまた訝られた。宗平は「いやいや、久々に目の前で見たもんだから」とごまかした。
(魔法のある世界だったのか……てことは、マジック――奇術は存在しないのかな)
 てなことを漠然と思った宗平の前で、シーラはくるっと背を向けた。歩き出すのかと思いきや、そうじゃなかった。
「うん?」
 立ち止まったままの彼女に、宗平は疑問の呟きを発した。
「早く掴まってください」
「掴まる?」
「飛んで行きますから」
「あ、ああ。えっと、掴まるって二人乗りみたいに胴体……」
 相手の背中側から、両腕を回す動作を格好だけした宗平。気配を察したのか、シーラはばっ
っと音を立てて勢いよく向き直り――。

 つづく
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登場人物紹介

佐倉萌莉《さくらもり》。小学五年生。愛称はサクラ。マジック大好き。普段はどちらかと言えば引っ込み思案。

木之元陽子《きのもとようこ》。サクラの同級生。元気印で耳年増。

不知火遥《しらぬいはるか》。同級生。本好きで寡黙。大人びて少しミステリアスなところも。

佐倉秀明《さくらしゅうめい》。高校一年生。マジックが趣味。萌莉の従兄弟で憧れ。

相田克行《あいだかつゆき》。五年五組の担任。ぼさーっとしていて、よく言えば没頭型学者風、悪く言えば居候タイプ。やる気があるのかないのか。

金田朱美《かねだあけみ》。クラスは違うがサクラの友達。宝探しが夢。

土屋善恵《つちやよしえ》。同じくサクラの友達。愛称つちりん。オカルト好きだけど現実的な面もある。

水原玲《みずはられい》。サクラの同級生。推理小説好きが高じて文芸部に。

森宗平《もりそうへい》。サクラの同級生。クイズ・パズルマニア。

内藤肇《ないとうはじめ》。サクラの同級生でクラス委員長。女子からの人気高し。

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