第83話 限りなく透明に近いカップ

文字数 1,225文字

 シュウさんによるアンケートの読み込みが続いている。お次は不知火さんのだ。アンケートの回答用紙がちらっと見えたけれども……く、黒い。
「不知火さんは細かい字でたくさん書いたあと、カードマジックとコインマジックの二つに丸を付けてる。『あまりに多く、選べませんが、無理にでも選ぶとこの二つ』だって。印象に残ったマジックは、カップ&ボールを透明なカップで行うバージョン。好きなマジシャンはそのマジックをやった人。なるほど。カードとコインと言いながら、印象に残ったマジックは全く違うなんて、よほど選びづらかったのかな」
「透明なカップ&ボールって、私もテレビで見たことある。凄かったわ~」
「ジェイソン・ラテマーというマジシャンだね。最初は仲間内で冗談のつもりでやってみたら大受けしたから、本格的に極めたっていう逸話がある」
「シュウさんは種、分かるの?」
「いや、分からない。想像しているのはあるけど」
「じゃあ、やろうと思えば似たようなことはできる?」
 根掘り葉掘り聞きたくなったのは、不知火さんと水原さんに聞かれた透明なマジック、消失マジックが頭にあったから。透明なカップ&ボールって、この表現にぴったりな気がする。
「試してないから多分すぐには無理。それとあのマジックはラテマー氏の発想の勝利だからね。種が分かったとしてもおいそれとやっちゃいけないと思う」
「ふうん。色々と難しいのね」
「おっ。木之元さんはカップ&ボールって書いてる。ノーマルタイプのだ。ジャンルの方はトランプマジックかあ。彼女もばらけてるね。印象に残ったマジックと好きなマジックのジャンルとは、異なることも結構多いんだな」
「印象に残るのは、一芸に秀でてる感じ? 好みのジャンルは……全体的に好きっていうか」
 この意見にシュウさんはにっこりした。
「ユニークなたとえだね。案外、的を射ているかも」
「えへへ。次は?」
「水原さんていう、最後に入った子だね」
「そうだけど最後とは限らないよ。まだまだ入るかも」
「ごめんごめん。増えるといいな。それで推理小説を書くって子が、どんなマジックが印象に残ってるのかというと……長く書いてあったけど要は、種明かしをしていると見せて、別の新たなマジックで騙すタイプのことか。ジャンルの方は、大掛かりなイリュージョン、特に人が消えたり、瞬間移動したりするのがお好みみたいだね」
「捻ってあるか、派手なのがお気に入りってことかしら」
「どことなく推理小説に通じるような」
「かもしれない。この子の書く物語を一度、読んでみたいな」
「私もまだないから、聞いてみる。さあ、これで全員分終わったわ」
「いや、まだだ」
 意外なことを言い出すものだから、こっちは目も口も丸くしちゃってた。
「え? もしかして相田先生の分?」
「違うって。まあ、先生のも興味なくはないけど。萌莉の分がまだだよ」
「私?」
 思わず、自分で自分を指差した。

 つづく
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登場人物紹介

佐倉萌莉《さくらもり》。小学五年生。愛称はサクラ。マジック大好き。普段はどちらかと言えば引っ込み思案。

木之元陽子《きのもとようこ》。サクラの同級生。元気印で耳年増。

不知火遥《しらぬいはるか》。同級生。本好きで寡黙。大人びて少しミステリアスなところも。

佐倉秀明《さくらしゅうめい》。高校一年生。マジックが趣味。萌莉の従兄弟で憧れ。

相田克行《あいだかつゆき》。五年五組の担任。ぼさーっとしていて、よく言えば没頭型学者風、悪く言えば居候タイプ。やる気があるのかないのか。

金田朱美《かねだあけみ》。クラスは違うがサクラの友達。宝探しが夢。

土屋善恵《つちやよしえ》。同じくサクラの友達。愛称つちりん。オカルト好きだけど現実的な面もある。

水原玲《みずはられい》。サクラの同級生。推理小説好きが高じて文芸部に。

森宗平《もりそうへい》。サクラの同級生。クイズ・パズルマニア。

内藤肇《ないとうはじめ》。サクラの同級生でクラス委員長。女子からの人気高し。

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