第119話 抜きつ抜かれつ

文字数 1,337文字

 メインは宗平の意見に、自身の顎をさすり、小さく頷いた。
「なるほど……その視点は抜けていた」
 おっ。ライバルに対して初めて先行できたか? 尤も、先に着目したというだけで、具体的には何も分かってないのだけれども、とりあえず気分はいい。
「事件に関係しているのか否かも含めて、調べる価値はある。三人の容疑者以外に動機を持つ者がいれば、たとえ犯行推定時刻に魔法を使った記録がなくとも、検討せねばならない」
「その場合、犯行に魔法を使ったとは限らないと思っている?」
「ああ。いや、厳密には違うな。これまでに挙げた容疑者以外に犯人がいるのならば、そいつは魔法を使っていないんだ。記録に残っていないんだからね。そして改めて付け加えるなら、魔法を使った記録のある三人の容疑者達にしても、魔法を犯行に用いたとは限らない。少し前に君が言及したように、現場は一応密室状態だったとは言え、たとえば梯子を使えば窓から出入り可能だってね。実際には梯子の使われた形跡はなかったから、他の方法を探すことになるだろうけど」
「それなら一つだけ、頭に浮かんだ方法がある」
「興味はあるが、今は先に、侍従長が急に取り立てを厳しくした背景を探ろうじゃないか。物事を少し整理しないといけない」
「それでしたら、私達で調べてきます」
 立候補の声を上げたのはチェリー一人だったが、私達というからには……。
「私も含まれてるのかしら」
 マルタが自身を指差しながら言った。
「もちろん。時間がないないと言いつつ、ずっと会議では効率がよくないでしょ。動ける者が動かなきゃ」
「まあ、一理あるか。モリ探偵師、調べに行ってかまわない?」
「メインさんがチェリーを行かせるのなら、こっちも異存はない。――それよかメインさん、俺達は俺達で、現場と周辺を見に行くってのはどう?」
「うむ。君はまだ中を見ていないわけだし、いいと思う。移動しながら考えることだってできるんだしね」
 その返事を聞いて、宗平は席を立った。
「じゃ、善は急げということで」

 現場になったファウスト侍従長の部屋よりも先に見たいところがあると言い出すと、メインはちょっと不思議そうに目をしばたたかせた。
「それはどこ?」
 通路の中程で立ち止まり、聞いてくる。
「侍従長の部屋の真上だよ。いくつか部屋があるでしょ。そのどれかの窓からロープを垂らしでもして、伝っていけば、現場に出入り可能なんじゃないかと思ってさ。真下の部屋だって考える値打ちはあるかもしれない」
「なるほどなあ。ファウストの部屋の窓は開いていたんだから、上り下りさえできればいい」
 感心してくれたあと、「しかしそうなると」とつなげるメイン。
「許可が必要になりそうだ。あいにく、僕は現場の上下が何の部屋か、あるいは誰の部屋かをまだ把握できていない。多分、使用人の個室か共用スペースだとは思うけれども、それとて許可なしに調べていいとは限らないからね。モリ探偵師、その仮説を先に言ってくれていたら、チェリーかマルタのどちらかに頼んでいたのだが」
「……何か、ごめん」
 意見を言うのを後回しにしたことで、余計な手間を掛けたみたいだ。調子に乗りつつあった宗平は頭を下げた。

 つづく
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

佐倉萌莉《さくらもり》。小学五年生。愛称はサクラ。マジック大好き。普段はどちらかと言えば引っ込み思案。

木之元陽子《きのもとようこ》。サクラの同級生。元気印で耳年増。

不知火遥《しらぬいはるか》。同級生。本好きで寡黙。大人びて少しミステリアスなところも。

佐倉秀明《さくらしゅうめい》。高校一年生。マジックが趣味。萌莉の従兄弟で憧れ。

相田克行《あいだかつゆき》。五年五組の担任。ぼさーっとしていて、よく言えば没頭型学者風、悪く言えば居候タイプ。やる気があるのかないのか。

金田朱美《かねだあけみ》。クラスは違うがサクラの友達。宝探しが夢。

土屋善恵《つちやよしえ》。同じくサクラの友達。愛称つちりん。オカルト好きだけど現実的な面もある。

水原玲《みずはられい》。サクラの同級生。推理小説好きが高じて文芸部に。

森宗平《もりそうへい》。サクラの同級生。クイズ・パズルマニア。

内藤肇《ないとうはじめ》。サクラの同級生でクラス委員長。女子からの人気高し。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み