第219話 シンプルな、あまりにシンプルな
文字数 2,010文字
「でも魔法は使ったら記録が残るし、使用制限を掛けられている世界なんだから整理はされているんじゃないか」
「それはそうだけれど……たとえば記録に残らなくする魔法なんていうのがあったらって考え始めたら、きりがなくて」
「そこら辺は世界のことわりというかルール原則というか……信用してもらわないと話が前に進まないような」
苦笑交じりに宗平が弁明すると、金田が横から口を挟む。
「そうだよねえ。魔法の記録や制限を疑い始めたら、森君が見た夢自体を疑うようなものだから」
「それこそ勘弁してくれ~、だな」
苦笑いが止まらない。話の流れを戻さなくては。
「推理するのに何が厄介だったか、他には?」
「細かいことでいい?」
挙手したのは水原。宗平は、俺の説を先に言わないでくれと念じつつ、指名した。
「水原さん、何?」
「凶器のこと。ここでは凶器イコール毒なんだけど、何で五百円玉くらいあるような錠剤を凶器に選んだんだろうっていうのは前から疑問に感じているわ」
おっ、鋭いところを突いてきた――宗平は内心、冷や汗をかく思いだ。何故なら、彼の持って来た仮説も、毒薬が大きすぎるという疑問点が少なからず関係している。多少迷ったけれども、ここは正直に話すとしよう。
「おんなじ疑問を俺も持ってた」
「ほんとに?」
「あ、ああ。ただし、毒薬が大きいのは変じゃないかっていうのが思い付きのスタート地点にはなってないんだけど」
「? よく分かんない……」
水原は不知火と顔を見合わせた。その不知火が会話のバトンを引き継ぐ。
「何か他のことがきっかけになって、毒薬の大きさの不自然さにも説明が付く推理を思い付いた、という意味でしょうか」
「うん、そういうことになる」
「もう、どう思い付いたかはいいから、勿体ぶってないで先に推理を言ってよ」
しびれを切らしたのは木之元。頬杖を突き、空いている方の手で机の表面をこつこつ叩いている。
「いや、今、いい流れが来てるんだから。それに順を追って話すことで、推理におかしなところがあればみんなにも気付いてもらいやすいと思ってるんだが」
「どうなのかしら。まあいいわ。サクラのサークルの貴重な時間を使っていることを忘れずに。説明をちゃっちゃと済ませて」
その言い分を聞いて、宗平は理解した。木之元がいらいらして急かしてくるのは、佐倉のためを思ってのことなんだなと。
(どうやら俺は悪者らしい。佐倉が作ったマジックのサークルで、あんまりマジックと関係ないことに時間を取るなってか。よし、ではマジックと関係していることを見せてやろうじゃん! ……もう少しあとになるけども)
「俺が閃くきっかけになったのは、天井からの泡だ」
「ますます分かんない」
困惑げな声で水原がぽつりと反応する。
「風呂に入っているときに、ふとした拍子にシャンプーの泡が天井に付いたんだ」
「どんな拍子よ」
木之元、金田の二人がほとんどシンクロしてつっこむ。
「細かいことは気にするな、省く。とにかく天井に付着した泡が、ちょっとした時間差で俺の顔に落ちてきた。それから少しあとに、もう一つのことが浮かんで、結び付いたって言えばいいのか、とにかく閃いた」
「また勿体ぶる……。もう一つのことをすっと言えばいいのよ、すっと」
それもそうだなと、遅まきながら理解した宗平。
(名探偵がドラマや映画の中で勿体ぶるのが、何となく分かった気がする。気分がいいからじゃないか、名探偵達 )
「もう一つっていうのは、夢の中の事件のこと。覚えてるかな? 事件が起きた部屋の天井、水玉模様になってたんだよ」
「覚えてる」
全員がうなずいていた。
「そこのところだけ変に浮いているっていうか、やけにファンシーだなって印象深かったから」
「そうそう。もしかして森君の寝室も水玉柄なのかしらなんて思ったくらいで、記憶に残って忘れようがないわ」
そんな風に思われていたのか、俺って……と、密かにショックを受ける。
「あるわけねーだろ、んなこと。持ち物に水玉模様のが全然ないとは言い切れないが、天井や壁は普通の白だぞ」
「はいはい、分かりました。早く続きを」
「……そこで俺は思った。水玉模様とコインの形をした毒薬って、カムフラージュできるんじゃないかってね」
「カムフラージュって……重ねてごまかすってこと? 大きさが違う気がするんだけど」
水原が聞いてきた。恐らく、全員の抱いた疑問点だろう。
「模様と毒の大きさは関係ないんだ。発想したきっかけってだけだから。要するに、天井に毒薬を張り付けて、気付かれなければいいってこと。気付かれないためには大きさも大事だろうけれど、それ以上に大事な要素があるだろ」
「色、ね」
「俺もそれだと思う。色さえ似せておけば、毒薬の厚みは大したことないし、下からなら気付かれにくい、だろ?」
つづく
「それはそうだけれど……たとえば記録に残らなくする魔法なんていうのがあったらって考え始めたら、きりがなくて」
「そこら辺は世界のことわりというかルール原則というか……信用してもらわないと話が前に進まないような」
苦笑交じりに宗平が弁明すると、金田が横から口を挟む。
「そうだよねえ。魔法の記録や制限を疑い始めたら、森君が見た夢自体を疑うようなものだから」
「それこそ勘弁してくれ~、だな」
苦笑いが止まらない。話の流れを戻さなくては。
「推理するのに何が厄介だったか、他には?」
「細かいことでいい?」
挙手したのは水原。宗平は、俺の説を先に言わないでくれと念じつつ、指名した。
「水原さん、何?」
「凶器のこと。ここでは凶器イコール毒なんだけど、何で五百円玉くらいあるような錠剤を凶器に選んだんだろうっていうのは前から疑問に感じているわ」
おっ、鋭いところを突いてきた――宗平は内心、冷や汗をかく思いだ。何故なら、彼の持って来た仮説も、毒薬が大きすぎるという疑問点が少なからず関係している。多少迷ったけれども、ここは正直に話すとしよう。
「おんなじ疑問を俺も持ってた」
「ほんとに?」
「あ、ああ。ただし、毒薬が大きいのは変じゃないかっていうのが思い付きのスタート地点にはなってないんだけど」
「? よく分かんない……」
水原は不知火と顔を見合わせた。その不知火が会話のバトンを引き継ぐ。
「何か他のことがきっかけになって、毒薬の大きさの不自然さにも説明が付く推理を思い付いた、という意味でしょうか」
「うん、そういうことになる」
「もう、どう思い付いたかはいいから、勿体ぶってないで先に推理を言ってよ」
しびれを切らしたのは木之元。頬杖を突き、空いている方の手で机の表面をこつこつ叩いている。
「いや、今、いい流れが来てるんだから。それに順を追って話すことで、推理におかしなところがあればみんなにも気付いてもらいやすいと思ってるんだが」
「どうなのかしら。まあいいわ。サクラのサークルの貴重な時間を使っていることを忘れずに。説明をちゃっちゃと済ませて」
その言い分を聞いて、宗平は理解した。木之元がいらいらして急かしてくるのは、佐倉のためを思ってのことなんだなと。
(どうやら俺は悪者らしい。佐倉が作ったマジックのサークルで、あんまりマジックと関係ないことに時間を取るなってか。よし、ではマジックと関係していることを見せてやろうじゃん! ……もう少しあとになるけども)
「俺が閃くきっかけになったのは、天井からの泡だ」
「ますます分かんない」
困惑げな声で水原がぽつりと反応する。
「風呂に入っているときに、ふとした拍子にシャンプーの泡が天井に付いたんだ」
「どんな拍子よ」
木之元、金田の二人がほとんどシンクロしてつっこむ。
「細かいことは気にするな、省く。とにかく天井に付着した泡が、ちょっとした時間差で俺の顔に落ちてきた。それから少しあとに、もう一つのことが浮かんで、結び付いたって言えばいいのか、とにかく閃いた」
「また勿体ぶる……。もう一つのことをすっと言えばいいのよ、すっと」
それもそうだなと、遅まきながら理解した宗平。
(名探偵がドラマや映画の中で勿体ぶるのが、何となく分かった気がする。気分がいいからじゃないか、
「もう一つっていうのは、夢の中の事件のこと。覚えてるかな? 事件が起きた部屋の天井、水玉模様になってたんだよ」
「覚えてる」
全員がうなずいていた。
「そこのところだけ変に浮いているっていうか、やけにファンシーだなって印象深かったから」
「そうそう。もしかして森君の寝室も水玉柄なのかしらなんて思ったくらいで、記憶に残って忘れようがないわ」
そんな風に思われていたのか、俺って……と、密かにショックを受ける。
「あるわけねーだろ、んなこと。持ち物に水玉模様のが全然ないとは言い切れないが、天井や壁は普通の白だぞ」
「はいはい、分かりました。早く続きを」
「……そこで俺は思った。水玉模様とコインの形をした毒薬って、カムフラージュできるんじゃないかってね」
「カムフラージュって……重ねてごまかすってこと? 大きさが違う気がするんだけど」
水原が聞いてきた。恐らく、全員の抱いた疑問点だろう。
「模様と毒の大きさは関係ないんだ。発想したきっかけってだけだから。要するに、天井に毒薬を張り付けて、気付かれなければいいってこと。気付かれないためには大きさも大事だろうけれど、それ以上に大事な要素があるだろ」
「色、ね」
「俺もそれだと思う。色さえ似せておけば、毒薬の厚みは大したことないし、下からなら気付かれにくい、だろ?」
つづく