第126話 魔法が当たり前の世界で占いは?

文字数 1,323文字

 えっ、と声にならない叫びを短く上げた宗平。
 いや、何も慌てる必要は全くない。今し方、外の壁を上り下りした可能性を否定したばかりじゃないか。五階の部屋をチェリーが使っていようが、捜査に支障はない。そもそも、仮にチェリーが捜査線上に浮上したとしても、気を揉む理由が宗平にあるだろうか。
 そんな風に頭では分かっていても、思わず天井を仰ぎ見た宗平だった。
(うん?)
 見上げた先の天井が、水玉模様だったことに目をぱちくりさせる宗平。焦げ茶色をした天井板に、白い丸が点々とある。サイズは手のひら大だろうか。描いてあるのか、何らかの物体を備え付けているのかは分からない。さっきまで気付かなかったが、宗平の感覚に照らし合わせると、妙にかわいらしいデザインで、緊急時用の部屋には似合っていない。
「あれは王様の趣味?」
 思わず、指差して聞いた。他の三人が天井を見上げ、ヤーヴェが答えてくれる。
「趣味と言えば趣味ね。王様ではなく女王様が、一時期、占いの類に凝られたことがあって、その名残。ですよね、マギー王女?」
「ええ。そう聞いているわ」
 続きは王女が答える。
「母様はしばらくの間、子供ができなかったの。つまり、私達のことなんだけど。国で一番高名な占い師を呼んで、何がいけないのか、どうしたら改善されるのかを占わせたところ、どういう系統立った理論があるのかは知らないけれども、北東向きの部屋を改装せよというお告げがあったって。天から振ってくる邪気を祓い、濾し取るために白の丸をたくさん、等間隔に描きなさいっていうね。そのおかげなのか、私達が生まれたのだから文句は言えない。占いに頼ることはしなくなった今でも、感謝の念を忘れないために残してある次第よ」
「魔法的な意味はないんだ?」
「ええ。私に言わせれば気休めですね。悪く言ってるのではなくてよ。心理的に、母様によい影響をもたらしたのだから、立派なものです」
 その口ぶりに小さなとげは含んでいるけれども、マギー王女は占いを認めているようだ。
(魔法が当たり前にある世界なのに、占いは信じる人と信じない人がいるなんて、何となく不思議だな)
 宗平は我ながら妙な感想を抱いたなと思いつつ、ついでに聞いた。
「北東の部屋は全部これになってる?」
「そのはず――よね、ヤーヴェ?」
「はい。女王様から指示がない限り、天井に描かれた模様に手を加えられることはありません。モリ探偵師、これが何か事件に関係あると?」
「い、いや。不釣り合いだなと感じただけで、深い意味はないよ。……ただ、何故か気になる。これまでに聞いた話と重ね合わせて、何か引っかかるというか」
 思い起こそうと努力してみたが、うまくいかない。他にも調べなければいけないこと、確認の必要なことが山積みのような気がする。
「さて、次はどうしようか」
 部屋を出たところで、メイン探偵師が宗平に話を振った。試す雰囲気が口ぶりから感じられる。
「五階や二階の部屋も調べようか」
「いや、さっきの雨の話で、ひとまず壁登り説は引っ込めるよ。足の裏を壁に吸着したり剥がせたりを思いのままにできる道具があれば別だけど」
「それこそ魔法だね」

 つづく
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登場人物紹介

佐倉萌莉《さくらもり》。小学五年生。愛称はサクラ。マジック大好き。普段はどちらかと言えば引っ込み思案。

木之元陽子《きのもとようこ》。サクラの同級生。元気印で耳年増。

不知火遥《しらぬいはるか》。同級生。本好きで寡黙。大人びて少しミステリアスなところも。

佐倉秀明《さくらしゅうめい》。高校一年生。マジックが趣味。萌莉の従兄弟で憧れ。

相田克行《あいだかつゆき》。五年五組の担任。ぼさーっとしていて、よく言えば没頭型学者風、悪く言えば居候タイプ。やる気があるのかないのか。

金田朱美《かねだあけみ》。クラスは違うがサクラの友達。宝探しが夢。

土屋善恵《つちやよしえ》。同じくサクラの友達。愛称つちりん。オカルト好きだけど現実的な面もある。

水原玲《みずはられい》。サクラの同級生。推理小説好きが高じて文芸部に。

森宗平《もりそうへい》。サクラの同級生。クイズ・パズルマニア。

内藤肇《ないとうはじめ》。サクラの同級生でクラス委員長。女子からの人気高し。

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