「辻沢日記 12」
文字数 1,516文字
オトナから辻沢に来いと指示を受けて行くと、勝手にゲームにエントリーされてて、サバゲーかなと高を括って参加したら早速死にそうになった。
何をしていいのかもわからずじめついた青墓の木立の間をうろうろしているところを、背後から蛭人間に爪を突き立てられてその場に昏倒した。……らしい。
気づいた時には上体を包帯で巻かれてベットにうつぶせで横たわってた始末。
第5野戦病院とかいう陰気くさい負傷者収容所で看護師から、
「くらった場所が肩甲骨でよかったね。でなかったら即死だったよ」
とさらっと言われた。
ゲームっていう設定はどこ行ったんだと思った。
「どうしてここに?」
「だってしかたないでしょ、出玉が全部やられちゃったんだから」
ゲームを続けたかったとかじゃなくって。
「アワノナルトって凄腕二人組が現れてね」
本日のエネミー、数十体の蛭人間が全滅させられたという。
それがユウのPTだということが分かるまでそんなにかからなかった。
アワノナルトが参戦するようになってから、定期開催やイベントの延期や中止が頻発して『スレーヤー・R』の運用に支障が出ているらしかった。
それに、アワノナルトが現れるという噂が立つと、どうせポイントが独占されると、他のスレーヤーたちが参戦を見送ったり、しまいに退会してしまったりしてインフラの維持にまで影響が出始めていたという。
たしかにあたしが噂を頼りに参加するようになってからも、はじめはあんなにいたスレーヤーたちがだんだん減ってゆく感じがあった。
オトナはそれをあたしに何とかしろというのだ。
あたしにユウが制御できると? 出来るわけない。
とはいえユウのこととなると来てしまうのが鬼子使いの性で、こうしてのこのことゲーム会場に足を運んでる始末。
宮木野神社は、日が暮れると昼のまったりとした雰囲気とは打って変わって陰気な場所となる。
ここがプレイフィールドというわけでもないのに、境内の空気の底によどんだ腐臭があって、それがこれまでにゲームで流された血汚泥の夥しさを彷彿とさせた。
ここは定期開催『スレーヤー・R』の時にいつも集合する場所だ。
スレイヤーたちは境内の東側に寄って集まっていて、なんとなくそのはずれの演舞台を気にしながら思い思いの準備をしている。
そこは運営会社の関係者が登壇し開催を宣言する場所になっているからだけれど、今日はどうしてかその予兆すら感じさせないほど舞台上が暗い。
そういえば開催時間の8時をもう30分近く過ぎていて、すでに参加者の中にもざわつく連中が出始めた。
あたしはその中をうろうろしながら、ユウの姿を探した。
ただユウが一般のスレーヤーに交じって普通に参加するとは考えにくい。
どこかに潜んでゲーム開始の合図を待っているか、すでにフィールドにいて蛭人間を駆逐し始めているかだ。
「おいおい、また中止か?」
「有給取ってきたんだけど、おれ」
「ドタキャンありきって、ありえなくね?」
「3回に1回は中止って、どんな定期だよ」
「しかたなくない? 玉がなきゃパチンコ屋だって開店しないだろ」
一瞬その連中の間に沈黙が広がった。
誰かがぼそりと言った。
「パチンコ屋に玉がない状況笑」
失笑が漏れる。
「うるさいな、例えだろーが」
「クソな例え。草生える」
笑いの輪がさざ波のように広がり、しばしのあいだ境内を明るくした。
笑いが引いて再び境内が静けさに支配された時、突然、参加者全員のスマフォがけたたましく警告音を鳴り響かせ始めた。
みんな一斉にスマフォを手にしてスレイヤーR・アプリを開く。
マップがメインのこのアプリは蛭人間が出没する位置をマーキングして示す。
「なんだ、なんだ。開催宣言なしで出玉か?」
みんな慌てて荷物を担ぎ始めたのだった。
何をしていいのかもわからずじめついた青墓の木立の間をうろうろしているところを、背後から蛭人間に爪を突き立てられてその場に昏倒した。……らしい。
気づいた時には上体を包帯で巻かれてベットにうつぶせで横たわってた始末。
第5野戦病院とかいう陰気くさい負傷者収容所で看護師から、
「くらった場所が肩甲骨でよかったね。でなかったら即死だったよ」
とさらっと言われた。
ゲームっていう設定はどこ行ったんだと思った。
「どうしてここに?」
「だってしかたないでしょ、出玉が全部やられちゃったんだから」
ゲームを続けたかったとかじゃなくって。
「アワノナルトって凄腕二人組が現れてね」
本日のエネミー、数十体の蛭人間が全滅させられたという。
それがユウのPTだということが分かるまでそんなにかからなかった。
アワノナルトが参戦するようになってから、定期開催やイベントの延期や中止が頻発して『スレーヤー・R』の運用に支障が出ているらしかった。
それに、アワノナルトが現れるという噂が立つと、どうせポイントが独占されると、他のスレーヤーたちが参戦を見送ったり、しまいに退会してしまったりしてインフラの維持にまで影響が出始めていたという。
たしかにあたしが噂を頼りに参加するようになってからも、はじめはあんなにいたスレーヤーたちがだんだん減ってゆく感じがあった。
オトナはそれをあたしに何とかしろというのだ。
あたしにユウが制御できると? 出来るわけない。
とはいえユウのこととなると来てしまうのが鬼子使いの性で、こうしてのこのことゲーム会場に足を運んでる始末。
宮木野神社は、日が暮れると昼のまったりとした雰囲気とは打って変わって陰気な場所となる。
ここがプレイフィールドというわけでもないのに、境内の空気の底によどんだ腐臭があって、それがこれまでにゲームで流された血汚泥の夥しさを彷彿とさせた。
ここは定期開催『スレーヤー・R』の時にいつも集合する場所だ。
スレイヤーたちは境内の東側に寄って集まっていて、なんとなくそのはずれの演舞台を気にしながら思い思いの準備をしている。
そこは運営会社の関係者が登壇し開催を宣言する場所になっているからだけれど、今日はどうしてかその予兆すら感じさせないほど舞台上が暗い。
そういえば開催時間の8時をもう30分近く過ぎていて、すでに参加者の中にもざわつく連中が出始めた。
あたしはその中をうろうろしながら、ユウの姿を探した。
ただユウが一般のスレーヤーに交じって普通に参加するとは考えにくい。
どこかに潜んでゲーム開始の合図を待っているか、すでにフィールドにいて蛭人間を駆逐し始めているかだ。
「おいおい、また中止か?」
「有給取ってきたんだけど、おれ」
「ドタキャンありきって、ありえなくね?」
「3回に1回は中止って、どんな定期だよ」
「しかたなくない? 玉がなきゃパチンコ屋だって開店しないだろ」
一瞬その連中の間に沈黙が広がった。
誰かがぼそりと言った。
「パチンコ屋に玉がない状況笑」
失笑が漏れる。
「うるさいな、例えだろーが」
「クソな例え。草生える」
笑いの輪がさざ波のように広がり、しばしのあいだ境内を明るくした。
笑いが引いて再び境内が静けさに支配された時、突然、参加者全員のスマフォがけたたましく警告音を鳴り響かせ始めた。
みんな一斉にスマフォを手にしてスレイヤーR・アプリを開く。
マップがメインのこのアプリは蛭人間が出没する位置をマーキングして示す。
「なんだ、なんだ。開催宣言なしで出玉か?」
みんな慌てて荷物を担ぎ始めたのだった。