「辻沢日記 48」
文字数 1,567文字
あたしのクロエ評を聞くと、ミユキがスマホを出しながら言った。
「反省するようにメッセージ入れておくね」
「ちょと待って、ミユキのでしたらやばくない? だってあたしといたのだし」
「そっか」
しっかりしてそうで、こういうところがミユキなのだった。
警戒心がない。
「あたしのスマホ明日まで貸しといてあげるから、これでやり取りしなよ」
「ありがと、ついでにそのパーカーもお願いしていい? 意識の閾(いき)に鉢合わせするとやばいから」
鬼子は潮時で発現しても間もなくは人としての意識を残していて、その時のことを目覚めてから思い出すことがある。
その状態で辻沢にいるはずのないミユキと対面したとしたらクロエは混乱するだろうし、最悪の場合クロエが鬼子を自覚しかねない。
大袈裟に思われるかもしれないが、あたしは鬼子が潮時に鬼子使いを意識することが自覚のきっかけになるんじゃないかと思っている。
あたしとユウがそうであったように。
ユウは自覚する前の潮時の朝、まじまじとあたしの顔を見てこう言った。
「昨日の夜、地下道でミユウと一緒だった」
あたしはそれを、
「夢ででしょ」
と受け流そうとしたけれど、
「違うよ、現実でだよ。だってミユウの靴の音を聞いたもん。地下道に響いてた」
と言った。
ユウは会った時から耳がすごくよかった。どんな人の足音も聞き分けることが出来た。
「なんでわかるの?」
って聞いたら、
「色で」
と言った。ユウは音が色で聞こえるらしかった。
それを知ってから潮時の時は靴を変えたり、靴底に工夫をしたり、わざと歩調を崩したりと細心の注意を払うようしてたのだけれど、自覚してからそれについて話した時、
「わかるよ、そんなんじゃ」
と、笑いながら言った。
「見えるからね。音主の姿」
つまり、すべてオミトオシだったのだ。
でも、さすがに鬼子となって大暴れしてるときには何も感じないと言っていた。
だから鬼子使いは鬼子が意識の閾にいるかいないかの見極めが重要なのだ。
そうは言っても鬼子使いができることなど、気付かれないようにステルスするか、最初からオールに付き合うかのどちらかしかない。
ミユキはこれまで後者でやってきた。
そういうことだからクロエの目が誤魔化せるのならば協力は惜しまない。
大事なカレー☆パンマンのパーカーだけど貸してあげることにした。
駅のコインロッカーに女子会前に預けておいたリュックを取リに行く。
中は着替えのTシャツやタオル。
潮時用に準備しておいた物だ。
ペットボトルも買い足しておく。それとおにぎりも。
時間を見て間に合いそうなので、バスで大曲まで移動する。
「バイパス大曲交差点まで」
(ゴリゴリーン)
時間が時間だから乗客はまばらだった。
バイパスに入る前に皆さん降りてしまって、あたしだけになった。
〈次はバイパス大曲交差点。ヤオマンホテル・バイパス店へお越しの方はこちらでお降りください〉
(ゴリゴリーン)
気味の悪い地下道を通ってシャトー大曲へ。
どうせまた後で来るんだろうけど。
シャトー大曲の地下駐車場に赤いスポーツカーはまだ来ていなかった。
待っていようと奥に進むと、白いスポーツカーが停めてある。
辻沢では見かけない高級車なので、もしやと思って近づいてみると、やはりユウが乗っていた。
急いでそこから立ち去ろうとしたが思いとどまった。
というのも、あたしはこれまでユウの潮時を遠くから見守ってきた。
考えてみればユウもあたしが付いて来ていることは知っているのだし、あたしも遠くからでなくミユキのようにオールでがっつり付き合うのもありかなと思った。
だから車の側まで行ってウインドウの中を覗いてみた。
車の中でユウは背もたれを傾けて目をつぶっていた。
胸が激しく上下している。
そろそろ発現の時なのかも知れない。
躊躇したが、ユウに一言この間の申し開きをしたくなって窓を叩いた。
「反省するようにメッセージ入れておくね」
「ちょと待って、ミユキのでしたらやばくない? だってあたしといたのだし」
「そっか」
しっかりしてそうで、こういうところがミユキなのだった。
警戒心がない。
「あたしのスマホ明日まで貸しといてあげるから、これでやり取りしなよ」
「ありがと、ついでにそのパーカーもお願いしていい? 意識の閾(いき)に鉢合わせするとやばいから」
鬼子は潮時で発現しても間もなくは人としての意識を残していて、その時のことを目覚めてから思い出すことがある。
その状態で辻沢にいるはずのないミユキと対面したとしたらクロエは混乱するだろうし、最悪の場合クロエが鬼子を自覚しかねない。
大袈裟に思われるかもしれないが、あたしは鬼子が潮時に鬼子使いを意識することが自覚のきっかけになるんじゃないかと思っている。
あたしとユウがそうであったように。
ユウは自覚する前の潮時の朝、まじまじとあたしの顔を見てこう言った。
「昨日の夜、地下道でミユウと一緒だった」
あたしはそれを、
「夢ででしょ」
と受け流そうとしたけれど、
「違うよ、現実でだよ。だってミユウの靴の音を聞いたもん。地下道に響いてた」
と言った。
ユウは会った時から耳がすごくよかった。どんな人の足音も聞き分けることが出来た。
「なんでわかるの?」
って聞いたら、
「色で」
と言った。ユウは音が色で聞こえるらしかった。
それを知ってから潮時の時は靴を変えたり、靴底に工夫をしたり、わざと歩調を崩したりと細心の注意を払うようしてたのだけれど、自覚してからそれについて話した時、
「わかるよ、そんなんじゃ」
と、笑いながら言った。
「見えるからね。音主の姿」
つまり、すべてオミトオシだったのだ。
でも、さすがに鬼子となって大暴れしてるときには何も感じないと言っていた。
だから鬼子使いは鬼子が意識の閾にいるかいないかの見極めが重要なのだ。
そうは言っても鬼子使いができることなど、気付かれないようにステルスするか、最初からオールに付き合うかのどちらかしかない。
ミユキはこれまで後者でやってきた。
そういうことだからクロエの目が誤魔化せるのならば協力は惜しまない。
大事なカレー☆パンマンのパーカーだけど貸してあげることにした。
駅のコインロッカーに女子会前に預けておいたリュックを取リに行く。
中は着替えのTシャツやタオル。
潮時用に準備しておいた物だ。
ペットボトルも買い足しておく。それとおにぎりも。
時間を見て間に合いそうなので、バスで大曲まで移動する。
「バイパス大曲交差点まで」
(ゴリゴリーン)
時間が時間だから乗客はまばらだった。
バイパスに入る前に皆さん降りてしまって、あたしだけになった。
〈次はバイパス大曲交差点。ヤオマンホテル・バイパス店へお越しの方はこちらでお降りください〉
(ゴリゴリーン)
気味の悪い地下道を通ってシャトー大曲へ。
どうせまた後で来るんだろうけど。
シャトー大曲の地下駐車場に赤いスポーツカーはまだ来ていなかった。
待っていようと奥に進むと、白いスポーツカーが停めてある。
辻沢では見かけない高級車なので、もしやと思って近づいてみると、やはりユウが乗っていた。
急いでそこから立ち去ろうとしたが思いとどまった。
というのも、あたしはこれまでユウの潮時を遠くから見守ってきた。
考えてみればユウもあたしが付いて来ていることは知っているのだし、あたしも遠くからでなくミユキのようにオールでがっつり付き合うのもありかなと思った。
だから車の側まで行ってウインドウの中を覗いてみた。
車の中でユウは背もたれを傾けて目をつぶっていた。
胸が激しく上下している。
そろそろ発現の時なのかも知れない。
躊躇したが、ユウに一言この間の申し開きをしたくなって窓を叩いた。