「書かれた辻沢 30」
文字数 1,827文字
サキの元へ近づいて行くと、
「どこ行ってた? ショルダーバック置きっぱで。ウチはヘッドライトの充電切れちゃってさ、スマフォも言うこと聞いてくれないし、フジノジョシって呼んでも返事ないし、やっと夜が明けたと思ったら、こんな知らないところにひとりでいて」
取り乱し中だった。
「あたしも道に迷って」
とにかく杉の木からサキをひっ剥がしてここを出ることにする。
涸れ沢の斜面を登り、丘陵地が平地になるあたりに出た。
ようやく見覚えのある場所になった。
ここから森の中の獣道を行けば湿った落ち葉の小道に出る。
それから明るいほうを目指して行けばチケットをもらった広場だ。
サキと歩いている途中、興味深い記憶の糸に出くわした。
それはサキのおばさんの記憶の糸だった。
夜にここを通った時は見えなかったものだ。薬指を近づけて読んでみる。
サキのおばさんは確かに青墓に何度も足を踏み入れていた。死に場所を探してだ。
しかし、いつも死にきれずに家に戻るということを繰り返していた。
その側にサキの記憶の糸も見えた。
それにはおばさんへの思いも記されてあった。
その終端が、家にいるところを何者かに襲われ命を落としたというものだった。
おばさんの最後は青墓ではなかった。
「どうした? 急に立ち止まって」
サキの声で我に返る。
「知ってたんだ。おばさんが青墓にいないこと」
「何? 怖い怖い」
とサキは大げさに驚いて、あたしから目をそらした。
サキはおばさんなんて探してはいなかった。
それはいい。都合が悪い時、肉親を口実に使うのは人の常だから。
するとなおさら『スレイヤー・R』を義務感でやってると言ったのは気になる。
大学の単位欲しさにということなら、こんなに怖がりなサキが何でわざわざという気がするからだ。
あたしは真意を知りたいと思ってサキの視線を追いかけた。
するとサキは、ばつが悪くなったのか急にスマフォに目をやり、
「あれ、スマフォ直ってる」
と言った。
「出玉止まってる。ほら」
こちらにスマフォのマップ画面を見せてきた。
あんなにあったマップ上の赤い点はすっかり消えて、フィールド領域を示す緑の画面だけが表示されていた。
「祭り終わったのかな?」
「多分。でも終了の通知来てないんだよね」
あたしもスマフォを確認してみる。
スマフォはちゃんと電源が入っていて、アンテナも2本まで立っていた。
クロエとユウさんはどうしたろう。
クロエの位置情報を確認すると、まだ青墓にいるようだった。
あたしはクロエの様子を知りたくなった。急に鬼子使いを思い出したみたいだけど。
しかし、そこへサキを連れて行くというのも違うなと思った。
取りあえず二人で青墓を出てからサキに別れを告げて戻って来ることにする。
駐車場までの道では、夜通し戦い抜いたらしいスレイヤーの一群と一緒になった。
棒や木刀で体を支えたり、仲間の肩を借りてやっと歩いている人たちも沢山いた。
そうでない人も青ざめた顔で黙り込み、笑顔の人はひとりもいなかった。
そしてほとんどの人が体のどこかに包帯を巻いている。
包帯には赤黒く血が滲み、中には肘から先がない人までいた。
「ひどい。ほんと戦場みたい」
「ああ、今回は特にひどいけど、いつもこんな感じ」
いつも?
「ほとんどの人がまた戻ってくるけどね」
リピーターってこと? こんなになってまで?
この人達はこんな危ない目に遭って、どうしてここに来続けようと思えるんだろう。
まったく分からない心理だった。
こうしてあたしとサキは戦傷者の重い足取りに交ざって駐車場まで出てきたのだった。
バス停は思った通り人で溢れかえっていた。
「こりゃダメだね。歩こうか」
それを見てサキが言った。
あたしはそれを受けて、
「あたしちょっと用を思いだしたから先に帰っててくれる?」
と言うと、サキはいぶかしげな表情をして、
「フジノジョシ。何か企んでるだろ」
何も企んでいないけれども。
「わかった。レアドロップ拾いに行くつもりだな」
サキが言うには蛭人間がごく希にアイテムをドロップすることがあるという。
特に今回のように大量に出現したときには、倒したスレイヤーが拾いきれずにフィールドに残っていることもあるそうだ。
あたしのショルダーバッグについてる、この缶バッチとかの類いらしい。
「それが狙いだ。ミユウから聞いてたな」
全然ちがうけども。
「バレちゃった?」
「分かるしょ、フツー」
こうして、あたしとサキは一緒に激戦地の中心へと向かったのだった。
「どこ行ってた? ショルダーバック置きっぱで。ウチはヘッドライトの充電切れちゃってさ、スマフォも言うこと聞いてくれないし、フジノジョシって呼んでも返事ないし、やっと夜が明けたと思ったら、こんな知らないところにひとりでいて」
取り乱し中だった。
「あたしも道に迷って」
とにかく杉の木からサキをひっ剥がしてここを出ることにする。
涸れ沢の斜面を登り、丘陵地が平地になるあたりに出た。
ようやく見覚えのある場所になった。
ここから森の中の獣道を行けば湿った落ち葉の小道に出る。
それから明るいほうを目指して行けばチケットをもらった広場だ。
サキと歩いている途中、興味深い記憶の糸に出くわした。
それはサキのおばさんの記憶の糸だった。
夜にここを通った時は見えなかったものだ。薬指を近づけて読んでみる。
サキのおばさんは確かに青墓に何度も足を踏み入れていた。死に場所を探してだ。
しかし、いつも死にきれずに家に戻るということを繰り返していた。
その側にサキの記憶の糸も見えた。
それにはおばさんへの思いも記されてあった。
その終端が、家にいるところを何者かに襲われ命を落としたというものだった。
おばさんの最後は青墓ではなかった。
「どうした? 急に立ち止まって」
サキの声で我に返る。
「知ってたんだ。おばさんが青墓にいないこと」
「何? 怖い怖い」
とサキは大げさに驚いて、あたしから目をそらした。
サキはおばさんなんて探してはいなかった。
それはいい。都合が悪い時、肉親を口実に使うのは人の常だから。
するとなおさら『スレイヤー・R』を義務感でやってると言ったのは気になる。
大学の単位欲しさにということなら、こんなに怖がりなサキが何でわざわざという気がするからだ。
あたしは真意を知りたいと思ってサキの視線を追いかけた。
するとサキは、ばつが悪くなったのか急にスマフォに目をやり、
「あれ、スマフォ直ってる」
と言った。
「出玉止まってる。ほら」
こちらにスマフォのマップ画面を見せてきた。
あんなにあったマップ上の赤い点はすっかり消えて、フィールド領域を示す緑の画面だけが表示されていた。
「祭り終わったのかな?」
「多分。でも終了の通知来てないんだよね」
あたしもスマフォを確認してみる。
スマフォはちゃんと電源が入っていて、アンテナも2本まで立っていた。
クロエとユウさんはどうしたろう。
クロエの位置情報を確認すると、まだ青墓にいるようだった。
あたしはクロエの様子を知りたくなった。急に鬼子使いを思い出したみたいだけど。
しかし、そこへサキを連れて行くというのも違うなと思った。
取りあえず二人で青墓を出てからサキに別れを告げて戻って来ることにする。
駐車場までの道では、夜通し戦い抜いたらしいスレイヤーの一群と一緒になった。
棒や木刀で体を支えたり、仲間の肩を借りてやっと歩いている人たちも沢山いた。
そうでない人も青ざめた顔で黙り込み、笑顔の人はひとりもいなかった。
そしてほとんどの人が体のどこかに包帯を巻いている。
包帯には赤黒く血が滲み、中には肘から先がない人までいた。
「ひどい。ほんと戦場みたい」
「ああ、今回は特にひどいけど、いつもこんな感じ」
いつも?
「ほとんどの人がまた戻ってくるけどね」
リピーターってこと? こんなになってまで?
この人達はこんな危ない目に遭って、どうしてここに来続けようと思えるんだろう。
まったく分からない心理だった。
こうしてあたしとサキは戦傷者の重い足取りに交ざって駐車場まで出てきたのだった。
バス停は思った通り人で溢れかえっていた。
「こりゃダメだね。歩こうか」
それを見てサキが言った。
あたしはそれを受けて、
「あたしちょっと用を思いだしたから先に帰っててくれる?」
と言うと、サキはいぶかしげな表情をして、
「フジノジョシ。何か企んでるだろ」
何も企んでいないけれども。
「わかった。レアドロップ拾いに行くつもりだな」
サキが言うには蛭人間がごく希にアイテムをドロップすることがあるという。
特に今回のように大量に出現したときには、倒したスレイヤーが拾いきれずにフィールドに残っていることもあるそうだ。
あたしのショルダーバッグについてる、この缶バッチとかの類いらしい。
「それが狙いだ。ミユウから聞いてたな」
全然ちがうけども。
「バレちゃった?」
「分かるしょ、フツー」
こうして、あたしとサキは一緒に激戦地の中心へと向かったのだった。