「辻沢ノーツ 21」
文字数 2,099文字
気持ち悪くなって布団から飛び起きて、おトイレに駆け込んで吐いた。
たぶん夜中に何回も繰り返したんだろう、もう吐くものなんか胃に残ってない。
便器の前で拝む。どうか助けて神様仏様ランダ様。
なんとか治まって立ち上がると頭がめっちゃガンガンしてる。
お願いする相手間違えたみたい。
扉を開けて外に出ると、キッチンにフジミユが立っているってことは、ここはあたしの家じゃない。
フジミユたちの部屋だ。
やばい。「同居人さん」に迷惑かけちゃったかな。
ドアの隙間から見えた感じ、ご不在の様子。
よかったこんな姿見せられないよ。って、バレバレか、もはや。
え? ちらっと見えたあの制服、REGIN♡IN♡BLOODSのじゃない?
どれどれ、やっぱそうだ。
「恋血」の時ので、腕章に星が三つあるから、夜野まひるのだ。
いいな、どこで買ったんだろう。
ゲードル好きなのはこの間知ったけど、RIBにもはまってたなんて。
あたしの夜野まひる体験といえば、大学に入ってすぐ、RIBの6thシングル『ヴァレンタイン 流血上等!』(ヴァレ血)の握手会の抽選で、ダメもとで送ったら夜野まひるに当選した。
あたしは初めての握手会が本命に当選して浮かれてた。
けれどネットで調べたら、夜野まひるの握手会の対応は塩どころか、取りつく島もなく触れれば凍り付くというところから氷壁と言われていると知った。
当日、ど緊張のままブースに入ったら、
「あら、いらっしゃい」
って言われて、案外親しげで逆にびっくりしてしまって、言いたいことも言えずにしどろもどろになってたら剥がされた。
夜野まひるのその時の印象は、メディアで観てた以上に色が白くって、透き通るような肌をしてた。
目は金色のカラコンして、トレードマークの銀髪がまるで水あめ細工のようにきらきらしてた。
でも触った手はすごく冷くって、そこだけは氷だった。
フジミユの部屋に戻って布団の上に寝転ぶ。
本棚しかない6畳の和室。
窓はすりガラスで外の様子は見えないけれど明るかった。
多分昼近いのだと思う。
「大丈夫?」
フジミユが台所からしゃがれ声で言う。
「なんかゴメンね」
あたしの喉もガラガラだ。
「いいよ」
コップを手にしたフジミユが部屋に入って来る。
「これ飲みなよ。気持ち悪いの治るよ」
オレンジジュースのよう。
「ありがとう」
伏し拝む気持ちでコップに口を付けると、おぇへ、超甘い。
「嫌いだった?」
「ううん。めっちゃ甘い」
「はちみつ入りだから」
そ、なんだ。とりあえず飲まなきゃな状況。
「フジミユ、その声どうしたの?」
「カラオケで2時間歌いまくったでしょ。覚えてないの?」
「『夏祭り』歌ったような」
「最後はそればっか。何かあった? 夏祭り」
普通の高校生してたらあったかもだけど、あたしにはそんな乙女な出来事なんてなかった。
ただひたすらおばーちゃんに心配かけた3年間だったから。
フジミユに厄介になるのはこれで何回目だろう。
何度こんなふうにフジユミの部屋で目が覚めたことか。
でなければ遠隔地で目覚めてフジミユに迎えに来てもらったり。
ほとんど月一のご恒例状態。
ごめんね。フジミユだって嫌だよね。
でさ、相談なんだけど、もうちょっと横になってていい?
気づいたらタオルケットが掛かってて、外はきっと夕焼け空が広がってるんだろう、すりガラスが赤く染まってる。
やっと体が起こせるまで快復した。頭が痛いのも和らいだかな。
暗くなった部屋を見回す。
フジミユがいない。
スマホに着信ある。
「夕飯の買い物に行きます」
本棚に寄っかかろうとしたら、痛った、なんか頭に刺さった。
クリアファイルの角だった。
本棚から引き抜いて見ると変なキャラクターのイラスト入り。
ハンプティーダンプティー? みたいだけど違うな。
手の爪がエグイほど凶器だし。
ゲーム? アニメかな。
フジミユ、ゲームしないからアニメだ、きっと。
でもあたしこんなキャラ出て来るアニメ知らない。
まだまだだね、あたしのオタク道。
「ただいま。起きてる? 塩にぎり買って来たよ」
フジミユ帰って来た。
どんだけお世話になってるんだか、あたし。
フジミユがいつも作ってくれるコンビニの海苔なし塩おにぎりをだし汁で溶いたおかゆ。
あたしが好きだからっていつも作ってくれるけど、違うんだ。
フジミユが作ってくれたから好きになった。
でも今日は一口しか食べられなかった。
「ほんとにごめんね」
「いいよ」
いつもありがと。
「昨日は人のことばっかり聞いてたけど、クロエのほうはどうなの? フィールド」
「まだ、挨拶行っただけだから」
「いいの?」
いいって?
「他の2人はもう何度か行ってるみたいだよ」
嘘、知らない。
「ミユウは山椒の収穫手伝うって先週から行ってるし、サキなんて、ごっつい荷物持って3日に1回の割で往復してるみたいよ」
そうなんだ。
あたしだけリポートにかまけてたんだ。それにしても、なんで2人ともそのこと言ってくれなかったんだろう。
「きっと、遠慮したんだよ」
リポート出来てなかったから? ハブられてないかな、あたし。
そろそろ帰らなきゃ。
「夏休みの間お別れだね。メッセージ送るね」
フジミユならきっと濃い調査するんだろな。
あたしは不安しかない。
たぶん夜中に何回も繰り返したんだろう、もう吐くものなんか胃に残ってない。
便器の前で拝む。どうか助けて神様仏様ランダ様。
なんとか治まって立ち上がると頭がめっちゃガンガンしてる。
お願いする相手間違えたみたい。
扉を開けて外に出ると、キッチンにフジミユが立っているってことは、ここはあたしの家じゃない。
フジミユたちの部屋だ。
やばい。「同居人さん」に迷惑かけちゃったかな。
ドアの隙間から見えた感じ、ご不在の様子。
よかったこんな姿見せられないよ。って、バレバレか、もはや。
え? ちらっと見えたあの制服、REGIN♡IN♡BLOODSのじゃない?
どれどれ、やっぱそうだ。
「恋血」の時ので、腕章に星が三つあるから、夜野まひるのだ。
いいな、どこで買ったんだろう。
ゲードル好きなのはこの間知ったけど、RIBにもはまってたなんて。
あたしの夜野まひる体験といえば、大学に入ってすぐ、RIBの6thシングル『ヴァレンタイン 流血上等!』(ヴァレ血)の握手会の抽選で、ダメもとで送ったら夜野まひるに当選した。
あたしは初めての握手会が本命に当選して浮かれてた。
けれどネットで調べたら、夜野まひるの握手会の対応は塩どころか、取りつく島もなく触れれば凍り付くというところから氷壁と言われていると知った。
当日、ど緊張のままブースに入ったら、
「あら、いらっしゃい」
って言われて、案外親しげで逆にびっくりしてしまって、言いたいことも言えずにしどろもどろになってたら剥がされた。
夜野まひるのその時の印象は、メディアで観てた以上に色が白くって、透き通るような肌をしてた。
目は金色のカラコンして、トレードマークの銀髪がまるで水あめ細工のようにきらきらしてた。
でも触った手はすごく冷くって、そこだけは氷だった。
フジミユの部屋に戻って布団の上に寝転ぶ。
本棚しかない6畳の和室。
窓はすりガラスで外の様子は見えないけれど明るかった。
多分昼近いのだと思う。
「大丈夫?」
フジミユが台所からしゃがれ声で言う。
「なんかゴメンね」
あたしの喉もガラガラだ。
「いいよ」
コップを手にしたフジミユが部屋に入って来る。
「これ飲みなよ。気持ち悪いの治るよ」
オレンジジュースのよう。
「ありがとう」
伏し拝む気持ちでコップに口を付けると、おぇへ、超甘い。
「嫌いだった?」
「ううん。めっちゃ甘い」
「はちみつ入りだから」
そ、なんだ。とりあえず飲まなきゃな状況。
「フジミユ、その声どうしたの?」
「カラオケで2時間歌いまくったでしょ。覚えてないの?」
「『夏祭り』歌ったような」
「最後はそればっか。何かあった? 夏祭り」
普通の高校生してたらあったかもだけど、あたしにはそんな乙女な出来事なんてなかった。
ただひたすらおばーちゃんに心配かけた3年間だったから。
フジミユに厄介になるのはこれで何回目だろう。
何度こんなふうにフジユミの部屋で目が覚めたことか。
でなければ遠隔地で目覚めてフジミユに迎えに来てもらったり。
ほとんど月一のご恒例状態。
ごめんね。フジミユだって嫌だよね。
でさ、相談なんだけど、もうちょっと横になってていい?
気づいたらタオルケットが掛かってて、外はきっと夕焼け空が広がってるんだろう、すりガラスが赤く染まってる。
やっと体が起こせるまで快復した。頭が痛いのも和らいだかな。
暗くなった部屋を見回す。
フジミユがいない。
スマホに着信ある。
「夕飯の買い物に行きます」
本棚に寄っかかろうとしたら、痛った、なんか頭に刺さった。
クリアファイルの角だった。
本棚から引き抜いて見ると変なキャラクターのイラスト入り。
ハンプティーダンプティー? みたいだけど違うな。
手の爪がエグイほど凶器だし。
ゲーム? アニメかな。
フジミユ、ゲームしないからアニメだ、きっと。
でもあたしこんなキャラ出て来るアニメ知らない。
まだまだだね、あたしのオタク道。
「ただいま。起きてる? 塩にぎり買って来たよ」
フジミユ帰って来た。
どんだけお世話になってるんだか、あたし。
フジミユがいつも作ってくれるコンビニの海苔なし塩おにぎりをだし汁で溶いたおかゆ。
あたしが好きだからっていつも作ってくれるけど、違うんだ。
フジミユが作ってくれたから好きになった。
でも今日は一口しか食べられなかった。
「ほんとにごめんね」
「いいよ」
いつもありがと。
「昨日は人のことばっかり聞いてたけど、クロエのほうはどうなの? フィールド」
「まだ、挨拶行っただけだから」
「いいの?」
いいって?
「他の2人はもう何度か行ってるみたいだよ」
嘘、知らない。
「ミユウは山椒の収穫手伝うって先週から行ってるし、サキなんて、ごっつい荷物持って3日に1回の割で往復してるみたいよ」
そうなんだ。
あたしだけリポートにかまけてたんだ。それにしても、なんで2人ともそのこと言ってくれなかったんだろう。
「きっと、遠慮したんだよ」
リポート出来てなかったから? ハブられてないかな、あたし。
そろそろ帰らなきゃ。
「夏休みの間お別れだね。メッセージ送るね」
フジミユならきっと濃い調査するんだろな。
あたしは不安しかない。