「書かれた辻沢 111」

文字数 1,654文字

 ユウさんたちのところに戻ると、あたしはひだるさまの正体をみんなに伝えた。

「なるほどね」

 とユウさんとまひるさんが頷きあった。

「さすがミユキ様です。やっと解決されました」

 まひるさんが言った。

「解決?」

「ああ、だからミユウがやたらいたんだなってね」

 ユウさんが言うには、ここに来てひだるさまに遭遇するたびにミユウを目撃していたのだそうだ。

それが本物のミユウなのかひだるさまのまやかしなのかがわからず、ずっと手をこまねいていたという。

「見た目、ミユウそのものだったから判断つかなかった」

 ユウさんが見える色も、まるさんが覚えた顔貌もすべてがそっくりだった。

「そいつらを全部殺すのか?」

 アレクセイが聞いた。

 おそらくそうだろう。

伊左衛門が最後にけちんぼ池に浸かった時、あれだけ襲い来たひだるさまはいなかった。

伊左衛門は、青墓にいたすべての夕霧と伊左衛門を倒して、この青墓で唯一の存在になったからけちんぼ池にたどり着けたのじゃなかったか?

「なら、先手必勝。向こうがこのことに気が付く前にやってしまおう」

 アレクセイが言った。

 しかし、それがもう手遅れなのは、あたしには分かっていた。

 ここへ来る途中、クロエと手をつないで歩いているうち記憶の糸に触れてしまったのだった。

それはたまたまあたしのだったのだけれど、これまでのように遠くかすかな映像としてあたしには感じられた。

そしてようやくそれがあたしではない別のあたしの記憶の糸だからだと気が付くことが出来た。

時代も次元も違うからあたしにはおぼろげにしか感知できなかったのだった。

 それからその記憶の糸を時間軸にそって辿ってみた。

もしかしたら今度こそ結果を読み取れるかもしれないと思ったからだ。

読んでみたら今までどおりに青墓を彷徨っていてあたしたちと違いはなかった。

ただ、これまでと違うことが一つだけ付け加わっていた。

それはあたしとまったく同じことを、時代と次元の違うあたしも気づいたということだ。しかもついさっきのこととして。

 他の記憶の糸も読んでみたが、どれもまったく同じだった。

あたしだけの気づきと思ったことは、青墓にいるあたしたちすべてが知った事実となってしまっていた。

 すべてのことがすべてのグループに同時に起こっている。

それがここの環境そのものなのだった。

「この青墓にひだるさまが集まって、最後のひとグループになることを同時に競うんですね」

 まひるさんがあたしの心を読んで言った。

「まるでバトロワのようです」

 まひるさんが興奮気味に言った。

「バトロワ?」

「バトルロワイアルゲームのことだよ。世界中で流行っているゲームジャンルで、隔離されたフィールドで他のプレイヤーと戦って最後の一人を目指すんだ。『ドンかつ』とか『ビクロイ』って聞いたことない?」

 クロエが説明してくれた。

「これはゲームじゃ……」

 と言いかけてやめたけど遅かった。

「あ、またやってしまいました。本当にゲーム女は性懲りないです」

 とまひるさんが面目なさそうにしたのだった。

 でも、まひるさんの浮かれた様子が、本当は辛い気持ちの裏返しということがあたしには分かってしまった。

「しー」

 まひるさんは、あたしに向かってそのことは内緒にという仕草をした。

 そのこと。この青墓にはあたしたちのあらゆるバージョンが偏在している。

それは逆を言えばその他の人はこの青墓には存在しないということだ。

つまり、まひるさんが探しているコトハさんはこの青墓にはいないのだ。

「全部殺してしまったらミユウはどうなるのかな?」

 クロエが心配そうに言った。

 確かにそうだった。

全てのグループをせん滅できたとして、あたしたちのミユウまで消えてしまったのでは意味がない。

 みんながユウさんを見た。ユウさんなら答えを持っていそうだったからだ。

ユウさんは何か考える様子をしたあと、

「分かんないや。トリマ、手あたり次第仕留めるとしよう」

 と黒木刀を手にすると、木々の間から異様に溢れ出てきたひだるさまの群れに飛び掛かって行ったのだった。


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