「辻沢ノーツ 45」

文字数 965文字

 JKたちがバスを降りて行ってしばらくして、大きなカーブが見えてきた。

ここを大曲と言って、曲がり切ったところから雄蛇ヶ池に差し掛かる。

ヤオマンホテル・バイパス店はその曲りはなにある。

〈次はバイパス大曲交差点。ヤオマンホテル・バイパス店へお越しの方はこちらでお降りください〉

(ゴリゴリーン)

バスを降りるとバイパスの向こう側にお城の形の建物があってすぐ分かった。

なんだかいかがわしい系のホテルっぽいけど、ほんとにミヤミユあんな所に泊まってたの?
 
 向う側に行くにはバイパスの下を通る地下道を使わなければならなさそうだった。

地下道に下りると、中はじめついていて、外の暑さからは考えられないくらいヒヤッとしている。

電灯はついているけどぼやっとして暗いし、床にはところどころ緑の苔のようなものが浮いていて汚らしい。

真ん中あたりで横道と交差しているけれど、それがどこに通じているかは先の方が暗くて分からなかった。

急ぎ足で地下道を出ると、温かいお日様の光のおかげで元気が戻って来たような気がした。

正面のホテルの敷地に入る。

フロントどこだろ。

階段登って玄関から入ると、待合みたいなロビーがあって、コーナーのあれがフロントか。

フロントのカウンターには呼び鈴も置いてなかった。

「すみません。あのー、すみません」

奥から出てきたのは、頭の禿げたおじさんで、目がドロッとしててなんだか気味が悪い。

こういうところによくいるタイプの人だ。

「勝手に上がりなよ。部屋知ってんだろ。あんた新人かい?」

「新人って?」

「マッサージだろ」

「違うよ」

「なら、デリか。俺もあんたにお願いしたいもんだね。いくらだい? 高いんだろ?」

「違うし。風俗じゃないから」

「あっと、これは失礼しました。えっと、休憩ですか? お連れの方はどちらに?」

「それも違う」

「なら何?」

「人を訪ねて来ました。905号室の人に会いたいんです」

「905号? そんな部屋番号ないよ。あんた。ひょっとしてヤオマンホテルを訪ねて来たとか?」

「そうです」

そのフロントのおじさんは、クククと笑いながら、

「よくいるんだよね。あんたみたいなの。間違ってるよ。それはこの裏だ。ここはシャトー大曲。ラブホだ。外観見たら分かると思うんだけどね」

いっそいで外に出てきた。

スゴク恥ずかしかった。

照りつける夏の太陽がやけに痛かった。
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