「書かれた辻沢 98」
文字数 1,424文字
何か衝撃があってから始動するかと思ったら、意外にすんなり進み始めた。
「条件を満たしたっていうことでいいのかな」
とあたしが言うと、
「そうだといいけど」
ユウさんも、あたしと同じように拍子抜けしたようだった。
その後、縁を超えて石畳に乗り上げるのには相当の馬力が必要だったようで、まめぞうさんとさだきちさんの体が引きちぎれるのじゃないかと思うほどに荒縄に締め付けられていた。
そして、杉林の奥からはバモスくんの悲鳴が響いていた。
それでも石畳の入口が内側に傾斜していたおかげなのか、多少のごろた石を崩しはしたもののなんとかクリアすることができた。
参道に入ったら血なまぐさい空気が杉の香りに一変した。
杉木立の中を見るとたくさんの人影が見える。先ほどまですり鉢の縁にいた辻沢の人たちがこちらに移動して来たようだった。
縁を乗り越えたこともそうだが、社殿の船体が横倒しにならず、まるで海上を行くがの如くに安定しているのは、辻沢が味方してくれているからだと理解した。
船底とごろた石とが擦れて起きる耳触りな音以外に、この道行を邪魔立てするものはいなくなった。
最初はゆっくりと航行していた社殿が速度を上げて滑りだす。
荒縄の緊張が解けて、まめぞうさんとさだきちさんが参道の外に出て逆に引きずられているのが見えた。
「まめぞうたちを解放しよう」
とユウさんが言った。
みんな激しく同意、持っていた荒縄を離す。
荒縄は社殿の中で鞭のように暴れてから、外に出て後方に消えて行った。
ただし2本だけだ。
残ったのは先導していたバモスくんのもの。
姿は見えないけれどエンジンの音らか推して、社殿に追いかけらているのだ。
この先は三本柱の鳥居だ。
バモスくんもギリギリ通れるかどうかの幅しかない。
社殿の船高は鳥居の上、絶対にくぐれない。
このまま行けば、バモスくんもろとも鳥居に激突して船体は粉々だ。
しかし勢いは増すばかり。
バモスくんもお尻を舳につつかれてるかも。
「みんなどこかに掴まれ!」
次第に揺れが増してくる。立っていられず柱や勾欄にしがみついて船外にはじき出されないようにこらえた。
頼みの辻沢はこの状況が分かっているのだろうか?
杉木立に目を向けても風景が後方に飛んでいくのが見えるだけだった。
だんだん、最悪の状況が近づいてくる。
激突したとき船体に食い込む中柱に押しつぶされないようにしよう。
「行くぞ!」
ユウさんが言ったけれど、本当に行けるのか?
「大丈夫。通り抜けられます」
まひるさんの心の声が聞こえた気がした。
「頑張る!」
クロエがそれに答える。
社殿は相変わらず大揺れだった。
そんな中で、ユウさんが柱から手を放してまひるさんの手を取った。
まひるさんが勾欄から離れてクロエと手を繋ぐ。
そしてクロエも同じように柱から身を放して、あたしの手を取ってくれた。
4人が階の上で横並びに手を繋いで、迫る来る鳥居に相対して立ったのだった。
その時、あたしの反対の手に触れる者がいた。
さっきまで中で潮垂れていたアレクセイだった。
「僕も一緒に」
と言う。
この子と共にけちんぼ池に行くことには、最初からずっと戸惑いを感じている。
ユウさんはじめ、まひるさんとクロエもあたしの顔を見ている。
悩んでる時間はなかった。
「じゃあ、一緒で」
と手を握り返す。
目前に鳥居が迫る。社殿の勢いは止まらない。
ユウさんが叫ぶ。
「条件は揃えた。エニシよ、答えを聞こうか!」
あたしたちは、今まさにその解を突き付けたのだった。
「条件を満たしたっていうことでいいのかな」
とあたしが言うと、
「そうだといいけど」
ユウさんも、あたしと同じように拍子抜けしたようだった。
その後、縁を超えて石畳に乗り上げるのには相当の馬力が必要だったようで、まめぞうさんとさだきちさんの体が引きちぎれるのじゃないかと思うほどに荒縄に締め付けられていた。
そして、杉林の奥からはバモスくんの悲鳴が響いていた。
それでも石畳の入口が内側に傾斜していたおかげなのか、多少のごろた石を崩しはしたもののなんとかクリアすることができた。
参道に入ったら血なまぐさい空気が杉の香りに一変した。
杉木立の中を見るとたくさんの人影が見える。先ほどまですり鉢の縁にいた辻沢の人たちがこちらに移動して来たようだった。
縁を乗り越えたこともそうだが、社殿の船体が横倒しにならず、まるで海上を行くがの如くに安定しているのは、辻沢が味方してくれているからだと理解した。
船底とごろた石とが擦れて起きる耳触りな音以外に、この道行を邪魔立てするものはいなくなった。
最初はゆっくりと航行していた社殿が速度を上げて滑りだす。
荒縄の緊張が解けて、まめぞうさんとさだきちさんが参道の外に出て逆に引きずられているのが見えた。
「まめぞうたちを解放しよう」
とユウさんが言った。
みんな激しく同意、持っていた荒縄を離す。
荒縄は社殿の中で鞭のように暴れてから、外に出て後方に消えて行った。
ただし2本だけだ。
残ったのは先導していたバモスくんのもの。
姿は見えないけれどエンジンの音らか推して、社殿に追いかけらているのだ。
この先は三本柱の鳥居だ。
バモスくんもギリギリ通れるかどうかの幅しかない。
社殿の船高は鳥居の上、絶対にくぐれない。
このまま行けば、バモスくんもろとも鳥居に激突して船体は粉々だ。
しかし勢いは増すばかり。
バモスくんもお尻を舳につつかれてるかも。
「みんなどこかに掴まれ!」
次第に揺れが増してくる。立っていられず柱や勾欄にしがみついて船外にはじき出されないようにこらえた。
頼みの辻沢はこの状況が分かっているのだろうか?
杉木立に目を向けても風景が後方に飛んでいくのが見えるだけだった。
だんだん、最悪の状況が近づいてくる。
激突したとき船体に食い込む中柱に押しつぶされないようにしよう。
「行くぞ!」
ユウさんが言ったけれど、本当に行けるのか?
「大丈夫。通り抜けられます」
まひるさんの心の声が聞こえた気がした。
「頑張る!」
クロエがそれに答える。
社殿は相変わらず大揺れだった。
そんな中で、ユウさんが柱から手を放してまひるさんの手を取った。
まひるさんが勾欄から離れてクロエと手を繋ぐ。
そしてクロエも同じように柱から身を放して、あたしの手を取ってくれた。
4人が階の上で横並びに手を繋いで、迫る来る鳥居に相対して立ったのだった。
その時、あたしの反対の手に触れる者がいた。
さっきまで中で潮垂れていたアレクセイだった。
「僕も一緒に」
と言う。
この子と共にけちんぼ池に行くことには、最初からずっと戸惑いを感じている。
ユウさんはじめ、まひるさんとクロエもあたしの顔を見ている。
悩んでる時間はなかった。
「じゃあ、一緒で」
と手を握り返す。
目前に鳥居が迫る。社殿の勢いは止まらない。
ユウさんが叫ぶ。
「条件は揃えた。エニシよ、答えを聞こうか!」
あたしたちは、今まさにその解を突き付けたのだった。