「辻沢日記 34」
文字数 1,605文字
鬼子神社の構成は、外鳥居から数十メートルの石畳の参道と両脇の杉並木、途切れたところがすり鉢状の窪地になっていて、斜面を降りる石段、底面に中鳥居、前庭、社殿というもの。
社殿は拝殿、本殿の区別はない。調査はパートに区切って実測し、野帳に実測結果の数値をとどめ、四ツ辻にもどって図面化するという作業を繰り返す。期日はお盆までの完了を目指す。
持参したものは、コンベックス(メジャーのこと)、A3方眼のスケッチブック(野帳)、筆記用具で、シャープペンは重さのあるのが書きやすくて、あたしはPentelのSMASH0.5と言うのを使ってる。
一本1500円もする高価なものだからなくすとショックがでかい(2回どこかに置き忘れたことある涙)。
写真・動画等、映像記録はすべてスマフォですます。角度の計測にも使用。
それと仮止めテープ。これは鞠野フスキに見せてもらった『図集』に、あると便利とあったから。
レーザー距離計は持って行っちゃだめだよと鞠野フスキからくぎを刺されてるからなし。
まずは社殿から調査する。
方法はひたすらコンベックスをあてて図り野帳のスケッチブックに書き込むのみ。
まず野帳に間取り図を書いて準備する。間取りは8畳ほどの空間が3間ある。
手前から10cmほど高低差があって、奥へ行くほど高くなっている。
奥の間には、右手と左手隅に手すりがあって、そこだけ床の色が他と違うところから推して、床下に下りる階段だったのかもしれない。
後ほど調査することにする。
出来れば床を剥がして中を確認したいが、それには辻沢町役場の教育委員会に許可を貰わなければならない。
格子天井の上も調査するつもりだが、梯子がないことを理由に今回はあきらめることにする。
というか屋根裏はネズミとかスズメバチとかに遭遇する確率が高いからムリ。
で、さっきから上で物音がするんだよね、ごそごそと。ネズミにしては大きめなのがいるみたい。
「誰?」
絶対人間でしょ。
「住人に挨拶無しってのはどうかな」
天蓋の隅板が外れ、そこからスッとした足が出て来たと思ったら、床に小動物のような物体がストッと現れた。
ユウだった。
「住人なの? ホントに?」
「まあね、嫌な奴が来ないからね、ここは」
あの日以来のユウはずいぶんと小柄に見えた。ショートだった髪の毛も、さらに刈り上げて短くなっていた。
「ミユウ、もうちょっと用心しなよ」
「なんで? ユウだってこんなぼろ屋に女の子ひとりでいるじゃない」
「まあ、そうだけどさ。ミユウはすぐ、ほら」
そう、あたしはすぐヴァンパイアの気を引いてしまう。
このあいだのバス停もそうだし、中学の頃の志野婦神社もそうだ。
あたしは彼らからするとおいしそうなのかもしれない。
「まあ、この中にいればあいつらは入ってこれないけど」
ヴァンパイアに有り勝ちの呼び込まないと入れない習性ばかりでなく、この鬼子神社自体がある種の結界になっているらしい。
それは紫子さんから教えてもらっていた。
そもそも鬼子はヴァンパイアを魅了しやすいと聞く。
今はほとんど没交渉だけど元は眷属だったという説もある。
それよりももっと陰惨な言い伝えを聞いたことも。
鬼子の集落である四ツ辻がサンショウ農家の集まりなのもヴァンパイアを寄せ付けない安全をもとめてのことと聞いた。
気休めらしいけれど、古来四ツ辻でヴァンパイアに襲われたという事例はないらしい。
「屍人はいやだな。あの世にいけずに未来永劫彷徨い歩くんでしょ」
もし潮時のユウに狩り殺されたとしても成仏できるわけじゃない。
何度でも青墓のどこかで屍人として復活する。
実際、あのことがあってからも地下道や青墓でサツキちゃんに出会っている。
「屍人にしろヒダルにしろ、どっちもごめんだよ」
屍人とヒダル、よく似ている。
屍人はバンパイアの餌食になったもの、ヒダルは行旅死亡人の残留思念。
発生は異なるけれど死して濁世に囚われている点では同じだ。
社殿は拝殿、本殿の区別はない。調査はパートに区切って実測し、野帳に実測結果の数値をとどめ、四ツ辻にもどって図面化するという作業を繰り返す。期日はお盆までの完了を目指す。
持参したものは、コンベックス(メジャーのこと)、A3方眼のスケッチブック(野帳)、筆記用具で、シャープペンは重さのあるのが書きやすくて、あたしはPentelのSMASH0.5と言うのを使ってる。
一本1500円もする高価なものだからなくすとショックがでかい(2回どこかに置き忘れたことある涙)。
写真・動画等、映像記録はすべてスマフォですます。角度の計測にも使用。
それと仮止めテープ。これは鞠野フスキに見せてもらった『図集』に、あると便利とあったから。
レーザー距離計は持って行っちゃだめだよと鞠野フスキからくぎを刺されてるからなし。
まずは社殿から調査する。
方法はひたすらコンベックスをあてて図り野帳のスケッチブックに書き込むのみ。
まず野帳に間取り図を書いて準備する。間取りは8畳ほどの空間が3間ある。
手前から10cmほど高低差があって、奥へ行くほど高くなっている。
奥の間には、右手と左手隅に手すりがあって、そこだけ床の色が他と違うところから推して、床下に下りる階段だったのかもしれない。
後ほど調査することにする。
出来れば床を剥がして中を確認したいが、それには辻沢町役場の教育委員会に許可を貰わなければならない。
格子天井の上も調査するつもりだが、梯子がないことを理由に今回はあきらめることにする。
というか屋根裏はネズミとかスズメバチとかに遭遇する確率が高いからムリ。
で、さっきから上で物音がするんだよね、ごそごそと。ネズミにしては大きめなのがいるみたい。
「誰?」
絶対人間でしょ。
「住人に挨拶無しってのはどうかな」
天蓋の隅板が外れ、そこからスッとした足が出て来たと思ったら、床に小動物のような物体がストッと現れた。
ユウだった。
「住人なの? ホントに?」
「まあね、嫌な奴が来ないからね、ここは」
あの日以来のユウはずいぶんと小柄に見えた。ショートだった髪の毛も、さらに刈り上げて短くなっていた。
「ミユウ、もうちょっと用心しなよ」
「なんで? ユウだってこんなぼろ屋に女の子ひとりでいるじゃない」
「まあ、そうだけどさ。ミユウはすぐ、ほら」
そう、あたしはすぐヴァンパイアの気を引いてしまう。
このあいだのバス停もそうだし、中学の頃の志野婦神社もそうだ。
あたしは彼らからするとおいしそうなのかもしれない。
「まあ、この中にいればあいつらは入ってこれないけど」
ヴァンパイアに有り勝ちの呼び込まないと入れない習性ばかりでなく、この鬼子神社自体がある種の結界になっているらしい。
それは紫子さんから教えてもらっていた。
そもそも鬼子はヴァンパイアを魅了しやすいと聞く。
今はほとんど没交渉だけど元は眷属だったという説もある。
それよりももっと陰惨な言い伝えを聞いたことも。
鬼子の集落である四ツ辻がサンショウ農家の集まりなのもヴァンパイアを寄せ付けない安全をもとめてのことと聞いた。
気休めらしいけれど、古来四ツ辻でヴァンパイアに襲われたという事例はないらしい。
「屍人はいやだな。あの世にいけずに未来永劫彷徨い歩くんでしょ」
もし潮時のユウに狩り殺されたとしても成仏できるわけじゃない。
何度でも青墓のどこかで屍人として復活する。
実際、あのことがあってからも地下道や青墓でサツキちゃんに出会っている。
「屍人にしろヒダルにしろ、どっちもごめんだよ」
屍人とヒダル、よく似ている。
屍人はバンパイアの餌食になったもの、ヒダルは行旅死亡人の残留思念。
発生は異なるけれど死して濁世に囚われている点では同じだ。