「書かれた辻沢 101」
文字数 1,707文字
こちらをねめつける金色の眼は、初めのうちは焦点がおぼろげだった。
それがはっきりと社殿の上のユウさんに合わさると、周囲のひだるさまが舷側めがけて押し寄せてきた。
ひだるさまは青墓を目指していたときのように、折り重なり踏みにじり目の前のものを切り裂きながら近づいてくる。とんでもない量の血飛沫が上がっているのが見える。
やがてそれらが社殿の船を分厚く取り囲んだ。
ひだるさまがひだるさまの体を這い上って甲板に押し入ってくる。
それを甲板のユウさんとまひるさんが一手に引き受けて、黒木刀とデコ長ドスをふるって押し返す。
クロエとあたしも、その背後に降りて黒木刀を振るうが埒があかない。
アレクセイも加勢しているが防戦一方だ。
甲板の上は荒波をかぶったように血汚泥であふれている。
黒木刀を振るう腕も感覚がまひしてきているし、血脂で滑る足場のせいで立っているのも辛い。
このまま続けば体力がなくなったものからやられていくだろう。
船外はそれ以上にひだるさまがひしめき争いあっていて、血汚泥が大波となってうねっている。
そしてそれが寄せる波になって、ついに社殿の船の進みを止めるまでになってしまった。
ユウさんが黒木刀を振るいながら叫んだ。
「まひる。打って出る!」
「分かりました」
そう言った途端、ユウさんとまひるさんは舳板を蹴ってひだるさまの海の中に飛び込んで行った。
すると、それまでクロエやあたしに襲いかかっていたひだるさまが攻撃を止め、ユウさんとまひるさんへ意識を向けると次々と甲板を降り出した。
舷側にとりついていたひだるさまも一斉に前方に向きを変えて、引き波のようにそこからいなくなった。
あたしは前方に消えたユウさんとまひるさんを探す。
ユウさんとまひるさんは、舳先のずっと先で、ワインディングロードに押し寄せるひだるさまを手当たり次第に切り伏せながら突き進んでいた。
それを無数のひだるさまが血汚泥の飛沫を上げながら追いすがってゆく。
あたしは加勢したかったが足がすくんで飛び込んでいけない。
クロエも固唾をのんで見ている。アレクセイは唖然としているばかりだった。
夕霧一行が青墓でひだるさまの攻撃に晒されたとき、まめぞうさん、さだきちさん、りすけさん、それと伊左衛門は夕霧一人をを守るために必死を覚悟した。
そこを死地と定めたからこそ、ひだるさまを殲滅し、けちんぼ池にたどり着くことができたのだ。
今、ユウさんとまひるさんは必死の境地にいる。
ユウさんはミユウのため。まひるさんはコトハさんのために。
ではあたしは? あたしは何のために死んでも戦うの?
そうするうち、ユウさんとまひるさんを追うひだるさまが血汚泥の流れを作り、それが社殿の船を動かし始めた。
はじめはゆっくりと進み出したのだったが、やがて激流となって社殿の船を押し流し始めた。
流れの勢いはひだるさまの欲望の強さだ。
故にその流れの速さはユウさんとまひるさんへの圧力のすさまじさを物語っていた。
その激流は再び青墓への道行きを確かなものにした。
もうひだるさまはあたしたちの乗る船に追いつくことは出来なさそうだった。
目の前にユウさんとまひるさんが近づいて来た。
二人はひだるさまに掴まって流れに逆らっていた。
こちらを見上げてまひるさんが、
「ユウ様、手を!」
と叫ぶと、ユウさんがその手を掴む。
そしてまひるさんがユウさんを体に引き寄せ、近くに浮いたひだるさまを八艘飛びして船内に戻ってきたのだった。
「作戦成功」
甲板に立ったユウさんが嬉しそうに言った。
「うまくいきました」
まひるさんも笑顔だ。
「もう戻って来ないかと思った」
ここぞとばかりにまひるさんに抱きつくクロエ。
羨ましかったけれど遠慮してたら、まひるさんが「いらっしゃい」をしてくれた。
お言葉に甘えてあたしもギューしてもらう。
まひるさんのいつもは冷たい掌が今はこの上なく温かく感じた。
戸惑いながら近くに立っていたアレクセイをユウさんが手招きする。
そして、アレクセイも輪に加わったのだった。
5人一緒に青墓へ。
ミユウとコトハさんを見つけてけちんぼ池へ。
何のために戦うか?
それは、このあたしの家族のために決まっている。
それがはっきりと社殿の上のユウさんに合わさると、周囲のひだるさまが舷側めがけて押し寄せてきた。
ひだるさまは青墓を目指していたときのように、折り重なり踏みにじり目の前のものを切り裂きながら近づいてくる。とんでもない量の血飛沫が上がっているのが見える。
やがてそれらが社殿の船を分厚く取り囲んだ。
ひだるさまがひだるさまの体を這い上って甲板に押し入ってくる。
それを甲板のユウさんとまひるさんが一手に引き受けて、黒木刀とデコ長ドスをふるって押し返す。
クロエとあたしも、その背後に降りて黒木刀を振るうが埒があかない。
アレクセイも加勢しているが防戦一方だ。
甲板の上は荒波をかぶったように血汚泥であふれている。
黒木刀を振るう腕も感覚がまひしてきているし、血脂で滑る足場のせいで立っているのも辛い。
このまま続けば体力がなくなったものからやられていくだろう。
船外はそれ以上にひだるさまがひしめき争いあっていて、血汚泥が大波となってうねっている。
そしてそれが寄せる波になって、ついに社殿の船の進みを止めるまでになってしまった。
ユウさんが黒木刀を振るいながら叫んだ。
「まひる。打って出る!」
「分かりました」
そう言った途端、ユウさんとまひるさんは舳板を蹴ってひだるさまの海の中に飛び込んで行った。
すると、それまでクロエやあたしに襲いかかっていたひだるさまが攻撃を止め、ユウさんとまひるさんへ意識を向けると次々と甲板を降り出した。
舷側にとりついていたひだるさまも一斉に前方に向きを変えて、引き波のようにそこからいなくなった。
あたしは前方に消えたユウさんとまひるさんを探す。
ユウさんとまひるさんは、舳先のずっと先で、ワインディングロードに押し寄せるひだるさまを手当たり次第に切り伏せながら突き進んでいた。
それを無数のひだるさまが血汚泥の飛沫を上げながら追いすがってゆく。
あたしは加勢したかったが足がすくんで飛び込んでいけない。
クロエも固唾をのんで見ている。アレクセイは唖然としているばかりだった。
夕霧一行が青墓でひだるさまの攻撃に晒されたとき、まめぞうさん、さだきちさん、りすけさん、それと伊左衛門は夕霧一人をを守るために必死を覚悟した。
そこを死地と定めたからこそ、ひだるさまを殲滅し、けちんぼ池にたどり着くことができたのだ。
今、ユウさんとまひるさんは必死の境地にいる。
ユウさんはミユウのため。まひるさんはコトハさんのために。
ではあたしは? あたしは何のために死んでも戦うの?
そうするうち、ユウさんとまひるさんを追うひだるさまが血汚泥の流れを作り、それが社殿の船を動かし始めた。
はじめはゆっくりと進み出したのだったが、やがて激流となって社殿の船を押し流し始めた。
流れの勢いはひだるさまの欲望の強さだ。
故にその流れの速さはユウさんとまひるさんへの圧力のすさまじさを物語っていた。
その激流は再び青墓への道行きを確かなものにした。
もうひだるさまはあたしたちの乗る船に追いつくことは出来なさそうだった。
目の前にユウさんとまひるさんが近づいて来た。
二人はひだるさまに掴まって流れに逆らっていた。
こちらを見上げてまひるさんが、
「ユウ様、手を!」
と叫ぶと、ユウさんがその手を掴む。
そしてまひるさんがユウさんを体に引き寄せ、近くに浮いたひだるさまを八艘飛びして船内に戻ってきたのだった。
「作戦成功」
甲板に立ったユウさんが嬉しそうに言った。
「うまくいきました」
まひるさんも笑顔だ。
「もう戻って来ないかと思った」
ここぞとばかりにまひるさんに抱きつくクロエ。
羨ましかったけれど遠慮してたら、まひるさんが「いらっしゃい」をしてくれた。
お言葉に甘えてあたしもギューしてもらう。
まひるさんのいつもは冷たい掌が今はこの上なく温かく感じた。
戸惑いながら近くに立っていたアレクセイをユウさんが手招きする。
そして、アレクセイも輪に加わったのだった。
5人一緒に青墓へ。
ミユウとコトハさんを見つけてけちんぼ池へ。
何のために戦うか?
それは、このあたしの家族のために決まっている。