「書かれた辻沢 116」
文字数 1,736文字
ユウさん、まひるさん、クロエにアレクセイ。4人によって繰り広げられる戦闘の中心にいて、あたし一人が違う世界の住人のようだった。
戦闘が途切れてみんながあたしの周りに集まるたびに、
「ミユキ、本当に大丈夫か?」
「ミユキ様、心配です」
「フジミユ、我慢してちゃだめだよ」
などと、声を掛けられた。
しまいにアレクセイまで、
「気分が悪くなったら言えよ」
と言ってくれる始末だ。
ミユウの記憶の糸は、みんながひだるさまをせん滅すればするほど太くはっきりとなった。
あたしがそれに触れる度、記憶の中のミユウはあたしに近づいてくるのだったが、あたしからは近づいて行けなかった。
それは、どこかしら屍人の手があたしの体を捉えて放さないからだ。
そして気づくと手に触れられたあたしの体の一部が透明になっている。
みんなはそのことを気遣ってくれたのだった。
あたしの透明化とミユウの記憶の糸に関係があることをユウさんに話してみた。
あたしもこのまま消えてなくなるような気がして不安になったからだ。
「わからない。でも、元に戻るのも案外早そうだ」
と言って指さしたのはあたしの足首。最初に消えた場所だった。
見ると、あたしの足首から先がもとのようにはっきり見えるようになっていた。
次の機会にミユウの記憶の糸を読むと、ミユウは道の真ん中に立って自分の足首を見ていた。
今度はそのミユウの足首が透明になっていた。
あたしの足首が復活したらミユウの足首が透明になっていたのだ。
ミユウの記憶の糸から強制離脱して自分の足首を見た。
あたしの足首に変化はなく形は見えていた。
しかし、歩こうと足を前に出したら足をくじいたように転げてしまった。
足首から先の感覚がなくなっていたのだ。
「どうしたの?」
クロエが助け起こしながら聞いた。
「この足首あたしのじゃない気がする」
クロエは不思議そうな顔をしてあたしの足元を見た。
「じゃあ誰の?」
「ミユウのかもしれない」
みんなが顔を見合わせるなか、アレクセイが言った。
「ミユウって女、お前と入れ替わろうとしてるんじゃないか?」
それはきっとみんなが思っていて、あえて口にださないことだった。
もちろんあたしもそう思っていた。
でも、いくらミユウが屍人になったとしても、あたしを犠牲にして生き返ろうとするとは考えたくなかったのだ。
「ちがうよ。きっと何か理由があるんだと思う」
とアレクセイに言ったが、自分が不安を押し殺そうと必死になっているのが分かった。
実はミユウの記憶の糸が他とは違うことは分かっていた。
これまで読んだ記憶の糸は、いつも客観視が可能な世界だった。
あたしは人の記憶を第三者として読めばよかった。その記憶の中にあたしはいなかったからだ。
でも、ここにあるミユウの記憶の糸は違った。
記憶は確かにミユウのものだったが、何故かその記憶の中にあたしがいた。
あたしがミユウの記憶の糸を読むとその中に取り込まれるてしまうようなのだった。
だからミユウは、読み手のあたしに影響を及ぼすことができる?
アレクセイに指摘されて否定はしたけれど、一番それをリアルに感じたのは当のあたし自身なのだ。
「ミユキ様、ミユウ様を信じなければ」
まひるさんの言葉があたしの錯綜する思考を遮った。
「ミユウ様がミユキ様に悪いことなどするはずがありません」
そう思いたかった。
でも、あたしは夕焼けのヤオマンホテル・大曲の部屋で、屍人だからと言ってミユウに酷いことを言ってしまっていた。
「あなたは屍人、あたしがミユウ」
あれは意味も考えず咄嗟に口に出たセリフだった。
でもそれは、双子の半身であるミユウからすれば、
「あたしは屍人、あたしはミユキ」
ということでもあるのだ。
あたしはあの時、自分のことを屍人にしてしまったのではなかったか。
それが今、こんな形で顕現するなんて……。
右手を動かしてみた。その手は形を取り戻していたけれどやはり感覚はなくなっていた。
そして、その手には薬指がなかった。
あたしはミユウに乗っ取らよとしている。戦慄でパニックになりそうだ。
「フジミユ。こっちだよ。そっちじゃないよ!」
クロエの声が遠くに聞こえる。目の前が真っ暗だ。
「もう遅いかも」
あたしは人生の選択を誤ってしまったのかもしれない。
戦闘が途切れてみんながあたしの周りに集まるたびに、
「ミユキ、本当に大丈夫か?」
「ミユキ様、心配です」
「フジミユ、我慢してちゃだめだよ」
などと、声を掛けられた。
しまいにアレクセイまで、
「気分が悪くなったら言えよ」
と言ってくれる始末だ。
ミユウの記憶の糸は、みんながひだるさまをせん滅すればするほど太くはっきりとなった。
あたしがそれに触れる度、記憶の中のミユウはあたしに近づいてくるのだったが、あたしからは近づいて行けなかった。
それは、どこかしら屍人の手があたしの体を捉えて放さないからだ。
そして気づくと手に触れられたあたしの体の一部が透明になっている。
みんなはそのことを気遣ってくれたのだった。
あたしの透明化とミユウの記憶の糸に関係があることをユウさんに話してみた。
あたしもこのまま消えてなくなるような気がして不安になったからだ。
「わからない。でも、元に戻るのも案外早そうだ」
と言って指さしたのはあたしの足首。最初に消えた場所だった。
見ると、あたしの足首から先がもとのようにはっきり見えるようになっていた。
次の機会にミユウの記憶の糸を読むと、ミユウは道の真ん中に立って自分の足首を見ていた。
今度はそのミユウの足首が透明になっていた。
あたしの足首が復活したらミユウの足首が透明になっていたのだ。
ミユウの記憶の糸から強制離脱して自分の足首を見た。
あたしの足首に変化はなく形は見えていた。
しかし、歩こうと足を前に出したら足をくじいたように転げてしまった。
足首から先の感覚がなくなっていたのだ。
「どうしたの?」
クロエが助け起こしながら聞いた。
「この足首あたしのじゃない気がする」
クロエは不思議そうな顔をしてあたしの足元を見た。
「じゃあ誰の?」
「ミユウのかもしれない」
みんなが顔を見合わせるなか、アレクセイが言った。
「ミユウって女、お前と入れ替わろうとしてるんじゃないか?」
それはきっとみんなが思っていて、あえて口にださないことだった。
もちろんあたしもそう思っていた。
でも、いくらミユウが屍人になったとしても、あたしを犠牲にして生き返ろうとするとは考えたくなかったのだ。
「ちがうよ。きっと何か理由があるんだと思う」
とアレクセイに言ったが、自分が不安を押し殺そうと必死になっているのが分かった。
実はミユウの記憶の糸が他とは違うことは分かっていた。
これまで読んだ記憶の糸は、いつも客観視が可能な世界だった。
あたしは人の記憶を第三者として読めばよかった。その記憶の中にあたしはいなかったからだ。
でも、ここにあるミユウの記憶の糸は違った。
記憶は確かにミユウのものだったが、何故かその記憶の中にあたしがいた。
あたしがミユウの記憶の糸を読むとその中に取り込まれるてしまうようなのだった。
だからミユウは、読み手のあたしに影響を及ぼすことができる?
アレクセイに指摘されて否定はしたけれど、一番それをリアルに感じたのは当のあたし自身なのだ。
「ミユキ様、ミユウ様を信じなければ」
まひるさんの言葉があたしの錯綜する思考を遮った。
「ミユウ様がミユキ様に悪いことなどするはずがありません」
そう思いたかった。
でも、あたしは夕焼けのヤオマンホテル・大曲の部屋で、屍人だからと言ってミユウに酷いことを言ってしまっていた。
「あなたは屍人、あたしがミユウ」
あれは意味も考えず咄嗟に口に出たセリフだった。
でもそれは、双子の半身であるミユウからすれば、
「あたしは屍人、あたしはミユキ」
ということでもあるのだ。
あたしはあの時、自分のことを屍人にしてしまったのではなかったか。
それが今、こんな形で顕現するなんて……。
右手を動かしてみた。その手は形を取り戻していたけれどやはり感覚はなくなっていた。
そして、その手には薬指がなかった。
あたしはミユウに乗っ取らよとしている。戦慄でパニックになりそうだ。
「フジミユ。こっちだよ。そっちじゃないよ!」
クロエの声が遠くに聞こえる。目の前が真っ暗だ。
「もう遅いかも」
あたしは人生の選択を誤ってしまったのかもしれない。