「書かれた辻沢 61」

文字数 1,929文字

 その後も、クロエとあたしは鞠野先生を加えて話をした。

 クロエは鬼子についてのいろいろは、

「なんとなく知ってた」

 と言って驚かなかった。

情報源については言わなかったけれど人から聞いたと言った。

おそらくユウさんだろう。

「ミヤミユはどうして?」

 この質問にあたしは困惑した。

クロエに成り代わったヴァンパイアに殺られたと言うべきか迷ったからだった。

「それは……」

 と言いかけると鞠野先生が、

「ヴァンパイアに襲われたんだよ。ノタくんも知ってる」

 と、ものすごく単刀直入に言った。

「え? あたしヴァンパイアに知り合いいませんけど」

 と答えた。すると鞠野先生は、唐突に、

「ノタくんは、昨日自分で撮影した動画は見てきたよね」

 と聞いた。

「はい。見ました」

 昨晩、クロエは虚ろな目をして玄関先に立ってた。ゴリプロカメラを胸に付けて。

「何が映ってたか僕たちに教えてくれるかい?」

「あたしが辻沢中を徘徊して人に迷惑を掛けて最後にここにたどり着く様子が」

 それを聞いた鞠野先生が、もう一度クロエに聞いた。

「もう少し詳しく話してほしい。覚えてる範囲でいいから」

 それからクロエはあたしたちが見た動画の通りに、細かに話して聞かせた。

どういう意図なのか分からなかったけれど、鞠野先生はそれをメモに取りながら聞いている。

 クロエが話し終わると、鞠野先生が、

「やはりノタくんはヴァンパイアに知り合いがいるみたいだね。フジノくん、ノートPCをここへ」

 そう言った。

クリエはきょとんとした顔をして、あたしがテーブルにノートPCをセットするのを見ている。

「動画を再生さて下さい」

 あたしは鞠野先生が言うのに従い動画アプリを立ち上げて、クロエのゴリプロからコピーした動画を再生させた。

「あ、そこで停めておいて」

 と言うと鞠野先生はクロエに向かってメモを示し、

「ノタくんはコンビニで追い払われた後、公園に行ったら暴漢に襲われたと話してくれたね」

「はい」

「それがこのシーンだ。観てごらん」

 あたしは停止したところから先を再生する。

 そこには公園でクロエがパジャマの少女と出会うところが映されていた。

動画ではベンチに座って何をしているのかは分からないが、その時のことは鞠野先生とあたしが茂みから目撃していたのだった。

その時クロエは公園のベンチの横に座った少女に腕を取られ血をすすられていたのだ。

「ノタくんは何でこれを今僕たちに話してくれなかったんだい?」

 たしかに先ほどのクロエの話は公園について直ぐ暴漢に襲われたような言い方をして、その前のパジャマの少女と会ったことなどすっぽり抜けていた。

「こんなところ、あたしのゴリプロには無かったから」

 そう言ったクロエの様子は明らかにおかしかった。

白目をむいて体全体を小刻みに震わせていたのだ。

「クロエ!」

 あたしが介抱しようと近づくと、クロエがきもい動きであたしに向きなおり、白目のままの眼で睨み付けてきて、

「余計な手出しをするな」

 と地獄から響くような声で言ったのだった。そして、

「この女はわたしのモノだ」

 と言ったかと思うと、クロエはソファーに横倒しになって気を失ってしまったのだった。

「使い魔にされている」

 鞠野先生がぼそりと言った。

「これではノタくんといたら、こちらの情報は筒抜けだ」

 けちんぼ池に行くにはクロエを欠くわけにはいかない。

クロエと同行するなら常にパジャマの少女に見張られることになる。

それはとても厄介なことだった。

「先生。どうすれば」

「僕にはどうすることもできないよ」

 あたしだってそうだ。どうすることもできない。

誰が助けになってくれる人はいないか? 

由香里さんやまひるさんを思い浮かべた。

会って聞いてみないことには分からなかった。

「これで辻沢はミユキ様の味方です」

 というまひるさんの言葉を思い出した。

そうか最適の人がいる。

「宮木野さんに会いに行きましょう。きっとなんとかしてくれます」

 それを聞いた鞠野先生は、

「フジノくんはとんでもないことを言う人だね。たしかに宮木野ならなんとかしてくれるだろうが、宮木野なんて伝説の登場人物だよ」

「でもあたし、この間会ったばかりです」

 それを聞いた鞠野先生は尋常でない驚き方をした後、鼻息をふんふん言わせながら、

「それ本当かい? あー四宮に言ってやりたいよ。お前が会えなかった存在に、僕の教え子が会ったぞって。ヴァンパイアを調査してたお前がな!」

「なんか、意趣返しみたいに聞こえますけど」

 そう言うと、鞠野先生は誰かを睨み付けるように空中を見て、

「だって、あいつ由香里さんを僕から……」

 と言って両の拳を固く握ったのだった。

 鞠野先生興奮しすぎです。

先生のはずい過去がダダ漏れ状態になってますから。

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