「書かれた辻沢 10」
文字数 2,382文字
「エニシが関わっている?」
ユウさんが言ったことが気になった。
「そう。はっきりしたわけではないけど」
ユウさんは、これまでずっとけちんぼ池を探し続けてきたけれど、最近になって、実はまったく逆で探させられてる気がしていると言った。
「特に、この間青墓でまめぞうたちに会って、おやって思った」
「最初はユウ様も役者が揃ったって喜んでいらっしゃいましたが」
まめぞうって夕霧物語に出てくる、お天道様の油つぎの?
「大男のアラブの人に会ったんですか?」
「アラブの人ではないが、『スレイヤー・R』でモハメッド三世、サダム、サーリフっていうハンドル名の奴らに会った。まめぞう、さだきち、りすけに名前がそっくりだろ」
あたしが「スレイヤー・R」で迷子になっていると、夜野まひるさんが
「辻沢でサバイバルゲームの体をして行われているリアル戦闘ゲームです」
なるほど、さすがゲームアイドル。
「ゲードルはもう辞めましたが、お褒めいただき嬉しいです」
え。あたし今声出してた?
「いいえ、ミユキ様が記憶の糸を読まれるように、あたしは人の心を読みます」
するとユウさんが、
「気を付けた方がいいぞ。悪口なんか考えたらあとで痛い目あわされるから」
と言った。それには夜野まひるさんは楽しそうに頷いている。
なんかすごい人と知り合いになった気がした。でもユウさんとは普通に接してるみたいだけど。
「ユウ様は心を読む必要がないのです。考えてることと言うことにまったく矛盾がないので」
と言って夜野まひるさんはユウさんを見つめている。その横顔はユウさんへの信頼が滲み出ているようだった。
「それとミユキ様、あたしのことはこれからはまひると呼んでくださいね」
そう言われて今までずっとフルネームで考えていたことに気が付いた。
わかりました、まひるさん。
「ありがとうございます」
「それでな」
ユウさんが話をもとに戻す。
「その3人というのは名前だけでなく、年恰好までまめぞうたちにそっくりだったんだ」
一人は大男で、一人はひげを蓄え、もう一人は若い男だった、さらに大男は新月刀を振り回していたそうだ。
「あまりに符牒が合いすぎると思ってね」
でも、そのまめぞうたちに激似の人たちと出会ったこととクロエのこととどのような関係があるのだろう。
「なかなか現れないけちんぼ池だから、現れるには条件をそろえなければと思ってた」
その条件が夕霧と伊左衛門、たくさんのヒダルたち、そしてまめぞうら大食人と役者が揃うことだとユウさんは考えていたという。
それらはエニシが繋ぐものだから、エニシを辿ればいつか条件をそろえられると。
「でも、けちんぼ池が本当にあるのなら、どんな行き方をしようと行けるはずだろ」
それを受けてまひるさんが、
「オープンワールドのゲームだと、ラスボスに辿り着くのにアイテムやレベル上げは必要ありません。勝てる勝てないは抜きにしても」
あたしが再び「オープンワールド」で迷子になっていることに気付いたまひるさんが、
「すみません。ついゲームで例えてしまいました」
と謝ったので、
「いいえ、あたしが色々知らなすぎるのが悪いんです」
と申し訳なくなってしまった。
「オープンワールドってのは、ゲーム世界をストーリーに縛られることなくユーザーがうろつき回れるゲームのことだよ」
とユウさんが教えてくれた。
あたしがユウさんのことをよく知ってるという目で見たからだろう、ユウさんが頭を掻きながら、
「まあ、こいつの受け売りだけどね」
と照れたのが可愛すぎた。
つまり、雄蛇ヶ池のように地図にある限り、チャリで行こうが歩いて行こうが車で行こうが、行き方を限定されることはないということのようだ。
「ところが、けちんぼ池はちがう。行きたい見たいと言ってもこちらの要求を聞いてはくれない」
逆にエニシから手順を踏めと言われているように感じるとユウさんは言った。
「クロエに扮した少女がエニシと関係があると?」
ユウさんは少し考えてから、
「エニシから役者が足りてないって言われた気がしたんだ」
足りてない役者とはいったい誰のことだろうか?
「もう一人の夕霧太夫です」
まひるさんが言ったのは夕霧太夫とそっくりの白装束の女性のことだった。
「すれ違った人」
夕霧一行が長い旅路を経てようやく辻沢に辿り着いた山中で出会った人だ。
「そう。夕霧物語に登場する人物の中で一番不可解な行動をする」
たしかに白装束の女性は、夕霧太夫と同じ顔をして「おかえり、あたし」とまで言っておいて、夕霧の頬に傷を付けて去って行く。
「クロエという子があの女と重なって見えた」
続けてまひるさんが、
「ロールプレイングゲームでも味方側のアンチというのは必要不可欠です」
と言ったので、
まひるさん、これはゲームではと言い掛けて止めたが、遅すぎた。
「あ、またやってしまいました。ゲーム女の悪い癖です」
と申し訳なさそうにしたのだった。
鞠野先生からメールが来た。
[ユウイチ そちらに行けそうにありません。バモスがレッカーで持って行かれてしまいました]
[ミユキ どうします?]
[ユウイチ 大門総合公園に先に行って待っています]
[ミユキ 分かりました]
「鞠野先生、こっちに来られなくなったみたいです」
と伝えると、
「そうなんだ。先生にいろいろ聞くのは今度でいいか」
とユウさんが言うと、
「では、あたしのところでお昼でもしませんか? もちろんミユキ様もご一緒に」
とまひるさんが言ったのに、
「了解。あの、まっずい牛乳だけはごめんだけどね」
とユウさんが答えた。
あたしは、初対面でしかも聞けば有名な人にお昼をお呼ばれしてしまってどう返事をしていいかわからなくなってしまった。
すると、まひるさんは
「どうかいらしてください。ミユキ様とはこれからも懇意にさせていただきたいので」
と言ってくれたのだった。
ユウさんが言ったことが気になった。
「そう。はっきりしたわけではないけど」
ユウさんは、これまでずっとけちんぼ池を探し続けてきたけれど、最近になって、実はまったく逆で探させられてる気がしていると言った。
「特に、この間青墓でまめぞうたちに会って、おやって思った」
「最初はユウ様も役者が揃ったって喜んでいらっしゃいましたが」
まめぞうって夕霧物語に出てくる、お天道様の油つぎの?
「大男のアラブの人に会ったんですか?」
「アラブの人ではないが、『スレイヤー・R』でモハメッド三世、サダム、サーリフっていうハンドル名の奴らに会った。まめぞう、さだきち、りすけに名前がそっくりだろ」
あたしが「スレイヤー・R」で迷子になっていると、夜野まひるさんが
「辻沢でサバイバルゲームの体をして行われているリアル戦闘ゲームです」
なるほど、さすがゲームアイドル。
「ゲードルはもう辞めましたが、お褒めいただき嬉しいです」
え。あたし今声出してた?
「いいえ、ミユキ様が記憶の糸を読まれるように、あたしは人の心を読みます」
するとユウさんが、
「気を付けた方がいいぞ。悪口なんか考えたらあとで痛い目あわされるから」
と言った。それには夜野まひるさんは楽しそうに頷いている。
なんかすごい人と知り合いになった気がした。でもユウさんとは普通に接してるみたいだけど。
「ユウ様は心を読む必要がないのです。考えてることと言うことにまったく矛盾がないので」
と言って夜野まひるさんはユウさんを見つめている。その横顔はユウさんへの信頼が滲み出ているようだった。
「それとミユキ様、あたしのことはこれからはまひると呼んでくださいね」
そう言われて今までずっとフルネームで考えていたことに気が付いた。
わかりました、まひるさん。
「ありがとうございます」
「それでな」
ユウさんが話をもとに戻す。
「その3人というのは名前だけでなく、年恰好までまめぞうたちにそっくりだったんだ」
一人は大男で、一人はひげを蓄え、もう一人は若い男だった、さらに大男は新月刀を振り回していたそうだ。
「あまりに符牒が合いすぎると思ってね」
でも、そのまめぞうたちに激似の人たちと出会ったこととクロエのこととどのような関係があるのだろう。
「なかなか現れないけちんぼ池だから、現れるには条件をそろえなければと思ってた」
その条件が夕霧と伊左衛門、たくさんのヒダルたち、そしてまめぞうら大食人と役者が揃うことだとユウさんは考えていたという。
それらはエニシが繋ぐものだから、エニシを辿ればいつか条件をそろえられると。
「でも、けちんぼ池が本当にあるのなら、どんな行き方をしようと行けるはずだろ」
それを受けてまひるさんが、
「オープンワールドのゲームだと、ラスボスに辿り着くのにアイテムやレベル上げは必要ありません。勝てる勝てないは抜きにしても」
あたしが再び「オープンワールド」で迷子になっていることに気付いたまひるさんが、
「すみません。ついゲームで例えてしまいました」
と謝ったので、
「いいえ、あたしが色々知らなすぎるのが悪いんです」
と申し訳なくなってしまった。
「オープンワールドってのは、ゲーム世界をストーリーに縛られることなくユーザーがうろつき回れるゲームのことだよ」
とユウさんが教えてくれた。
あたしがユウさんのことをよく知ってるという目で見たからだろう、ユウさんが頭を掻きながら、
「まあ、こいつの受け売りだけどね」
と照れたのが可愛すぎた。
つまり、雄蛇ヶ池のように地図にある限り、チャリで行こうが歩いて行こうが車で行こうが、行き方を限定されることはないということのようだ。
「ところが、けちんぼ池はちがう。行きたい見たいと言ってもこちらの要求を聞いてはくれない」
逆にエニシから手順を踏めと言われているように感じるとユウさんは言った。
「クロエに扮した少女がエニシと関係があると?」
ユウさんは少し考えてから、
「エニシから役者が足りてないって言われた気がしたんだ」
足りてない役者とはいったい誰のことだろうか?
「もう一人の夕霧太夫です」
まひるさんが言ったのは夕霧太夫とそっくりの白装束の女性のことだった。
「すれ違った人」
夕霧一行が長い旅路を経てようやく辻沢に辿り着いた山中で出会った人だ。
「そう。夕霧物語に登場する人物の中で一番不可解な行動をする」
たしかに白装束の女性は、夕霧太夫と同じ顔をして「おかえり、あたし」とまで言っておいて、夕霧の頬に傷を付けて去って行く。
「クロエという子があの女と重なって見えた」
続けてまひるさんが、
「ロールプレイングゲームでも味方側のアンチというのは必要不可欠です」
と言ったので、
まひるさん、これはゲームではと言い掛けて止めたが、遅すぎた。
「あ、またやってしまいました。ゲーム女の悪い癖です」
と申し訳なさそうにしたのだった。
鞠野先生からメールが来た。
[ユウイチ そちらに行けそうにありません。バモスがレッカーで持って行かれてしまいました]
[ミユキ どうします?]
[ユウイチ 大門総合公園に先に行って待っています]
[ミユキ 分かりました]
「鞠野先生、こっちに来られなくなったみたいです」
と伝えると、
「そうなんだ。先生にいろいろ聞くのは今度でいいか」
とユウさんが言うと、
「では、あたしのところでお昼でもしませんか? もちろんミユキ様もご一緒に」
とまひるさんが言ったのに、
「了解。あの、まっずい牛乳だけはごめんだけどね」
とユウさんが答えた。
あたしは、初対面でしかも聞けば有名な人にお昼をお呼ばれしてしまってどう返事をしていいかわからなくなってしまった。
すると、まひるさんは
「どうかいらしてください。ミユキ様とはこれからも懇意にさせていただきたいので」
と言ってくれたのだった。