「辻沢日記 17」
文字数 1,383文字
あたしがシャワーから出てくると、洗面台の着替え置きのラックに服が畳んであった。
「ごめんなさい。それしかなくって」
と言われて着てみたら、それはRIBの夏Song『青春血まつり!』(青血)のころの、白地にブルーのラインが鮮やかなセーラー服タイプの制服だった。
そういえばRIBは制服を個人が管理するとクロエから聞いたことがあった。
それに制服の裏地を見ると上着にもスカートにも「まひる」とネームが入っていて、それが雑な刺繍だったのがかえってゲードルの公式衣装だと実感されて震えた。
レストルームを出ると、ユウも着替えていて、それもたしか『恋の血判状』(恋血)のころの制服で、グレーのブレザーに紺の細タイ、ボックスプリーツのスカートを履いてソファーにおとなしく座っている。
どこか気恥ずかしそうにしているユウが可愛いかった。
夜野まひるには好奇心から聞きたいことがいっぱいあったけど、今は我慢することにした。
TVや週刊誌から逃れてこんな窮屈な?生活をしているのだから、あたしの質問なんてうんざりだろうから。
テーブルの上に銀座吉岡屋のマカロンとカモミールティーが用意されている。
これはきっと薫草堂だろう。一杯ウン千円するはず。
いただく前に改めて自己紹介をした。
夜野まひるの番になって、いつもの決め台詞が出るかと思ったら、
「夜野まひるです」
とだけで済んでしまった。
拍子抜けしたけど、それが普通の挨拶だと気付いて前のめりになった自分が恥ずかしくなった。
ユウは、夜野まひるは敵か味方かといえば味方だという。
そしてアワノナルトのユウギリだとも。
なら何でこの間は逃げ回ってたのか?
「こいつ言葉遣いが変だろ」
「そんな理由?」
「そうですよ。ごきげんようの何が悪いのですか?」
「きもい」
「アワノナルトだって、それでやめちゃったんですのよ。そうですわね、イザエモンさん」
イザエモンがユウのハンドルネームらしい。
「え? 運営につぶされたんじゃないの? ものすごい量の蛭人間に強襲されて」
「ええ。あのくらいならあたくし一人でもしのげましたから」
「そうなんだ」
「いいパーティーだったのに、もったいなかったですわ。あと2ポイントで妓鬼討伐ステージに行けて、超レアトロフィーゲットでしたのに」
妓鬼討伐ステージとは、『スレーヤー・R』で蛭人間を相手に戦う「蛭人間殲滅ステージ」をクリアしないと行けない上位ステージのことだ。
妓鬼とはその主要エネミーのことで、実態は辻沢のヴァンパイアのことらしい。
そもそも蛭人間殲滅ステージクリア自体が無理ゲーで、クリアポイントの半分も獲得できずに全滅するか、資金が枯渇して強制退会させられるかで、これまで一組のPTもそれを実現していない。
つまり妓鬼を実際に見たプレーヤーはいないということ。
それをこの二人、ユウギリとイザエモンは、手の届くところまで迫っていたという。
「あんたはゲームを楽しんでたみたいだけど、ボクはポイントとか超激レアトロフィーとか興味ないから」
「ゲーム女の性とでも言いましょうか、つい夢中になってしまいました。ユウ様の目的は『スレーヤー・R』攻略ではないんでしたよね」
あたしはなぜユウがこんなに『スレーヤー・R』に固執するのか考えたこともなかった。
今までこの事態の収拾だけ気にしていたから。
これも鬼子の後始末だけに腐心する鬼子使いの悪い習性なのかもしれない。
「ごめんなさい。それしかなくって」
と言われて着てみたら、それはRIBの夏Song『青春血まつり!』(青血)のころの、白地にブルーのラインが鮮やかなセーラー服タイプの制服だった。
そういえばRIBは制服を個人が管理するとクロエから聞いたことがあった。
それに制服の裏地を見ると上着にもスカートにも「まひる」とネームが入っていて、それが雑な刺繍だったのがかえってゲードルの公式衣装だと実感されて震えた。
レストルームを出ると、ユウも着替えていて、それもたしか『恋の血判状』(恋血)のころの制服で、グレーのブレザーに紺の細タイ、ボックスプリーツのスカートを履いてソファーにおとなしく座っている。
どこか気恥ずかしそうにしているユウが可愛いかった。
夜野まひるには好奇心から聞きたいことがいっぱいあったけど、今は我慢することにした。
TVや週刊誌から逃れてこんな窮屈な?生活をしているのだから、あたしの質問なんてうんざりだろうから。
テーブルの上に銀座吉岡屋のマカロンとカモミールティーが用意されている。
これはきっと薫草堂だろう。一杯ウン千円するはず。
いただく前に改めて自己紹介をした。
夜野まひるの番になって、いつもの決め台詞が出るかと思ったら、
「夜野まひるです」
とだけで済んでしまった。
拍子抜けしたけど、それが普通の挨拶だと気付いて前のめりになった自分が恥ずかしくなった。
ユウは、夜野まひるは敵か味方かといえば味方だという。
そしてアワノナルトのユウギリだとも。
なら何でこの間は逃げ回ってたのか?
「こいつ言葉遣いが変だろ」
「そんな理由?」
「そうですよ。ごきげんようの何が悪いのですか?」
「きもい」
「アワノナルトだって、それでやめちゃったんですのよ。そうですわね、イザエモンさん」
イザエモンがユウのハンドルネームらしい。
「え? 運営につぶされたんじゃないの? ものすごい量の蛭人間に強襲されて」
「ええ。あのくらいならあたくし一人でもしのげましたから」
「そうなんだ」
「いいパーティーだったのに、もったいなかったですわ。あと2ポイントで妓鬼討伐ステージに行けて、超レアトロフィーゲットでしたのに」
妓鬼討伐ステージとは、『スレーヤー・R』で蛭人間を相手に戦う「蛭人間殲滅ステージ」をクリアしないと行けない上位ステージのことだ。
妓鬼とはその主要エネミーのことで、実態は辻沢のヴァンパイアのことらしい。
そもそも蛭人間殲滅ステージクリア自体が無理ゲーで、クリアポイントの半分も獲得できずに全滅するか、資金が枯渇して強制退会させられるかで、これまで一組のPTもそれを実現していない。
つまり妓鬼を実際に見たプレーヤーはいないということ。
それをこの二人、ユウギリとイザエモンは、手の届くところまで迫っていたという。
「あんたはゲームを楽しんでたみたいだけど、ボクはポイントとか超激レアトロフィーとか興味ないから」
「ゲーム女の性とでも言いましょうか、つい夢中になってしまいました。ユウ様の目的は『スレーヤー・R』攻略ではないんでしたよね」
あたしはなぜユウがこんなに『スレーヤー・R』に固執するのか考えたこともなかった。
今までこの事態の収拾だけ気にしていたから。
これも鬼子の後始末だけに腐心する鬼子使いの悪い習性なのかもしれない。