「辻沢ノーツ 7」

文字数 1,299文字

今度はあたしが二人の袖を引く番だ。どうして?

「高校の部活、女バスだった。サキも。たまに、みんなして寮の中庭でバスケやってる」

そっか、サキもミヤミユたちと同じ学生寮だったっけ。

全然知らなかったな、そういうこと。

「ここのバスケ部、いろいろあって部員が集まらなくなってね。今、3人しかいないんだ。他校と合同チームで試合には出れるけど普段の練習が不足しててね。よかったら、あの子たちの相手してやってくれないかな?」

見ると、体育館の日の当たらない隅の方に、バスケ姿の女子が3人、ドリブルの練習をしていた。

「サクラ」

川田先生が呼ぶと、その中の一番背の高い子がこちらに走ってきた。

「この子、ウチのキャプテンのサクラ」

サクラと言われたJKがあたしたちに一礼した。

そのサクラさんは背の高さから、ポジションはきっとセンターで、どんな試合でもゴール下を完全に支配しそうな威圧感があった。

「この方たちが、あんたたちの相手してくださるんだけど」

「ホントですか? ありがとうございます」

その顔は真面目そうでどこか無邪気さが残っていて、しかもとびきりの色白だった。

あとで化粧水何使ってるか聞こう。

「練習着すぐ用意できる?」

「部室に先輩たちが置いて行ったのあります。こっち来てください」

と言うがはやいか、体育館の出口から掛け出して行った。

あたしたちは、サクラさんを追いかけて体育館横のプレハブ棟の前まで来たけれど、そこで見失った。

ミヤミユがサクラさんの名を呼ぶと、プレハブ棟の2階の手すりから身を乗り出し、

「こっちでーす」

とサクラさんが明るい声で手を振ってくれた。

錆びだらけの外階段を昇り、倒れた木机、潰れたバレーボールやフープの束に邪魔されながら廊下を歩いて女バスの部室の前まで来た。

ドアの前で待っていたサクラさんに促されて中に入ると、会議机の上に綺麗に畳んだ練習着が3セット置いてある。

あたしら3人、普通体形女子だから服のサイズの心配はないけど、バッシュはどうするんだろ。

えっと。

「バッシュ、ロッカーの前にある中からサイズ探して履いてください」

あんまり人のバッシュは履きたくないけど、この際。

着替え終わって、部室を出るとドアのところでサクラさんから白地に黒字で胸に辻女と入ったタンクトップを渡された。

「白いほうで着てください」

なるほど、黒と白のリバーシブルになっていた。

「見て、後ろに『すり潰すぞって!』あるよ」

「ウチらもこういうの作った。練習試合用のユニホーム」

ミヤミユが自分が受け取った5番のバスユニを見ながら、

「あたし4番つけたかったな」

「なんで?」

6番を着たサキが聞く。因みにあたしは8番。

「キャプテン番号付けたことないから」

バスケのゼッケンは、ジャッジサインが1、2、3を使用する関係で4番からなんだけど、その4番がキャプテンナンバーって学校が結構ある。

あたしの中学も4番だった。

「関係なくない? うちの高校、キャプテンは好きな番号もらえて、あたしの代の子は10番付けてたよ」

「来夢ちゃんだ」

「世界のトカシキになりまーす」

「「イエーイ! ハイタッチ!」」

ミヤミユもサキも楽しそう。こんなミヤミユ、見たことなかったな。
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