「辻沢日記 3」

文字数 979文字

 その時ユウが何を悟ったのかは分からないけど、それ以後はそれまで無意識界で行っていた屍人狩りを自覚的に行うようになったのだと思う。

その殺戮はさらに凄惨さを極め、ゲームで敵のNPCを大量に融かすかのようになった。

あたしはそのせいでずっと遠くで見守るしかなくなってしまった。

いつその矛先があたしに向くか分からなかったから。

ただただ、ユウが人を殺めることのないよう祈るしかなかった。

 覚醒ともいわれるその移行が、偶発的なものなのか鬼子の発達段階の一つなのかは、だれも知らない。

オトナがいうには、あたしの存在が大いに関係しているということだったが、それすら「かもしれない」だった。

「分からない。鬼子の先のことは」

世代や個々人によってまったく異なった顕現をするのが鬼子だから。

指針といえるのは「夕霧物語」くらいなのだ。

クロエはユウほどの暴虐さはないにしても、ミユキが不安になるのも分かる。

 クロエのおばあちゃんから聞いたことによると、クロエの初めての発作の時こそ30人のクラス全員を滅殺したらしいけど、それ以降は別の生き物のようになったという。

徘徊している間も、見ようによっては子供好きのお姉さん、悪くてつきまとい女だ。

今は屍人も含め人に危害を加えることはないと聞いてる。

そうだからといって、もし自覚が芽生えた後どう転ぶかなんて誰にも分からない。

だってクロエもユウと同じ鬼子なんだから。

「そういえばクロエ、調査地を辻沢にしたってけど、やっぱり鞠野フスキはクロエを辻沢にやりたかったんだろか」

「あたしも最初の演習でクロエに辻沢祭りのテーマ与えた時、これはって思ったよ」

辻沢はもとより、わざわざクロエをユウに近づけさせるって、鞠野フスキはどういうつもりなんだろう。

オトナから要請でもあったんだろうか。

それともいまのユウを止められるとでもいうんだろうか。

クロエに? まさか。

「ユウのこともあるから、あたしは辻沢ウエルカムだけど、ミユキはどうするの? 自分の調査もあるんでしょ」

「そうね。でも、これはしょうがないかな。クロエが心配だから、しばらくは辻沢で隠密行動」

「鞠野フスキの気まぐれにも困ったもんだね」

「まあ約束があるからね、ユウイチは。しかたないよ」

ミユキが窓の外を見つめてる。

真っ暗な夜空に何が映ってるの? 

ミユキ、鞠野フスキのことをユウイチって言ったの気付いてない。
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